LIFE GAME

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「………え?」


耳を疑った。

福ちんは顔真っ赤にしてるし、ミドチンは気絶したし、黄瀬ちんは何故かワナワナ震えてるし、室ちんはニヤニヤしてて気持ち悪い。いやでも、どの反応もわかる。そんなとんでもないことをえりちんに言われたんだから。


「えりちん、もう一回言って?」

「だーかーら、一緒にお風呂入ろ?ここ暗くてお風呂はいるの怖いんだよね。幽霊出そうで」

「ゾンビより幽霊の方が怖いって感覚がわかんねーし」


いないと思ってたゾンビがいるんだし、幽霊もいるのかもしれないけど俺はゾンビの方が怖い。だって、本当に死ぬかもしれないじゃん。幽霊はほら、何もしてこない可能性だって全然あるし。

ってそんな話をしてる場合じゃなかった。


「お風呂入ろうって、誰と誰が?」

「私と敦くんが」

「本気?」

「うん」

「一緒に?」

「うん」

「裸だよ、わかってる?」

「うん。さっきからどうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。」


室ちん、ヘルプ。

そうだ、そうだった。えりちんに羞恥心とか無かった。皆無だった。

「みんなが何で顔を赤くするのかわからない」とか言ってんだけど。俺が全然わかんないから。天然なんじゃなくて恥じらいっていう女の子には必ずあるものがえりちんにはない。本当にただそれだけ。

男子更衣室にも普通に入ってくるし、シャワー使ってる時も入ってきたことあったし、家や寮に泊まり(忍び込んで来た)に来た時も基本キャミソール1枚だったし…

俺の理性良くもったと思わない?

いやいや、そうじゃなかった。
室ちんに助けを求めようと思って視線を送るとニコニコしてこっちに寄って来た。

ちょっと待って、嫌な予感しかしない。


「アツシ、行っておいで」

「頭可笑しいんじゃないの」


何で2人分のタオルと着替え渡してくるの。そうじゃないんだよ、俺はえりちんに恥じらいを持って欲しいの。みんなに怒って欲しいんだよ。俺と一緒にお風呂に入るのもだけど、大勢いるところで言うセリフ?


「は?これ…えりちんのスウェットと下着じゃんなんで室ちんが持ってんの。」

「ふふ、秘密。それよりアツシ、女性を待たせちゃいけないよ。早 く 行 っ て 来 い 。」

「………わかった〜〜。えりちん、行こっか。」

「うん!」


仕方ないか、覚悟決めよ。

えりちんと手を繋いでお風呂に向かうと、えりちんはすぐに服を脱いでお風呂場に入って行った。せめて前隠すとかしないの、この子。


「はぁ……」


俺の理性大丈夫かな。大丈夫大丈夫、ここのお風呂は10人くらい一気に入れるくらい広い大浴場。近寄らなければ平気。

俺も服を脱いでお風呂場に入るとすでにえりちんは湯船につかっていた。あまりにも細くてじっと見つめてしまう。クローンのえりちんとは一緒にお風呂はいってないから比較は出来ないけど、細すぎるように感じた。


「お風呂久しぶりだー」

「ずっと入ってなかったの〜?」

「まぁねぇ。みんながここに来るちょっと前に監禁されちゃったからさー…」


子供みたいにスイスイと少し泳いでいるえりちんと話しながらシャワーを浴びる。とりあえずあたたまりたくて湯船に俺も入るとえりちんは俺の方に寄って来た。ちょっと、まじで。近寄らなければ大丈夫って気合い入れてたところなんだけど。


「お風呂っていいねぇ…落ち着く。」

「俺は全然落ち着かない」


近づいてきたところか正面から抱きついてきた。甘えるようにぎゅっと。タオルを巻いてないからえりちんを直に感じる。嬉しいけど嬉しくない。


「……えりちん、痩せた?」

「あーそうかなぁ…痩せたかなぁ…どうだろう」


そう言って手を湯船から出せば二の腕を自分でプニプニとし始めた。やっぱり細すぎ、こんな腕でショットガンとか使ってんの。折れちゃいそう。


「ちゃんと食べてた?」

「んー?あ、そういえば虹村先輩たちと別行動してから何も食べてないや。水だけはあったから飲んでたよ。たぶん虹村先輩たちもそうだと思う。って言っても、それまでに食べてたのだって乾パン的なやつで普通のご飯じゃないけどね」


