Type A
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「と言うわけです…」
「……」
高尾くんたちがいる世界であったことを細かく伝えるとみんながみんな、黙り込んでしまった。…私、説明下手だったかな。それだったらすみません。どこがわからなかったですかね…ひっ…福井さん睨まないで、お願いします。
職員室であったことは先にマコちゃんが説明した。
「……大体わかった。」
声を出したのは、やはりマコちゃんだった。少し眉間にしわを寄せている。何か、あったのだろうか。
「俺らが今いるここの世界では、生きた人体模型以外のバケモノはまだ遭遇してねえ。幽霊の類いはノーカンだ。あの火神の声の正体はわかってるがな」
「え?」
火神くんの声と言えば、生きた人体模型から逃げていた時に全く同じ台詞を同じタイミングで聞こえて来た例のあれか。
「お前がいた世界を仮にAとして、こっちをBとする。」
「うん」
「…全員わかっていると思うが、山城第二小学校はすでに存在していない場所だ。なのに今、俺たちは山城第二小学校にいる。…この矛盾を説明するにはこれしかねぇ、異世界だ」
「本当にあるとは思わなかったな」
「それだけじゃねぇ。姿形は全く同じな異世界が2つある状態だ。その2つの世界に俺たちは閉じ込められていて、AとBの間でさえ自由には行き来出来ない」
やはり、ここは異世界なんだ。そして今いる場所はたく同じ場所でありながら、高尾くんたちと絶対に遭遇できない場所。つまりはここに高尾くんはいない。
わかってはいたけれど、マコちゃんほど頭のいい人に言い切られてしまうとまた気分が下がってしまった。異世界から脱出するためにも早く合流がしたい。
「…!」
体育館での高尾くんと同じだった。
円になって座っている左隣。私の左手にそっと手を置いて、安心させてくれる人。
……福井さん…。
福井さんは私のことを見るわけでもなくただ手を置いているだけだ。至って真剣な表情で次の言葉がマコちゃんから紡がれるのを待っているだけ。なんだ…優しい人じゃないか。
「当たり前だが、異世界である以上ここからは出られないと考えた方がいい。脱出するにはまず犯人を捕まえないとな。」
「そのためにももっとこの世界を知る必要があるな」
「伊月の言う通りだな。まずはキセキたちがいるAの世界に行くための方法も探さねぇと」
「ああ、ここで3つの異世界の特徴を伝えておく」
「特徴、って?」
「1つは時間軸がずれていること」
「確かに!職員室で起きたあれってえりなたちが先に体験してたもんねー!時間で言うと1時間くらいはずれてるのかな?」
「そうなるだろうな。生きた人体模型を討伐して、図書室を調べ、体育館にもどっているから、大体1時間から1時間30分ってとこだろう。」
「生きた人体模型みたいなやつまだいるのかな?」
「限られたバケモノだけならな」
「限られたバケモノってなんだよー?」
「△○工場爆発事件にも高尾が好きなもう1人のえりなにも関係ねぇバケモノ。これも断定は出来ねぇし、遭遇しても見分けがつかない可能性もある。生きた人体模型を殺せたというなら、該当するバケモノは殺せるはずだ。幽霊の類いは異世界に引き寄せられたんだろう、たいした脅威じゃない。これも対処法ならある」
「…なるほどなー」
よく考えられている。これだけの情報でここまで見当がつくなんて本当に頭のいい人らしい。…だからこそ、私が隠していることも話さなきゃいけない気がする。
「特徴2つ目はこの世界、Bはもしもの世界だ」
「は?」
「えりなは職員室前で黄瀬の遺体を見たと言っていたな」
「うん」
「あれはおそらく、Bの異世界で実際に死んだ黄瀬だ。俺たちが見た生きた人体模型とやらには心臓があった。えりながAの異世界で見た生きた人体模型には心臓がなかった、そうだな?」
「そうだよ。」
Aの世界でみんなが倒してくれた生きた人体模型は、自分の体の中に内臓を埋め込んでいたけれど心臓がなかった。涼太くんの彼女の頭を投げていたし、あれは間違いなく涼太くんを狙っていたのだろう。
