LIFE GAME

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赤ちんの命令で、赤ちんをリーダーにえりちん、俺、室ちん、高尾、実渕、虹村サン、崎ちんの割といつものメンバーで10階に向かうことになった。ウスタナクは強い。俺たちだけで勝てる保証なんて何処にもない。全滅する覚悟だってしなきゃいけないかもしれない。それでも行かないといけないから。


「えりちん、準備は?」

「ばっちりできたよ!」

「生きて帰るよ」

「そんなの当然でしょ。絶対に死ねないよ」

「わかってるならいいよ〜〜」


えりちんといくつか約束をして、準備をする。えりちんから万が一の為にマグナムを預かっておいた。えりちんがマグナムを使ったら確実に腕がおかしくなっちゃうからね。1発撃つごとにタブレットなんて効率悪すぎでしょ、ナイナイ。


「敦くんこそ、私を助けようとしてやられたり絶対にしないで」

「見捨てろってこと?」

「違うよ。私は絶対に死なない。それを信じて戦って欲しいの。敦くんは強いよ、私よりずっとね。その力を私を守るためじゃなくて、目の前にいる敵を倒すため時使って」

「わかった。全部信じるよ」


この病院内に絶対なんて言葉は存在しない。相手はえりちんでも戦ったことがないクリーチャー、ウスタナク。自分の身を守ることさえ出来るかわからない。弱点だってないかもしれないんだし。

でも、えりちんだって強い。俺がいなくたって、すばしっこいし大丈夫。俺はえりちんの力を信じる。


「敦くん、行こ」

「その前に〜」

「ん?」

「おまじないね」

「…うん」


軽く口付けると顔を赤くするえりちん、本当可愛い。普段全然恥ずかしがったりしないくせになんでキスすると急に顔を赤くするんだろ、不思議。

これ以上やったら抑えがきかなくなりそうだったから、抱きしめるだけにして最終確認を進める。室ちんも俺たちをからかってくることはなかった。

えりちんが準備を終わらせた時には全員の準備は終わっていて、赤ちんからの話が始まった。


「みんな、準備はいいね」


そんなありきたりな質問に全員が黙って頷く。怖いに決まってる。傷が治るって言っても痛い思いなんてしたくないし。

今回の敵は今までの敵と違っていて、攻撃を受ける=感染じゃないからちょっとだけ余裕がある。これで無傷じゃないとダメだったら最悪だった。基本的にギミックアームとかがついてる腕で攻撃してくるはずだし、それだと感染はしないでしょ。それにワクチンもうってるし、気持ちに余裕がある。


「いいか、絶対に無理だけはするな。傷付いてもタブレットがあるから治るが死んだら生き返りはしない。絶対に死ぬな」

「忘れてるかもしれねぇから改めて言っておくぞ。この病院のメリットは一時撤退が可能なことに尽きる。奴らは何らかの理由で他のフロアに来る事は無ぇ。危険だと感じたらすぐにでも一時撤退をするぞ」


虹村サンが改めて教えてくれるまでそういう戦いがあるのもすっかり忘れていた。みんなを捜索していた時からそうだったけど、目標を達成したら一時撤退をして態勢を立て直すことが出来る。それがこの病院のメリットだ。

クリーチャーたちが別フロアに移動できない理由はわかってない。ゾンビは階段の上り下りが出来ないからって話だったけど、ケルベロスやリッカーβは別のはず。なのに移動が出来ないのであれば別の理由があると思うんだけど、それがなんなのか誰も分からなかった。


「それで、今回の目標と目的は?」

「今回の目的は、10階のクリア。目標は、奴の膝を地面に着かせることだ。まぁ、相手に疲れが見えたら一時撤退してもいいだろ。第1に互いの命を優先しろ。危なくなったら目標を達成しなくても撤退する」