やっぱり3階以外にちゃんとした食料ってないんだね。水だけは用意されてたってことは、死なないように配慮されてるってこと。人は水がないとすぐ死んじゃうし。


「お風呂出たらまずはお腹いっぱいご飯食べなきゃね。何が食べたい?」

「うーん、ステーキ!」

「えりちんって案外タフだね」

「そ?」


幽霊が怖いとか暗いのか怖いとかそういう女の子らしいことがいっぱい言うくせに、この状態で肉食べれるとかタフすぎでしょ。さっき、自分と瓜二つのクローンを攻撃したってのに。


「えりちん平気なの〜〜?」

「なんのこと?」

「自分を撃ったんだよ」


右手で指鉄砲を作れば、あの時のえりちんと同じように顎の下に突きつける。バンと口で発して撃ってみせたらくすぐったかったのか楽しそうに笑う。


「まぁ、いいものじゃないよね」

「当たり前だよ」

「でも平気だよ。私がした選択だもんね、覚悟を持ってコレを選んだ。自分で選んだ道を後悔したことなんかない」


嘘は言ってないようだった。自分を殺すなんて俺に出来るかわからない。どれだけ辛いことなのかも、理解さえ出来ない。けど、えりちんの目は真っ直ぐと前を見ていて、無理しているようじゃなかった。


「私が守りたいのは自分のクローンなんかじゃないからね。私が目指す目標にも目的にもクローンの私は含まれてない。こんなことで弱音なんて吐いてられないよ!」

「なにそれ、かっこいい」

「でしょ?…だから、言いたいことがあるの」

「言いたい、こと?」


俺の大好きな笑顔で俺をじっと見つめる。何を言いたいのかわからなくて、じっと見つめ返した。


「会いたかった!」

「!」


薄っすらと涙を浮かべて、本当に嬉しそうに笑っていた。そんな表情に胸がきゅうっと締まる。上手く声が出せる気がしない。


「うん、うんっ…」


俺はえりちんを失ったって思ってた。だから、こうやって触れ合えるのがなによりも嬉しい。本当は言いたいことがいっぱいあったんだよ、聞いて欲しいこともいっぱいあった。

俺の嬉しさはちっとも言葉にならなくて強く強く抱きしめる。


「敦くんまでこんなことに巻き込まれちゃって、本当は嫌なのに……嬉しいの。今ここに敦くんがいる…こんなに嬉しくて、頼もしいことはないよ」

「えりちんがいるなら、どこだって怖くない。もう、離さないから」

「ずっと戦ってきて、苦しいことも悲しいこともいっぱいあったけど、敦くんに会いたかったから何度だって立ち上がれたよ。だから…だから今本当に嬉しいの、離さないで敦くん」


離せない。こんなに大切で、大好きな人を離せるわけないよ。もう失わない。言いたいことだって全部言うよ。伝えられなくなるほど悲しいことなんかない。そんなことになるくらいなら、いっぱいいっぱいわがまま言うよ。えりちんを困らせるかもしれないけど、それでも後悔だけはしたくないから。


「俺、えりちんが好きだよ。えりちんは俺のこと、そういう意味で好きって訳じゃないだろうけど……絶対好きになってもらうから」

「?私が、敦くんを好きじゃない…って?秋田にまでついていったのに?」

「だって、えりちんは赤ちんに言われて陽泉に来たんでしょ?それに、俺はいっぱいえりちんを悲しませちゃったよね…」

「悲しむ?って何それ?っていうか私がそんな命令聞くわけないでしょー!」


俺がなんだか勘違いをしていたようで、えりちんが怒って俺のほっぺたを引っ張った。まぁまぁ痛い。


「違うの?」

「違うよ!征ちゃんについて行ってやれって命令されたけど、命令されたからついて行ったんじゃない。私が私の意思で敦くんと一緒にいたいから敦くんの後を追ったの。荒木先生から推薦は貰ってたけど、断ったから…。そのせいでちょっと大変だったけど。」

「そう、だったの?」

「敦くんならわかってくれてると思ってた」


えりちんが教えてくれたことが嬉しくて気持ちが抑えられなくて、そっと口付ける。すると、見たことないくらい顔を赤くさせてる。なんだ、そんな表情も出来たんだ。こんな表情見たことなくて抑えが効かなくなりそう。


