LIFE GAME

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遍く命は祝福されて生まれてくる


だけど、私だけは祝福されていない


なんて、案外そんなことはなかったのかもと夢を見た




* * *




身体が熱い、痛い、痛い、苦しい。

記憶が曖昧だった。気が付いたらアレピオスの研究室にいた。何もわからない、だけど、今の私を支えていたのは【憎悪】以外の何者でもなかった。憎い憎い憎い憎い!!殺さなきゃ、殺す殺したい殺さなければ!!!


「認められないッ!!!!認められるはずがないッッッ!!!私は夢咲えりななの!!!えりなじゃなければ、誰だって言うの!!!!」


いやだいやだいやだ、何も出来ないまま死にたくない。私は夢咲えりな。夢咲えりなじゃなかったら、生きてる意味がない。生きていけない、何も得られないまま死ぬのは嫌だ。1人は嫌だ。夢咲えりなが憎い、憎くてたまらない。お前さえいなければ、私は夢咲えりなだったのに!


「……やはり、まだ生きていたか。とは言っても、殆ど限界のようだね」

「!」


突然声が聞こえて、ぱさりと私の上に大きな毛布がかけられた。もうここには私以外誰もいないはずなのに。それに、1番聞きたくない声だったから胸が痛む感覚があった。どこもかしこも痛いのに、どうして、胸の痛みが1番痛むんだろう。


「…せー、ちゃん」

「俺たちと殺し合ったことは覚えているか?」

「?……な、に…?」


覚えていない。さっきまでの自分が何をしていたかなんて、わからなかった。ぽっかりと記憶を失っていると言ってもいい。身体が痛むのと、力が入らないのと、今の私が裸だってことは征ちゃんが言ってる事は本当なんだろう。殺し合って、私は負けた。

振り向いたら、会いたくなかった征ちゃん以外に、真ちゃんと、後1人テツくんに似てる雰囲気を持った男の人が私を見下ろしていた。


「ハジメマシテ、と言っておこうか、偽物」

「……貴方、誰?」

「なるほど。ここまで夢咲えりなにそっくりなクセに偽物ってわけか」

「黙れッッッ!!!」

「おーこわ、だけど今のお前じゃ何も出来ねぇだろ?」

「黛さん、やめてください」


イライラさせてくれるこの人のことは知らない、誰なの。白っぽい髪の色、少しだけテツくんに似ているような気がする。腹は立つだけど、その通りだった。今の私はこの人たちを殺すだけの体力はない。傷は回復しているようだけど、今にも身体が崩れてしまいそうだった。こんなところで、終わるの?


「いやっ…いや……死にたく、ないよ……」


いやだ、いやだ、まだ生きていたい。夢咲えりなの記憶でしか知らないものを見たい。ここではないところに飛んでいきたい。青い空の下で笑っていたい。胸が痛い、痛いよ。声が出ない、涙だけが溢れてくる。


「死なないさ、お前は死なない。俺はお前を助けるためにここに来たんだ」

「………え?」


私は死なない?何を言い出すのかと驚いて顔を上げる。すると、征ちゃんは私に手を差し出していた。どうして、私は敵で、私はあなた達を殺そうとしたのに。信じられなくて軽く手を弾いた。


「まだ、信じられないのか」

「?…なにを……」

「俺たちのことが、まだ信じられないのかと聞いているのだよ。お前はあの時からなにも変わっていない。」


あの時。あの時って、あれかな。真ちゃんが私にすっごく怒ったあの時のことかな。誰も信じていない、そんな風に見えると言われたような気がする。


「なにを…信じろって、いうの……」

「もう1人の俺は、確かにお前には死んで欲しいと思っていた。4階で籠城戦をした時も、助けに行かないと断言すればお前1人でどうこうして1人で死んでくれるのではと考えたからだ。」

