Type A

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「何ッスかこれ…!」


黄瀬が驚くのも無理はないと思う。何故なら、さっきまではなかったのに今は吐きたくなるものが校舎のなかにゴロゴロといるからだ。

───所謂、腐敗死体。

しかも、黄瀬は思い当たる節があるのか手に口を当てて必死に吐くのを我慢している。すかさず笠松さんが背中をさすっていた。

知り合いだろうがそうでなかろうが吐きたくなるの誰もが同じだろう。臭いも酷い。かという俺も笑えてない、笑顔だけが取り柄なのに、笑えない。マジで吐きそうだ。どうやって殺されたのかもわからないほど、ぐちゃぐちゃになっている。少しだけ残った服だけが性別を教えてくれている。生前の顔なんて思い出せそうにもない。


「……みんな良く聞いてくれ。何処かに留まっていても危険であることがわかった今、全員で移動しようと思う。つまり、待機組はなしだ」

「全員で?」

「4人1組に僕、敦、涼太、高尾は決定だ、他は各自で決めてくれ。1つのチームだけ5人になるが仕方ないね。」


妥当だと思った。
さっき勝手に行動したしな。

火神 黒子 日向 木吉
緑間 宮地 笠松 森山
今吉 青峰 桜井 氷室 実渕

敬称は略させて貰ったけど、他のみんなが話し合った結果こうなった。ほとんど自分の学校のメンバーになっているな。

さっきまでは拠点があった方が何かしらいいだろうと思っていたんだろうな。全員で移動して合流できなければ、報連相が出来なくなっちまう。携帯が使えなくなってる今、1番困ることだった。でも、どこも安全じゃないとわかったなら全員で動くしかなくなったってだけだ。


「僕たちは3階を調べる、理由は直感だが、何かあるような気がしてね。他のチームも何処か別の階を調べてくれ。全て調べ終わったら4階の理科室に集合だ。鍵は4階担当の人に渡しておいてくれ。」


随分と焦っているのか何故か赤司は俺たちのチームだけ先に行こうとしている。実渕さんから3階の鍵を受け取ると短く「行くぞ」と言って校舎の先へと進んで行ってしまう。

そんな様子の可笑しい赤司にでさえ誰も反論せずにいた。こんな赤司だからだろうか。

ずんずんと暗い校舎の中を懐中電灯の灯りだけで進んでいく。不気味なくらい音はしない。相変わらず死体はゴロゴロしていて、黄瀬も顔色を悪くする一方だ。

確かに、えりな(仮)が黄瀬を嫌うだけあってやったことはエグい。黄瀬に対する精神的ダメージは計り知れねぇな。これが俺狙いだったらと思うとゾッとする。例えば、えりなちゃんの死体があるとかならきっとダメだった。

黄瀬の心を折る作戦なら、えりな(仮)の作戦は大成功だ。

けど、本当にえりな(仮)がやったことはこれだけなのか?俺と黄瀬にしか狙いがないのなら学校の人は未だしも他校は関係ないはずだろ?

なのに、なんでなんだよ。


「やぁ、また会ったね。会える気がしていたよ」

『…黄瀬、耐えてるのね』

「あん、た…!」


3階に着いて、すぐ目の前にいたのはえりな(仮)だった。俺たちがここに来るってわかってたみたいだな。

えりな(仮)登場に黄瀬の顔は強張るし、紫原はコートに立ってる時と同じかそれ以上のプレッシャーを与えてくる。赤司はえりな(仮)に会えると思っていたのか満足そうに笑っていた。だから焦っていたんだな。


「なんの用なの、アンタ」

『…質問しに来たの、高尾くんに』

「俺に?」


えりな(仮)の狙いは俺だと、自分でも思う。でもいざ対面して「質問がある」と言われるとしちゃいけねぇのに警戒心がとけていく。本当はこいつ、俺たちとはこんなことしたくないんじゃねぇかって。


『ねぇ、高尾くん』

「…なんだよ」

『…えりなの何処が好き?』

「は?」

『顔?』

「顔も勿論好きだけど…」

『もし、私がみんなをここから出して危害を加えなかったら、…この私を好きになる?』

「…何言ってんだ、俺はえりなちゃんが好きなんだよ。アンタはえりなちゃんじゃない、だから好きにはならない。」

『……そう』


えりな(仮)は残念そうにうつ向いた。(仮)が期待している言葉はあげられない。

俺が好きなのはえりなちゃん自身であって、顔ではない。確かにえりなちゃんは可愛い部類だと思う。けど、俺はえりなちゃんの中身も含めて好きなんだ。

顔だけ一緒でも、中身が違うならそれは別人だ。好きにはならない。


『……』


えりな(仮)はまた右手を高く上げ、パチンと指を鳴らした。


「今度は一体何をしたんだい?」

『…2箇所だけは私の力では無理だけれど、それ以外の鍵は開けておいたわ。』

「……何故」

『何故?それどちらに対する疑問かしら』

「ある2箇所とはどこだ」

『…あの子の領域よ。もう一箇所は拒絶する力が凄すぎてあの子さえ手が出せないでいる』

「それはどこだ」

『誰も知らない』

「誰も知らない?」

『そう、知らない』

「…何故俺たちを助ける真似を?」

『…さぁね、それは言えないわ。』


えりな(仮)は一体誰なんだ、あの子と誰だ、(仮)でさえ手を出せない領域ってなんだ。俺の知ってる子だとしても、なぜ名乗らない?何故えりなの姿になる?自分が自分じゃなくなるってことなのに…

なんで俺たちを助けるようなことをしたんだろう。俺は特別頭がいいわけじゃない。わからないことだらけで嫌になってしまいそうだ。

なんだか、もやもやする。

俺はもしかして、何か、大切なものを失ってしまったんじゃないか。


「なぁ、俺の質問にも答えてくれよ」

『なに?』

「俺にどうして欲しいんだ」

『……わからない』

「わからない?」

『揺らがない自信があったの。私の中ではすでに覚悟が決まっていたんだよ、本当に』

「?」

『でも、実際は覚悟なんて出来てなかったんだと思うの。後戻りなんて出来ないのに、ああ…ああ…!!』

「おい!!」


えりな(仮)は頭を抱えて悲鳴のような声をあげながら叫ぶ。本当に後悔しているかのようで、こっちまで戸惑ってしまう。こいつが俺たちをこんな目に合わせたんだ。そうはわかっていても、なんだか心の底から憾めそうにない気がした。


『私はなんてことを…!!!ちがうの、私は悪くないっ!!!ただ、ただ……う、あ゙ぁあ!!!』

「………」


きっと、俺が苦しめたんだろう。どうしてそう思うのかも、わからなかったけどなんとなくそんな気がした。

何も覚えていない。

今はそれでいいと思ってる。えりなちゃんにもう一度会いたい、そのために情報を集める。あいつは色々話してくれた。それでいい。それでいいのに、なんだか……足りない、と感じてる。


「…探索を続けよう。」


赤司の声にハッとする。

本当にこのままでいいのか、モヤモヤは気にしない方がいいのか?そんな悩みに向き合う時間さえもここにはなくて。


「わっかんねぇな……」





4人1組
(赤司は何時だって情から遠い)
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