ウスタナクは今までのどの敵より強い。虹村サンが提案してくれたように、何度か一時撤退をした方がいい。俺たちはこの病院のメリットを最大活用するべきだと思う。弾だって持てるだけ持ってきたとはいえ、手持ちの弾だけで倒せるとは限らない。補給しに戻れるっていう点もメリット。


「絶対に外に出るぞ。」


必ず外に出る。負けられない、死んでなんかいられない。えりちんと約束したんだ、脱出出来たらみんなでストバス行くって。まだみんなには提案してないけど、きっとみんなOKしてくれるはず。


「行くぞ」


虹村先輩と赤ちんが先頭に、10階に向かって1歩ずつ上に登っていく。なんだか身体が重く感じた。

らしくないよね、俺、緊張してるんだ。


「はぁっ……な、んで…」

「えりちん…?」


9階に来た時、えりちんの足は震えていた。ここで、自分を殺したからなのか。それとも、10階にいるはずのウスタナクを怖がってるのかな。いや、なんだか、様子がおかしい。そのどちらでもないように思えた。

俺も緊張してるけど、えりちんのソレは緊張じゃない気がする。


「えりな、無理しなくていい。お前は今まで頑張った。休んでてもいいんだぞ」

「……虹村先輩…わ、たし…」


虹村サンはえりちんが震えてる理由がわかってるのか、えりちんのところまで来て頭を撫でる。


「わかってる」

「………私と、同じになってほしくないんです…」

「なると思うか?」


えりちんと同じになってほしくない?どういう意味だろう。でも、えりちんがこれより上に行くのは怖いと全身で訴えているのだけはわかった。

そんなえりちんに虹村サンは優しい声で問いかけた。


「…わか、りません」

「えりな、お前がもう立ち上がりたくないっていうなら俺はもう二度と立てなんて言わない。いくらだって、甘やかしてやる」

「……はい」

「でも、今のえりなはあの時のえりなじゃねぇ。そんなの見てたらわかる」

「はい」


えりちんの目から怯えが消えていく。虹村サンって本当にすごいな。俺じゃあえりちんをこんな風に励ますこと出来なかったかもしれない。


「えりな、隣を見ろ」

「隣…?」

「今お前の隣には紫原がいる。まぁ俺たちもいるけど、あの時のお前が望んだのはコイツだろ?」

「っ…!」

「俺……?」


虹村サンのいう「あの時」がいつのことを指すのかわからない。1人で戦ってた時のことをいうのなら、確かに今えりちんの隣には俺がいる。


「えりちん、俺は頼りない?」


きっとえりちんは俺に話してないことがある。だから虹村サンと何を話してるかわからない。それは俺たちのことを想ってくれてるからなんだと思う。ただ黙ってるんじゃなくて、言えない理由が絶対にある。


「ううん、私にとって敦くんは1番のヒーローだよ」


そう言ってくれるえりちんの目が嘘を言ってるようには見えない。絶対にえりちんは俺を頼れないから、秘密にしてるんじゃないって確信した。えりちんには言えない理由があって、まだ黙っている。それはえりちんにとって恐怖の対象なんだろう。虹村サンは知ってるようだけど、俺はそんなことで怒ったり、拗ねたりしないよ。


「えりちんと虹村サンが何を話してるか俺にはわからない。でも、無理に聞き出そうとかしないから。俺は待ってる。えりちんが秘密にしてることを、話してくれるまでずっと待つよ〜〜」

「敦くん……」

「俺が隣にいるよ。何があっても、どんな時でも俺がえりちんの味方だから。それだけは絶対に忘れないで」

「うん、必ず話すよ。今はまだ、話すことは出来ないけれど、その時が来たら絶対に。でも、これだけは言いたいの。」

「うん?」

「あの時、私は敦くんを望んでた。だからこそ、さっき10階に行くのが怖かったの。でも今は怖くないよ。私、敦くんとなら…どんな時でも希望を忘れないでいられる。私にとって希望は敦くんだから!」