「…!」


私は夢咲えりな本人ではない。そう気付いていたから、自分を認めてもらうためになんだってした。誰かが助けてくれる、なんて甘い考えは一切なくて「自分でどうにかする、それくらいしなきゃ仲間じゃない」そんな風に考えていた。きっと、あの時涼太くんたちが助けに来てくれなかったら、征ちゃんの言う通り1人で死んでいたかもしれない。体内にウィルスがあるし、それくらいでは死なないけれど。結局は復活していたと思う。


「だからこそ、お前が発症するまで1度も戦いには出なかった。僕はお前を見捨てたんだ。」

「……目の、色が…」

「オリジナルのえりなが僕にコンタクトを取ってくる可能性もあり、常に待機していた。お前は休息をあまり必要としていなかったのは知っている。だから全員が寝静まった頃なにか仕掛けているのではないかと考え、確認をしていたんだ」

「そんなこと、しないって言ったはずでしょ」

「お前は信用に値しないと言ったはずだが?」

「っ…」


征ちゃんが私がいる間ずっと待機していたのはそういうことだったのか。探索班とか安全なことばっかりやってると思っていたけど、私を本当に信用してなかったんだ。信用してる夢咲えりなからの情報や、自分で調べた情報を信じたいから自ら探索したり、待機したりしてたんだね。戦いに出て死んでくれたらそれでいいし、みんなを勝たせてくれるのならそれはそれでいいってことだったんだ。


「でも、もう1人の僕はそうは思っていなかったようだ。」

「え?」

「すまないな、もう1人の俺は少し気持ちを伝えるのが苦手でね」


また目の色が変わっている。なんなの、征ちゃんって。もう1人の俺とか言ってるけど、どう言う意味だろう。もっと、知りたいと思うようになってるのは、どうして?


「勿論死んで欲しいというのは、みんなに危害を加えるのであればという意味でだ。何度も言っただろう。これはお前の物語なんだ、醜く足掻いてなにが悪い。生きるんだ、最期まで」

「どうして……どうして、何度も手を差し出してくれるの…?」

「ほんっとーに呆れたやつだな。まだわかんねーのか?緑間も、赤司も、お前が大切な仲間だって言ってんだよ」

「………私が…仲間……?」


ずっと欲しかった言葉だ。一緒にいた時からずっと、認めて欲しかった。私は、夢咲えりなではないとわかっていたから、自分から私は仲間ではないんだとどこかで思っていた。

酷いこと、したのに…胸が苦しい、痛いよ痛い。涙が溢れて止まらない。差し出された手を今度は拒むことなく、手に取った。


「お前は夢咲えりなじゃない。紫原を想う気持ちもお前のものじゃない、えりな本人のものだ。」

「うん…ごめん、ごめんなさい…っ」

「お前がこの世界に生まれて来た瞬間から、お前の人生はお前だけのものだ。誰にも邪魔できない、たった1度だけの人生なんだ。生きろ。そして、どう生きどう死ぬか、自分で決めるんだ。自由に生きていいんだ」


何をそんなに拘っていたんだろう。私が夢咲えりなじゃなくても、みんなはずっと前から私一個人を仲間だと認めていてくれて、ずっと手を差し伸べてくれていたのに。何も信じられなくて、夢咲えりなという存在にこだわり続けた。

きっと、初めから夢咲えりなじゃないんだと認めることが出来たら、この先もずっとみんなと一緒にいられたかもしれない。


「!…な、なにし…て…」


征ちゃんは私を立ち上がらせると、カバンに入れてあったのか救急スプレーを取り出して私に振りかける。そんな行動に驚いてしまって涙が引っ込んだ。あれだけ身体中が痛かったのに、もうどこも痛くなくて、嘘のように軽い。