そうか、さっき遭遇した生きた人体模型は『涼太くんを殺し、完成した姿』だったのね。この世界にも涼太くんたちがいるんじゃなくて、「もし〜〜だったら」が実現している世界なんだ。だから涼太くんは死んでいた。実際に起こったわけじゃないから私に話しかけたり、遺体が消えたりしたわけか。
「でもそうだとしたら、火神くんの声はどう説明するの?」
「それが特徴3つ目、Bの異世界は完全ではない」
「完全ではない?」
「火神の声はAの世界から聞こえてきたものだ。1時間以上前の火神の声がタイムラグで今Bの世界に聞こえてきた」
「もしくは、本当にいた?」
「ああ、そうだ。Aの世界で赤司たちが先発して生きた人体模型を倒しに行ったはずが、後発隊だったえりなたちが先に遭遇したのはそのためだ」
「ちょ、ちょっとマコちゃんが何言ってるか俺、理解出来ねぇんだけど…?えりなはわかった?」
「なんとなく…だけど。つまり赤司くんたち先発隊は、Bの世界に無意識のうちに行き来していたということ?Aの世界に少しの間いなかったから後発隊だった私たちが先に遭遇してしまった」
「そうだ」
確かにそういうことなら納得がいくし、今のところは矛盾がない。涼太くんを殺して完全な姿になった生きた人体模型はBの異世界の化け物。連れてこられた私たちと違ってその世界の住人といってもいい。だからAとBを行き来することはない。その証拠にBの異世界(今いる世界)には生きた人体模型が存在している。Aの異世界にいた生きた人体模型も、Bの異世界へ逃げ込んだりしていない。
「それってつまり、今いるこの世界に生きた人体模型はまだいるってことだよね」
「そういうことだ」
「うげ…まじか。金属の机を素手で潰せる化け物だろ?どうにかできんのかよ」
「赤司たちが出来たんだ、出来ねぇわけねぇだろ。この世界を散策するたびに逃げてたらキリがねぇ、後で倒しにいくから葉山と伊月ついてこい。えりなはこいつと待機してろ」
「俺年上だぞ」
福井さんがマコちゃんにこいつ呼ばわりされてちょっと嫌そうだ。3年生なんだから当たり前だろうけれど、マコちゃんは敬語とかつかわなさそうだよね。
別に涼太くんを殺したからといってパワーアップしているわけじゃない。マコちゃんのいうとおり、倒せるだろう。怪力だけど目が悪いし、音さえ立てなければ強襲は可能だと思う。
「話が逸れたが、Bの異世界から脱出するのは難しくねぇってことだ。おそらく犯人が思い描いたシナリオがあって、その通りに事が起こっている。俺たちが2人いるってわけじゃねぇ。俺たちが全員死ぬシナリオってだけだ。現実じゃねぇから幻の死体を見るかもしれねぇな。まぁ、全て終われば自然消滅するだろうよ」
「…その時私たちは?」
「死んでる可能性もあるな」
「意味ないじゃん」
「犯人と化け物にやられてたらの話だ、バァカ。時間で解決するのは時間の無駄だ。手っ取り早くAの世界に戻るには行動するしかねぇな」
高尾くんたちと合流できるかもしれない。
マコちゃんは確実に戻れると言っていたけれど、本当に戻れるのかな?それは誰かの罠だったりはしないのかな。
……不安だけが、私を支配している。
「マコちゃん」
「ンだよ」
「……2人きりで、話がしたい」
「は?」
私は思っているほど、強くない
私は思っているほど、冷静じゃない
だから、もう限界だったのかもしれない。
初めは、誰にも言わないつもりだった。
言ってしまえば、もっと混乱を招くと思ったから。
でも、もう駄目だ。
窓の外にあるのが、真っ赤な月と闇のせいかもしれない。
どんどんどんどん私を弱くする。
どんどんどんどん私を蝕んでいく。
耐えられない、暗さに
耐えられない、時間のない世界に
耐えられない、何もかもに
それでも、不思議と涙は出ない
この気持ちの名前を知らない。
不安より強く
恐怖より濃く
絶望より深く
自分が何かすら、わからなくなってしまいそうだった。
だから、言う
この人はきっと、何かに変えてくれる
希望に、変えてくれると信じて
「……で、なんだよ」
「……」
「えりな?」
「………私ね…
マコちゃんたちと同じ世界の人間じゃ、ないんだ」
推理
(彼は初めて満足そうに笑った)
第2章END