LIFE GAME

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虹村サンの話は1階に戻ってきたところで終わった。その後俺たちは合流して、虹村サンと崎ちんに助けられたんだよね。1階までの扉は、虹村サンたちが1階に戻ったら自然に鍵がかかったらしい。それから端末のアップデートも1階に戻った時に行われたと言っていた。虹村サンは本当にえりちんを大切に思ってくれているから全部信じて俺たちに嘘を言ってたんだね。リッカーβとしか戦ったことがないから、ゾンビは見たことが無いとか言ってたけど、それも全部嘘だったってわけか。


「黛ってやつ、ホントに何も喋らなかったよね〜〜」

「いや、赤司にはすぐバレて、本物の夢咲えりなが生きているかどうかを聞き出された。すごい剣幕でな」

「凄い心配されてんじゃん、えりちん」

「びっくりだね」

「怒ってたぞ、アイツ。無理ばっかりして、ってな」


まぁ、そうだよね。俺だってえりちんに怒りたい気分になったし。合流できたときはそれどころじゃなくて怒る気にもならなかったけど、ホント無理ばっかして。


「みんなに心配ばかりかけてごめんなさい。空回りばっかりしてるよね…」

「今生きてんだから責めたりしねーけどさあ。今度から無茶すんの禁止だかんね〜〜?」

「大丈夫、もうしないよ」

「ん、信じる」

「俺もえりなのことは信じているよ。中学の時からずっとね」

「うん、ありがとう」


虹村サンがえりちんに怒った時は本当に、自分は死んでも構わないって思ってたんだと思う。誰かを守るために死ぬなら、俺に会えなくても最悪それでいいとか考えてたんだろうなあ。だけど、今はちゃんと死にたくない、生きたいって思ってくれている。だったら、もう怒られた時のようなことはしない。俺はえりちんを信じるよ。


「それより、征ちゃん…もう少しだけあの話を聞かせて欲しいの。この一連は、アレピオスが必ず負けるゲームってやつ」

「…ああ、いいよ」


俺もそれ聞きたい。病院内で起こってること全部は「ゲームのようだ」と誰かが言った。けど、そのゲームは必ず首謀者であるアレピオスの負けで終わると言っていた。赤ちんはその理由を、B.S.A.A.という組織が俺たちを助けに来てくれるからだと言った。

だけど、なんでアレピオスはこんな大掛かりなことを仕掛けておいて負けるワケ?


「まず、この間も言った通り間違いなくそろそろB.S.A.A.が俺たちを助けに来る。こんな大人数が一斉に行方不明になれば大騒ぎだろう。それだけじゃない、可笑しいとは思わないか?アレピオスは全てを話すと地下で言っておきながら、何も話してはない」

「なんでだよ、全部話してたじゃねーか」

「なら青峰。お前が理解している範囲内でいい、列挙してみろ。」

「………れっきょ、ってなんだ?」

「はぁ……1つ1つ簡単に述べろということだ」


赤ちんが何をさせたいのか俺にだって予想はつく。アレピオスが説明した全ては、何かモヤモヤを感じる。こう、本当のことは全部隠してるっていうか。


「アレピオス・オルドリッジの理想はなんだ?」

「世界中の人間を全ての恐怖から救うこと、だろ?」

「そうだな。なら、なんでえりなを連れてきた?」

「アレピオスはウィルスで世界中の人間を不老不死にしようと思ってた。んで、えりなはそのウィルスに感染しない完全抗体の持ち主」

「それで?」

「えーっと……それで、今のままじゃ救えないからクローンを作って、オリジナルのえりなと交換しようとしてた?」

「ストップ、もういい。」

「あ?なんで」

「すでに可笑しいだろう」

「?」

「アレピオスはえりなのような完全抗体の持ち主を救うことは出来ないから、クローンを作りクローンを本物として生かし、本物には死んでもらう。そういう作戦だったと言ったな」


確かにそう言ってた。実際に俺たちと先に合流させたのはクローンの方だったしね。でも、確かに可笑しい。可笑しいってより、なんでこんなやり方をしたんだ?