だけど…時間が少し先延ばしになっただけだ。


「勿体無いよ、それ」

「問題ない。それからこれも」

「ちょっと待って、なにそれ?!」

「抗ウィルス剤だ。完治することはないだろうが、お前を苦しめることはないはずだ」


征ちゃんは私に抗ウィルス剤の注射をしてくれた。絶対完治することはないけれど、確かにこれで私を苦しめることはない。みんな注射し終わっているとしても、私のためにここまでしてくれる…なんて。私のことを本当に仲間だと思ってくれている証拠だ。

全く、最期まで夢と希望を見せてくれる人だ。傷もない、私を苦しめるウィルスもほとんど消えた、それでも私はこの病院を出る事は出来ない。


「お前の人生を見届けさせてくれ」

「うん、期待に応えるよ」


征ちゃんもきっとそれは知っている、わかっている。だからこそ、生きろと言ってくれている。残りの時間すべて、私という人生を全うするために使うよ。


「だけど私はまだ、みんなの仲間じゃないよ」

「何?」

「私はみんなを傷付けてしまった。記憶にはないけれど、この場所で私暴れたんでしょう?今度は、信頼してもらえるように頑張るよ」

「それがお前の答えか?」

「うん。私は、私の人生を生きる。私は夢咲えりなじゃないのだから。私は明日の私に胸を張れる私になりたい!そうなったときに、仲間って認めて欲しいの。私もその時に仲間だよ!って正々堂々と言いたいな」


何かに縋らなくても、みんなは私を一個人だと認めてくれている。私がただ信じたくないと叫んでいただけだった。今のまま生きてもきっと明日の私は、今日の私を嫌うんだ。


「私はアレピオスのことを調べるよ。調べたことはここを脱出した後に閲覧出来るように私の方でやってみる。」

「わかった」

「わかってることはここで伝えておく。夢咲えりなは、ここから出る事が出来たとしてもずっと狙われ続ける。えりなはここにいる誰よりも特別だから。その理由はもう、征ちゃんならわかってるでしょう?」

「ああ。」

「戦いは終わらない。ずっとね。だから、みんながえりなを守ってあげて。約束だよ」

「わかってるよ」


えりなが狙われ続ける理由は征ちゃんしかしらない。気付く人もいるかもしれないけれど、少なくともここにいる真ちゃんと黛さんはわかっていないようで困惑してるようだった。


「アレピオスの本当の狙いは私にもよくわからない。協力者だっているだろうけど、それが誰なのかも知らない。絶対に突き止めて全部伝えるから、待っていて欲しいの」

「力み過ぎるのもよくない。大丈夫、お前のことちゃんと信頼しているよ。待ってる」

「征ちゃん……」


どれだけ感謝しても感謝しきれないよ。本当にありがとう。希望を見せてくれて。肩に置かれた征ちゃんの手が温かくてまた涙が溢れそうになった。


「また俺たちのところに来るようだったら、まずはその格好をどうにかするのだよ!全く、素っ裸でよく平然としていられるな!信じられないのだよ!」

「毛布巻いてるからいいかなって」

「よくないのだよ!!」

「そこにアレピオスのものっぽい白衣落ちてたぞ。これでも着ておけ。これなら大丈夫だろ」

「ありがとうございます、黛さん」

「何も大丈夫ではないのだよ!!」


流石に素っ裸で行動したくないと思っていたら、黛さんが白衣を拾って持ってきてくれた。それに着替えても真ちゃんはワナワナと震えて顔を赤くしている。そんな真ちゃんがおかしくてつい笑ってしまうと、征ちゃんと黛さんも笑ってくれた。

楽しい、幸せだ。こんな風に笑えるなんて知らなかった。嘘のように心が軽い。気がつけば、敦くんへの想いは消えていた。あの想いさえも私のものじゃなかったんだと、今更ながらに感じる。


「ずっと、ずっと苦しかった。どうやって生きていけばいいのかわからなかったの。だけど、もう迷わないよ。」






──私は今日の私が大好きで、胸張れる





「痛いよ痛いよって言ってる私は、もういない」











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