俺にとっても、希望はえりちんだよ。どれだけ未来が真っ暗でも、えりちんがそばにいてくれるだけでこんなにも力が湧いてくる。死なせない、死ねない、一緒に生きるんだ。必ず守ってみせる。俺らしくない誓いだよね。キャラじゃないってわかってる。だけど、誓わずにはいられない。

大好きな子が、俺を信じてくれてるんだから。


「みんな、ごめんなさい。無駄な時間を過ごしちゃったね。もう大丈夫です、10階に行きましょう。」

「いいのよ、えりなちゃん。そのかわり、紫原くんにその秘密とやらを話した後は、私たちにも聞かせなさい?女の子1人で背負う必要のないモノだってあるのよ。」

「そうそう、えりなの苦しみや辛さは俺たちの物でもあるんだぜ?心配してませーんって顔をしてるけど、真ちゃんもかなり心配してた。だけど、一度決めたことなら貫き通したいよな。最後までえりなの優しさで俺たちを守ってくれよ!」

「はい!」


実渕と高尾が声をかけて、肩をポンポンと叩く。えりちんにとって、それがどれだけ嬉しいことなんだろう。こんな場所で自分を信じてくれる、それがどれだけ難しいことかきっと痛いほど身に染みている。

俺だって、赤ちんのことを信じきることができなかった。もしかしたら赤ちんは誰かを見捨てるんじゃないかとか、殺そうとしているんじゃないかとかいろいろ考えてしまった。それはこんな場所だからっていうのもあるんだろうね。それなのにみんなは無条件でえりちんを信じてくれている。


「この戦いがどうだろうと、私は諦めない。……たとえ何度繰り返したとしても」


ゆっくりと、10階にあがっていく。そいつの姿が見えてきても、動揺なんてしなかった。静かに銃を構えて、いつでも戦闘を始められるようにトリガーに置く指には力が少し入っていた。

心拍数も落ち着いているし、頭はいままでよりずっと晴れている。


「あれが、ウスタナク?」

「本当に元人間か?……どこもかしこも、人間とはかけ離れてる姿をしてんな」

「どいつもこいつも俺よりでけーとかどうなってんの?」


ウスタナクは俺よりずっとでかい。右腕を確認すると、ショットガンになっていた。ショットガンも、俺たちのとは大きさが違う。あんなんで撃たれたら絶対死ぬでしょ。


「確かに、こんなのが世界にいたら絶対大変なことになる。こんなの大量生産出来るはずないだろうし、ここで絶対に倒そう」


確かにこんな化け物みたいなの大量生産できるはずが無い。唯一無二の存在と言ってもいいかもしれない。ショットガンやギミックアームを腕につけてるってことは人工的に作られた可能性が高いよね。今までの奴らとは根本的に違う。


「つーか、10階おかしくない…?なんで、礼拝堂…?」


10階は他のどのフロアとも違っていた。うちの学校に少し似ている。礼拝堂って奴。光が入ってくるなら綺麗に見えるはずのステンドグラス、壁には女の人の像、あちらこちらにベンチが置いてある。でも形が残ってるベンチはかなり少ない。ほとんどが潰れてしまっていて座れそうにはない。


「病院に礼拝堂って、なんなのよ……」

「何を祈ってたんだろうね〜〜」


何を神に祈っていたんだろう。病気の完治?違う、きっと吐き気がしそうなくらい頭のおかしい祈りを捧げてたんだ。狂ってる、この病院全部。


「出来ることなら身を隠しながら戦いたかったけど、出来なさそうだね。ベンチボロボロだもん」

「あのショットガンまともに食らったらヤバそうだもんね〜〜」


隠れられそうな場所がないってのはキツイよね。何かを盾にして戦えないってことだし、リロードも上手くコンビネーションを取らないと出来ないかもしれない。

だけど、それだけの話だ。負ける理由にはならない。


「えりちん、行こう」

「うん、こんなの足枷にさえならないよ!」








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