「ん…あ、つし…くん?」

「怒ってたんじゃないの?マネージャーだってやってくれてないじゃん」

「怒ってないよ。マネージャーをやらなかったのは、敦くんに気づいて欲しかったの。前に私がいるからバスケ楽しいなんて言ってたけど、違うよ。敦くんは本当にバスケが大好きなんだよ。だから、自分たちと同じくらい強い人が中学にはいなくて寂しかったんだよね?」

「……うん」


えりちんは全部わかった上で、秋田までついてきてくれて、俺を見守ってくれてたんだ。俺が認めるまで、ずっと。


「俺ずっと赤ちんに言われて仕方なく俺と一緒にいてくれてると思ってたから…」

「違うよ、敦くんのことが好きだからそばにいたかったの。本当はもっと支えてあげたかったんだけど……ごめんね、私に嫌われてるとか思ってたなんて」

「ホント?俺のこと好き?」

「うん、大好き…大好きだよ、敦くん。」

「ん、ありがと…俺も大好き」


ずっとえりちんが俺に抱いてる感情は恋愛感情じゃないと思ってた。デリカシーないし。

でも、今は違うって言える。

えりちんから俺にキスしてくれるし、俺の胸板にすり寄ってくれる。


「ね、敦くん」

「んー?」

「私、みんなとストバスに行きたい!いっぱい遊びたいよ」

「……えりちん…」


クローンのえりちんとはそういう約束をしてたけど、本物のえりちんとは約束はしてない。ストバスなんて俺らが集まったらえりちんをほったらかしにして楽しんじゃいそうだよね。室ちんとか峰ちんとか黄瀬ちんとか火神とか、やっぱり室ちんとか。

なんて言っておいて、俺も楽しんじゃうかもしんない。


「俺も遊びたいな〜〜」

「うん、みんなで遊ぼう。絶対楽しいよ!」

「…うん、俺もそう思うよ」

「それが終わったらね」

「ん?」

「陽泉のマネージャーになるよ」

「ホント?!」

「うん、劉先輩と氷室先輩と敦くんを支えるの。今度こそ、私がみんなを全国一まで連れて行く!」

「うん、約束」


そんな夢みたいな話。どれだけ時間かかるんだろうね。でも、今ここにいるえりちんが願う夢なら、絶対叶えてみせるから。えりちんがそばにいてくれるだけでこんなにも力が溢れてくる。

えりちんがまたマネージャーをやってくれるなら情けないところはもう見せられないよね。


「まぁ、その前にやらなきゃいけないこともいっぱいあるけどね」

「全部のフロアをクリアしないといけないしね」

「それもだけど、征ちゃんだよ」

「赤ちん?」


えりちんは急に真剣な表情で赤ちんの話をする。赤ちんが今までえりちんの味方じゃないような行動を取っていたのは、クローンであることに気がついていたから。クローンのえりちんが死んで、本物のえりちんが見つかったならそのことだって解決したんじゃないの?


「征ちゃんは本当にクローンを邪魔者だと思ってたのかな?」

「んー?どうだろ、邪魔者扱いはしてなかったと思うけど、だからって味方はしてなかったかな」

「私が征ちゃんの立場だったら、クローンに何をしてでも情報を聞き出す。普段の征ちゃんだったら絶対にそうしてた。だけど、征ちゃんはクローンからなんの情報も得てない」


確かに、赤ちんの言うことが本当ならクローンのえりちんは自分がクローンであることを知っていたし、赤ちんもそのことを知っていた。それならクローンはなんらかの情報を持ってたと思う。だけど赤ちんは聞いていないのか、そう言う話はしなかった。


「態と黙ってるってわけでもなさそうなんだよね。本当に何も知らないって感じ。」

「それで、えりちんは赤ちんのことどう思ってんの?」

「征ちゃんは本当の意味でクローンを助けたかったんじゃないかな」

「本当の、意味?」


本当の意味ってどういうことだろう。俺からしたらクローンなんて外で生きていける場所はないと思うんだけど、助けるなんて出来るのかな。


「今までの行動全てがクローンのため、だったのかもって思っただけだよ。ちゃんと話して、征ちゃんにもストバス来てもらわないとね!今の雑談忘れて!それより、」

「ん?」

「洗いっこしーましょ!」

「いや、もうホント勘弁して…」

「?」


もうちょっと恥じらい持ってくんねーかな。恥じらいをここを出るまでに覚えてくれないと俺がまじでヤバイ。





「……って、無理か」






最愛のキミと
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