Type A

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『えりなはね、高尾くんたちを裏切ったんだよ』

「勝手なことを言わないで!!私は誰も裏切ってない!!」

『自己犠牲はアンタの美学かなんかなわけ?』


目の前にいる私は愉しそうに笑っている。私がこういう状況に陥ったことを全身で喜んでいる様にも見えなくはない。

でも、確かに…私はみんなが生きてくれるなら、みんなにはバスケがあるんだからと自分を犠牲にしてあの時高尾くんの背中を押した。それを高尾くんは「裏切った」と思うのかもしれない。残された人のことなんて考えたこともなかった。私だったら「自分のせいで」とか、色々考えてしまうのに…


「高尾?他のメンバーもここにいるの?」

「あ…」

『えーえりなってばまだ話してないのぉ?ねーえ、マコちゃんもコタちゃんも聞いて聞いて。この子さっきまでー、キセキたちと一緒に居たんだよ!』

「そうなの?」


きゃははと高笑いをする私。 私はこんな気持ちの悪い笑い方はしないし、こんな話し方でもない。見た目はそっくり私だけれど、中身は全く別のものってことね。

中身が一体誰なのかまではわからないけれど、こいつの目的は私たちを仲違い…いや、私をもう一度一人きりにさせることだろう。


『レオ姉と赤司くんはねーえ‥えりなのせいで死んじゃったかもねぇ』

「?!どういう意味?!あの大柄な男は私しか狙ってなかったじゃない!」


コタちゃんが心配そうに顔を歪めたからかもしれない。私は愉しそうに笑いながらレオ姉と赤司くんの名前を出した。

コタちゃんは、さらに顔を歪めた。


『ふふふ、さぁ狙いはどうかな。でーも、同じ私として、1つだけ本当の事教えてあげるね?高尾くんは生きてるよぉ』

「‥‥」


そんなこと信じられるわけがない。ここに来て変なことばっかだし、何だってあり得るのよ。自分の目で見ないと信じない。自分の都合のいい情報だけ信じるなんてことはしたくない。


『あっれー?信じてくれてない感じ?本当だよ、心臓は動いてる。』

「‥‥心臓は?」

『だってー、目の前でえりながー、スプラッタでぐっちゃぐちゃ。正気でいられると思う?』


ぐちゃぐちゃ?

変な表現をする。私は確かに大男に殴られた。それで死んでしまったのかと考えたこともあったが、こんなところが死後の世界なんて考えられない。それにマコちゃんたちと触れることも話すことも出来る。

私は死んでいない。

なら、高尾くんたちは一体何を見ているの?それは私じゃない。騙されないで、高尾くん。


『ねぇえりな。高尾くんに会いに行ってくるよ。代わりにね』

「え?」

『えりなが邪魔なんだー私』


寂しそうにつぶやき始める私は今にも泣きだしそうだった。私が邪魔でなければ態々こちらの世界に送らないだろう。わかりきっていることばかり言われても困る。今はとりあえず、敵から情報を聞き出すのが最優先だとは思うけれど、話してくれるのかな?


「なんで寂しそうなの、貴方」

『利害の一致でこうなったからって‥、納得出来ないでしょ?』

「利害の一致?」

『だから私は殺さなくちゃいけない。今度こそ私が高尾くんを殺してみせる』

「何を‥言って…?!」

「へぇ、よく喋るんだな。お前」

『‥は?』

「ふは、俺のことはあまり知らねぇみてぇだな。まぁいい、行くぞ、葉山、えりな。」

『はぁ?!何なのよアンタ!』

「何って、霧崎第一、『悪童』の花宮真だけど。」

『そんなこと聞いてるんじゃねぇよ!』

「‥お前は俺たちに手を出せねぇだろ。」

『‥、だったら』

「お前に用はねぇって言ってんだ。高尾のとこでもどこでも行けよ。」


その声はとても冷たかった。
成る程、これが悪童か。なんて思えるくらいにならマコちゃんは今、冷たく、怖いと思った。でもこの冷たさがモテそうでモテそうで。イケメンだから許されるのだろうとか場違いな事を考えてしまった。

えりなは何も言わず、マコちゃんが私とコタちゃんの手を取って職員室を出て行くのをただ黙って見送った。

職員室の外には涼太くんの遺体はなかった。さっきのは一体なんだったんだろう?


