LIFE GAME

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「敦くん!」

「んー?」

「ちょっと来てくれない?」

「?いーけど…」


7階から帰って来て赤ちんに休むよう言われたから仮眠室のベッドに横になっていれば、えりちんが俺のところまで来てそう頼んできた。疲れていたのに、えりちんの顔を見たらそんなのすっとんでいく。


「どこ行くのー?」

「調理場!いいのを見つけたんだ」

「いいの?」


手を引っ張って「早く早く」と言う姿は本当に可愛い。ただここが死の世界じゃなければもっといいんだけど…。まぁここだとずっと一緒にいられるし悪くないとか思ったりもした。ここにいる限り、離れ離れになってる時間の方が少ない。いや、もちろん帰りたいけどね?

こっから脱出できた後、学校終わりにバイバイするの寂しくなりそうで嫌。


「いいものってどれ?」

「あれ、取って!届かないの!」

「あれ?」


調理場の奥にある食材が置いてある場所に連れて来られてえりちんは一点を指さした。そこはえりちんの背じゃ背伸びしても届かない場所にある箱。俺にとってはすぐそばにあるものだから問題ない。こういうえりちんには出来ないことで頼ってくれるのは嬉しい。

なんだろ…これ…?


「……よっと」

「ありがと!」

「……これって、たこ焼き器じゃん」


手を伸ばして箱を取るとそこには『たこ焼き器』と日本語で書いてあった。えりちんが言ってた「いいもの」ってこれなの?ってゆーか、なんでこんなものまであるの。

えりちんが何をしようとしてるのかわかってしまった。


「まだねぇ、3つくらいたこ焼き器あるみたいなんだぁ。」

「へぇ」

「たこ焼きパーティーしない?」

「…しよっか」

「やった!!」


えりちんが満面の笑みで言うから俺は駄目とか面倒とか言えなくてただ頷いた。まぁ、言うと思ってたし、元より反対するつもりなかったんだけど。

たこ焼きかぁ、何入れようか。タコは絶対でしょ。


「みんなに何入れるか聞いてくるから全部下ろしといて!」

「うん、転ばないでね」

「はーい!」


えりちんが走ってナースステーションに行ってる間にたこ焼き器を下して箱から出す。うん、結構大きいしきれいだし使えそう。

それにしてもここ本当になんでもあるな。食材も定期的に補充されているようだし…。変なの。

たこ焼き器を箱から取り出して流しに持っていくと丁寧に洗っていく。本当ならこんなの面倒でやりたくないけどえりちんの為だしね。本当、えりちんのことになると俺甘いよなぁ。まぁいいけど…。


「敦くーん!」

「うわっ、ったくもー危ないでしょー」

「ごーめん。」


いきなり後ろから飛びついて来たえりちんに驚く。頭を撫でてあげたいけど生憎俺の手は洗剤でベトベトだから出来ない。


「みんなは何入れるって?」

「タコとーウィンナーとこんにゃくとー、天かすとーチーズとお餅とキムチと、コーンとパイナポー!」

「パイナップル?そんなこと言った舌バカ誰?」

「氷室先輩」

「室ちんほんっと引くわ」


パイナップル入れるとかなんなの?バカなの?バカだったわ。信じられない。聞いたことないし想像しただけで気持ち悪くなる。室ちんのことだし、反対しても食べようとするだろうから具材だけは用意するか。


「俺、これ洗っとくから具を探しといてくれる?」

「任せて!あ、後でかがみんとー桜井くんとー福井先輩が来るって」

「んー、おっけー」


買い物カゴを持って食材探しに出かけてくれる。たこ焼きなんて久しぶりだなあ。赤ちんなんてタコパ初体験なんじゃないの。もしかしたらやり方を知らなくてあたふたする赤ちんが見られるかもしれないと思うとちょっと楽しみ。