「オリジナル・えりなを連れてきた理由がない。入れ替えるのであれば、普通の生活を送ってる時にやれば済む話だ。それなのに何故、わざわざゾンビたちが徘徊する閉鎖された空間で行った?クローンであることも、いずれ必ずバレるようになっていた。何故なら、オリジナル・えりなが同じ病院内にいたからだ」

「そうだな。俺がアレピオスなら、えりなをお前らに知られない内に殺しておく。アイツの行動には無駄が多いんだ」


花宮のいう通り、確かに無駄が多い。アイツはゾンビたちを用意したのは俺たちに処分させるためだと言っていた。たぶんそれも嘘。ここでゾンビなったやつを処分して欲しいなら、ゾンビの服装はパジャマや、ナース服、白衣、病院を連想させるものが多いはず。だけど、アイツらの服装はバラバラだった。若い女の服装、おばさんの服装、学校の制服、まるでどこかで犠牲になったゾンビを連れて来たかのよう。

えりちんを寂しくさせないために連れてきた、ってのは半分嘘って感じかな。アイツやっぱどこか普通とは違うし、えりちんに何か用事があったとしても、寂しがると思って俺たちを連れてきたってのは十分ありえる。


「アレピオスの本当の目的って、なんなんだろう?クローンだって作る技術はウィルスがなくてもあったってことでしょ。クローンを作るのが目的じゃなくて、クローンを作って何かをしたかった…けど、何か理由があってそれもできなくなったってとこかな?」

「そうだろうね。だから俺たちにクローンを殺すように仕向けたんでしょ。それにしても、わかんないことばっかだね〜〜」

「アレピオスは話が通じる気がします。ちゃんと事情を聞いた方が良くないですか?だって…良く知りもせず、殺すなんて…」


どんな理由があれ、アレピオスはえりちんを苦しめ、船瀬たちを殺し、ウィルスを世界中に撒こうとしているやつだ。理想とするウィルスを自分にも投与していて、バケモノになったアイツを生かしておく理由はない。

桜井の言いたいことは良くわかるよ。俺たちはここから脱出したいだけ、B.S.A.A.が助けに来てくれるなら俺たちが殺す必要なんてない。そんなの本職に任せておけばいい。


「………私、分かる気がするの」

「えりな、さん?」

「アレピオスが本当は何をしたかったのか、何が本当で嘘だったのか、そういうのはちっともわからないけど……アレピオスは、私たちに殺されたいんだよ」

「殺されたい?」

「アレピオスは私たちが希望であってほしいと願っているから」


アレピオスにとって俺たちが希望、か。アレピオスはここから出ても戦いは終わらないと言っていた。何があったのかは知らないけど、アレピオスにとって外の世界は希望が見出せない場所なのかもしれない。

だから、俺たちに殺されたい?なにそれ、知ったことじゃねーし。なんなの、勝手に巻き込んどいて、信じらんない。


「だって、アレピオスの理想は誰も死なない世界。死という恐怖を乗り越えること。なのに、ここを出たければ自分を殺せなんて矛盾してる」

「……それも、実現しないからッスか?」

「そう、恐怖を回避した世界は実現しない。10階は礼拝堂になっていた。この病院にいた人たちは少なくともアレピオスの理想に賛同していて、協力していたんだと思う。その人たちは今どこにいるの?こんな大人数を拉致監禁するのだって絶対に協力者がいる。」


アレピオスの単独犯とは考えにくい。それは最初から言われていたことだった。マネージャーと監督以外を拉致監禁なんてとてもじゃないけど1人でできるようなことじゃない。


「ウィルスを作るのに資金提供していた人はアレピオスを死なせていいの?私はそう思ってた。でも、多分逆」

「俺もそう思うよえりな。アレピオスが邪魔になった奴がいる。邪魔になったということは、アレピオスとは逆の理想を持つものがいるかもしれないということだ」

「だから戦いは終わらないって言ってたンスね。…でも、俺たち関係ないッスよね?ぶっちゃけ知ったことじゃない、っていうか」

「そうだな、何の関係もない。最重要なのはここから出ることだけ。これからのことなんて気にするな。」


明日起きたらすぐに10階に向かう、残りの時間は好きに過ごせと赤ちんは言って、解散となった。なんだか腑に落ちないっていうの?赤ちんすごく思いつめたような顔をしていた気がする。