「えりな!」

「っ‥な、に‥」

「今あった事は忘れろ、気にすんな」

「‥‥マコちゃ‥ん‥」

「靴履け。足痛めるぞ」

「うん、ありがとう」


足音をたてないために脱いでいたローファーをきちんとはきなおす。そのために手を離していたけれど、はきおえるとまたマコちゃんは私の手をキチンと握りなおし、グイグイと突き進んでいく。


「ねぇねぇマコちゃん、さっきからなんでえりなの手を握ってんの?恋でもした?確かにえりなって可愛いもんね!」

「殺すぞ」

「それは断固として拒否したい!!」

「こいつを逃すわけにはいかないだろ」

「逃げませんけど?!」


さっきから手を繋ぐのはなんで?って思ってたけど、逃さないためだったとは思わなかった。逃げるわけないじゃん、もう…1人なんて嫌だ。

そう思って少しだけ力を込めて手を握ると、マコちゃんもそれに応えるようにしっかりと手を握ってくれる。本当は私が怖がってるから安心させようとしてくれてるとか、なのかな。


「どこにいくの?」

「音楽室だ。俺たちは音楽室を拠点にしてる。一旦戻ってあの人体模型をどうするかを決めないとな」

「拠点って、安全なの?私たちは拠点にしていた体育館で大男に襲われたの」

「今のところは問題ない。詳しい話は後で聞く、話をまとめとけ」


3階の図書室の隣は音楽室という記憶がかすかに残っている。しかしそこには、七不思議の頭のない女性がずっとピアノを演奏をしていて、どうとかっていう怪談があったような気がする。子供が噂をする七不思議を今の歳になって信じているわけではない。ただ、生きた人体模型がいるってことは他にも必ず何かがいるってことだ。


「七不思議の事でも心配してるの?」

「…なんでわかったの?」

「んー顔に書いてあったよ」

「ふは、七不思議な。いたぜ、頭のねぇ女。ありゃすっげぇグロテスクだったな。」

「でも、その女、消えちゃったし…もー大丈夫」

「消えたって…」

「ほらほら、あるじゃん。七不思議の解決方法ってさ」

「えっと、私は詳しくなくて。どういった怪異だったの?」

「そんな難しいもんじゃねぇよ、楽譜を覚えてなくて最後までピアノを弾けない哀れな女教師」

「それで?どうやって解決したの?ここには楽譜はないはずでしょ?」

「書いた」

「え?」

「マコちゃんがー書いたんだよ、楽譜」

「はい?!」

「女が弾いていたのは世界的に有名な音楽だった。その楽譜なら俺の頭の中に全部入っていたんでな、そこらへんにあったプリントに全部書いて渡した。」


…なんて人。

友達2が『マコちゃんは頭がとってもいいんだよ』と話してはいたが、頭がいいとかそういう問題なのかどうかすら怪しいくらいだ。

楽譜を一つも間違わずに書けるって…そんなことが出来る人っているんだ。本格的にやってるならまだしも……


「入れ」


そんな話をしていると、音楽室に着いてマコちゃんが音楽室に入っていく。少し戸惑っている私に『入れ』と命令するので、半ばあきらめるように音楽室へと足を踏み入れた。


「花宮!葉山!無事だったのか」

「…この俺がヘマするわえねぇだろ、バァカ」

「あ?こいつ誰だよ」


えっと…どちら様でしょうか。

ユニフォームは、誠凛と陽泉。ってことは、黒子くんとむっくんと同じってことか。

これはまたどちらもイケメンな方だ、1人は黒髪で清純派イケメンさん(誠凛)、もう1人は背はそこまで高くないけど、銀髪?のイケメンさん(陽泉)。銀髪のイケメンさん怖い…三白眼だ。


「こいつは夢咲えりな。職員室の前にいた」

「…こいつが生き残りの…なんでまたここにいんだよ?」

「え…」





もう1人の私
(なんでそのことを知っているの?)
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