「タコパすんだって?えりなにはほんっと甘いよなあ。えりながいなかったら絶対やんねぇだろ」

「……自覚してるから黙ってくんない?俺のこと茶化す時間あるならえりちんのこと手伝ってきてよ〜」

「へぇ、自覚してんのか」

「福井ちん」

「はいはい、いってくる」


えりちんが食材探しに行った後すぐに福井ちんが手伝いに来てくれる。こことぞばかりにからかってくんのちょーうざい。でも本当のことだから、反論はしなかった。


「ただいま!食材全部見つけたよ!パイナポーもね!」

「謎のパイナポー呼びなんなの」


えりちんが帰ってきたと思ったら、パイナップル以外の食材を福井ちんに持たせてるのが見えた。えりちんの手には缶詰じゃなくて、一玉のパイナップルがある。もしかして、えりちん食べたいの?


「パイナップル、見つけてきてくれたんだね」

「氷室先輩!パイナポーだけ入れればいいの?」

「ううん、コーンとマスカルポーネチーズを入れるんだよ」

「ふーん、ちょっと美味しそうに思えてきました!コーンとマスカルポーネチーズ探してくる!」

「ちょっとまじでやめてえりちんの舌までバカにするのやめて。えりちんはそんなの食べちゃダメだからね、それからコーンもマスカルポーネチーズも探しに行かなくていい」

「アツシも食べたらわかるよ」

「わかりたくねーし!」


コーンとマスカルポーネチーズ、パイナップルが入ったたこ焼きのことを、トロピカルたこ焼きって言うらしい。なんでたこ焼きにトロピカルさを求めたの…。室ちんと一緒にいたら頭がおかしくなりそう。


「室ちんが食べたいんだから自分で用意して〜〜。えりちんはこっち、出来る?」

「出来るよ!」


大きなボウルにたこ焼き200個分の粉と卵と水を入れたものをえりちんに渡す。俺からボウルを受け取ったけど、ボウルがでかすぎてえりちんが持たれてるみたい。何これ。

腕プルプルしてて怖いんだけど!!


「よっと、よいしょ」

「もう俺がやるから……」

「えー、出来るよ」

「見てる俺が怖い」

「わかる」


パイナップルを切ってる室ちんもヒヤヒヤした表情でえりちんを見つめてた。今だけは室ちんと同じ気持ち。

えりちんはわかってくれたようでボウルを返してくれた。


「他に手伝う事ない?」

「んー…食器とかもう配ったしもうないんじゃない?」

「……そっかぁ」

「…えりちん」

「ん…むぐ?!」


しょんぼりしちゃったえりちんの口にウィンナーを入れてあげる。もぐもぐと美味しそうに食べている。


「それ食べたらみんなのとこ行ってお茶入れてくれる?それにこれからたこ焼き焼くんだからね、仕事はまだまだあるよ」

「うん…!」

「今摘み食いしちゃったの、みんなには内緒だよ〜?」

「…うん!!」


人差し指をえりちんの口元に当てると嬉しそうに笑ってくれた。よかった、元気になってくれて。しょんぼりさせたかったわけじゃないからね。


「敦くん、敦くん」

「ん?」

「ちょっとしゃがんで?」

「いーよー」


頭撫でてくれんのかなーと思ってしゃがむとえりちんは、俺の口の横に口付けてくれた。


「これも内緒ね?」

「………」


すっげームラッと来た、何これ。

可愛すぎるし……。今すぐにでも抱きたくなった煩悩を振り払うように頭をブンブンしたら、気を入れ直してたこ焼きの準備を進める。えりちんはパタパタとお茶の用意を持って走っていった。