赤ちんのことは気になるけど、さっきの話でわかっちゃった。それが気になって、頭がいっぱいでえりちんと一緒に病室に戻る。俺たちは正義感で動いているわけじゃない。ここを脱出したいから、それだけだった。だからゾンビを倒した。何度でも何度でも。だけど、B.S.A.A.が来るなら俺たちがわざわざやらなくてもいい。そう思った途端に、銃を握れる自信がなかった。


「征ちゃんのことも気になるけど…それより、敦くん大丈夫?顔が青いよ」

「えりちんはさ、アレピオスのこと殺せる?」

「なんで?」

「ゾンビも、船瀬のことも、クローンのことも綺麗事だとしても救いたくて殺してきた。だけど、アレピオスにとって死は絶対に救いじゃない。」

「そうだね」

「そう考えるだけで、10階に行ける自信がないんだよね〜〜情けないよ。」

「情けなくないよ。…さっきの質問の答えだけど、私はアレピオスを殺せるよ。必ず、殺す」


自己満足だとしても、殺すことで救われるのだと信じていたから俺は銃を握っていられた。理由を失ったら俺は、どうすればいいんだろう。そう考えていたけどえりちんの目はいつもと変わらなくて、きっぱりと殺すと答えた。


「もちろん、復讐とかそんなちっぽけな理由じゃないよ。正義感でもない。」

「じゃあ、なんで…」

「この手でアレピオスのゲームは終わらせる。他の誰かに任せるわけにはいかない。なにより、これは私の試練だと思う。必ず乗り越えなきゃいけない試練」

「試練…?」

「うん、だから向き合うの。目を逸らしたままじゃ何も変わらないって痛い程知ってる。傷つくのが怖くて逃げるのは、もう辞めたの。」


“目を逸らしたままじゃ何も変わらない”。その言葉が深く突き刺さる。俺とえりちんのことだもんね。お互い目を逸らしたままずるずると過ごしてきた。何も変わらなかった。目の前のことから逃げるのは良くない。


「俺ももう逃げないよ。必ず倒して、これで終わりにする。永遠に続く戦いのことはその後で考える」

「一緒に、来てくれる?」

「当然」

「必ず勝つよ」


なんだか身体がすごく軽く感じる。B.S.A.A.が助けに来てくれるってわかってるかもしれない。ここまで一緒に生きてこられたことがすごく奇跡に感じられて、どうしようもないくらい胸がいっぱいになる感覚があった。

ずっとえりちんに支えられてきた。最後まで隣で一緒に戦っていられることが誇らしくもある。えりちんとなら何があっても大丈夫って思わせてくれる。


「ここまで長かったね」

「うん、なんだかワクワクするよ!敦くんとしたいこと、行きたいところ、いっぱいあるしね。まずは普通に高校生したい!」

「えーーーーそれなら、ずっと俺の寮にいなよ。えりちん1人くらいいてもバレないでしょ」

「普通にバレるでしょ!男子寮に忍び込むの結構大変だよ?」

「いやほら、俺と室ちんと、劉ちんでえりちん囲めば見えないかな〜〜みたいな」

「……うん、それは見えないね」


たまに忍び込んでくるんだからずっと一緒にいても変わんないのにね。えりちんは女子寮に住んでるし、ずっといなかったら流石に怪しまれるかもしれないけどさ。


「でもさ、そんな高校生らしいバカは今のうちにいっぱいやろうね。普通って、毎日ってとってもキラキラした素敵なものなんだから」

「そんな毎日がずっと来ればいいのにね」

「うん、そうであってほしいよ」







たくさんの嘘は素敵な嘘
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