「……俺だったら襲ってるよ。すごいな、アツシ」

「ホントだよ」


ぐっと我慢した俺ホント偉い。えりちんはたまにとんでもないことしてくるから困るんだよねえ。耐えるのが辛い。許されるなら手を出したい。

何も考えないようにタコパの準備を進めて、みんなが揃うナースステーションに持っていけばえりちんがワクワクとした表情で待ち構えていた。


「さー焼くぞー!!」

「たこ焼き久しぶりッス!」

「征ちゃんってたこ焼き食べるの?」

「勿論。美味しいよね」

「へぇ意外だなぁ」

「そうかな?」

「焼ける?」

「焼いたことはないな」

「じゃあ教えてあげるよ!」

「うん、ありがとう」


赤ちんやっぱり焼いたことなかったんだ。えりちんに教えてもらってるのも新鮮だな〜。失敗したら面白いのにって思ったけど、さすがに失敗しなかった。


「ぐっはあああ!!何ッスかこれえええ!!!」

「ああ、涼太くんになっちゃったの?大量のマスタード入りたこ焼き。ロシアンだよ。」

「いやいや、ロシアンやってないよね?みんなで楽しみながらやるのがロシアンっていうンスよ。これただのドッキリ」

「じゃあ、今からロシアンやろー!ハズレはトロピカルたこ焼きね!」

「じゃあってなに?!てかトロピカルたこ焼きってなに?!」

「トロピカルたこ焼きをハズレ枠にするのやめてくれないかな」


えりちんによるえりちんのためのトロピカルロシアンたこ焼きが始まった。ハズレのトロピカルたこ焼きは室ちんが作ってくれて、普通のたこ焼きに混ぜる。たこ焼きの元は一緒だから混ぜられるとどれがハズレかわかんない。

焼いてるときに食べる順番を決める。峰ちん、黄瀬ちん、黒ちん、高尾、福井ちん、実渕、えりちん、虹村サン、火神、葉山、宮地、最後に俺。混ぜたのは室ちんと赤ちん。


「普通のたこ焼きだったわ」

「なかなかはずれ出ないね」

「トロピカル焼き美味しいんだけどなあ」

「よーし、次は私だ!いただきます!」


えりちんの出番が回ってきて、迷うことなく1つのたこ焼きを取って口に運んだ。だけど少ししてたこ焼きを噛む口が止まり、口を手で押さえる。ハズレだったみたい。


「えりちん平気〜〜?ほら水だよ〜〜」

「美味しい!」

「え」

「タツヤくん、これすっごく美味しいよ!パイナポーいい感じ!マスカルポーネチーズも美味しい〜〜!」

「そうだろう?すごく美味しいんだ。」


えりちんがハズレを引いたはずなのに、とてもおいしそうに食べている。とてもじゃないけどおいしそうに思えなかった。それなのにえりちんがおいしそうに食べていると、もしかしたらおいしいのかもと気になってきた。


「俺も頂戴」

「もちろん」


室ちんにトロピカル焼きを1つもらう。案外いけた。何がどうなっていけるのかわからないけどうまかった。新しい発見をこんなところでするとは思わなかったよ。俺が食べたからみんなも安心したのか一緒になってトロピカル焼きを食べたけど、大体の人がおいしそうに食べた。酢豚のパイナップルとか、ピザのパイナップルとか案外合うのと同じなのかもしれない。


「……えりちん、寝ちゃったの?」


最後はみんなナースステーションで疲れて寝ちゃった。勿論えりちんも。
ここに来てから一番穏やかな顔で寝てるから俺は思わず寝顔にキスを落とす。

こんなところで寝たら風邪ひいちゃうかもしれないから、毛布を持ってきてかけてあげる。地べたは冷たいし、とてもじゃないけどきれいじゃない。朝起きたらきっと体中が痛いよ。きっと普段ならそう言ってベッドに運ぶんだと思う。だけど今日だけはそんな固い事は言わないでそのまま寝かしてあげる。


「朝起きたらまずはお風呂だね」


1人で入ろうとはせずにきっと俺を誘うんだろう。そしてまた俺は自分の性欲と戦うんだ。それを考えるだけで疲れるけれど、きっととても幸せなんだろうと思った。





「おやすみ。いい夢、見るんだよ」







明日も必ず幸せだから、不安なんて感じずにえりちんを抱きしめて、寝るんだ。

今日だけは、えりちんも嫌な夢を見ることなく穏やかに眠れたらいいな。








忘れない思い出
(辛い事ばかりじゃない)
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