LIFE GAME
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「………大きい」
えりちんの覚悟を聞いて賛同したのは赤ちん以外の全員だった。それでついて来たのはミドちん、室ちん、山崎、桜井、高尾に俺で出撃をした。
えりちんはミドちんに色々言われたけど、ミドちんが本当は何が言いたいのかを理解出来ないようで複雑そうな表情をしていた。だけど、ミドちんが言ったことは今のえりちんにとって戦いには支障がないようで、クリア報酬だったマシンガンを装備して銃口をまっすぐ前に向け、いつでも撃てるようにしている。少しは動揺したみたいだけどね。
「あれが…ケルベロス」
「……こっからみるとふっつーに犬だな」
2、30mほど離れたところに大きい犬が5、6匹いるのを視認できた。ケルベロスもこっちに気がついたようで様子を伺うように睨みつけてくる。目は金色に光っていて、グルルと唸る声が低く病院内に響き渡る。
「………」
えりちんにならって俺もマシンガンの銃口をケルベロスにむける。予備の弾も腰のポケットの取り出しやすい位置へ移動させている。
俺を含めてみんな落ち着いている、怖いほど。呼吸も乱れてない。ショットガンもゾンビ相手に使ったのに、もう誰も肩を痛めたりもせず狙い通り当たっていた。
……強くなってる、確実に。
えりちんはそんなにスポーツは得意じゃない方だと思ってたけど、実際にやって経験して…強くなっている。俺たちだって負けていられない。
「みんな、マシンガンを構えて」
「…うん」
「和成くんは1番後ろね、背後を襲われる可能性があるから注意して!」
「おう!」
「山崎さんも後ろ頼みます!」
「わかった!」
「他は前!!!…来るよ!!」
えりちんにしては野太い声で言った。前に誰かが言ってた、主将向きの声だと思う。
えりちんがいるだけで全員の気合が入るし、無駄な肩の力を抜ける。
────いいリーダーだよ、えりちん。
『ガウッ…ガァア!!!』
1匹のケルベロスが吠えると、その場で睨んでいたすべてのケルベロスがこちらに向かって走ってくる。
「は、速い…!!」
「狼狽えないで!!桜井くん!」
「す、すみません!!」
「大丈夫!落ち着いて!」
「は…はい!!」
「……行くよ、撃て!!!」
マシンガンはババババババという連射している音で、ショットガンやハンドガンに比べて威力のなさそうな音に聞こえる。音だってショットガンに比べたら小さように感じた。でも、沢山撃ってるだけあって当たってる。数打ちゃ当たるって言葉本当なんだね。当たってはいるんだけど、ケルベロスは一向に倒れそうにない。
「兵器というだけあるな。」
「ええ、かなり頑丈のようです。」
「…仕方ない」
えりちんはマシンガンをしまってショットガンを出す。マシンガンを装備していたのは、素人の俺らが足の速い的を確実に仕留めるためだった。マシンガンは威力があまり高くないかわりに唯一無二の連射性能を誇る。それが数打ちゃ当たるを実現してくれたんだろうね。
「えりちんどうする気…?!」
「もちろん、撃つ気だよ…!」
こちらに向かって飛びついて来たケルベロスの口の中にショットガンを突っ込む。ケルベロスはショットガンごとかみ砕こうとして暴れていたけど、すぐにえりちんは引き金を引いた。
バン!!
『キャ、ゥン…!!』
頭を射抜かれてショットガンから飛ばされたケルベロスが動くことはなかった。犬のように情けない声を出しながら消えて行く。
こいつらもただの犬だったのにね。
「敦くん!ショットガン構えて!!」
「ん、おっけー」
いくら当たるっていっても、ショットガンの方が威力が高いんだからその方がいいのかもしれない。大丈夫、落ち着いて、きちんと照準すれば絶対に当たる。
銃口をケルベロスに向けて、確実に当てられる時を待つ。手ブレがあるし、マシンガンのように連射性はない。外したら命取りになるのはわかってた。
よく考えろ、絶対に外さない瞬間を!
『がァッ…!!!』
「っ!」
飛びかかって来たところ。空中なんだから空中で避けるなんて出来るはずもない。飛びかかってくると予想して、飛びかかってきたとき頭があるところに銃口を向けていた。
そして、俺も引き金を引いた。
『ッ…キャ、ウン…!』
「うん、コツは掴めた〜〜」
ショットガンの弾をうけたケルベロスはさっきと同じように転がり落ちて死んでいった。マシンガンの弾を残しているのをみつけて拾い上げる。
「桜井くん!!!」
「えっ?」
拾い上げようとしゃがんでいると、えりちんの焦った声が聞こえて素早く振り向く。桜井に噛みつこうとしているケルベロスがいて、そのケルベロスに反応できてない。
「何してんの…!」
俺が桜井に手を伸ばすより先にえりちんがケルベロスの口の中に手を突っ込んだ。
俺から見たら腕を噛まれてるかのように見える。
「馬鹿め!!!」
えりちんがケルベロスに噛まれたと動揺していたら、苛立っているミドちんの怒鳴り声とほぼ同じタイミングで銃声が聞こえた。ミドちんがえりちんの腕に噛み付いて離れないケルベロスの胴体に向かって発砲した音だった。ショットガンをいっぱつ至近距離で受けたケルベロスは、えりちんから口を離して消え去る。
「えりちん、腕は…?!」
「紫原!油断するな!!」
「え?」
「敦くん!」
「紫原さん!」
えりちんと桜井が2人同時に俺の横スレスレで発砲する。ドサっと何かが倒れる音が聞こえて振り向くとそこには1体のケルベロスがいた。俺に噛み付こうと飛びついてきてたみたい。
…いつの間に…。
えりちんのことで頭いっぱいだったから視界が狭くなってたんだ。もっと集中しなきゃ。
「ありがと、桜井」
「いえ、それよりえりなさんが!」
「大丈夫だよ、ハンドガン縦にして突っ込んだから。それで口閉じれなくしてやったの。何処も噛まれてないし怪我もしてないから安心して?」
「…そっか」
隣にいる、怪我も何もしてないえりちんをぎゅっと抱きしめると、えりちんも俺に抱きついて来てくれてついつい頬が緩んだ。もう周りにケルベロスの気配がない。えりちんの言うとおりだったね、ちゃんと倒せた。
俺も、えりちんさえいたらなんでも出来る気がする。
「ふざけるな!!!」
「?!」
抱きしめ合っていた俺とえりちんを引き離して、えりちんの胸ぐらを掴む。ギョッとした高尾が走って来て「まぁまぁ、落ち着けよ真ちゃん!」となだめるけど、手を離す気はなさそうですむしろ力が入っていた。
流石にこれは見過ごせなくてミドちんの腕を掴む。
「離せよ」
「退け紫原。こいつは何もわかっていないのだよ!」
「真ちゃん!えりなが苦しんでるだろ!」
「それに、紫原…お前にも心底腹がたつ」
一回だけ大きくため息をつけばそっとえりちんから手を離すミドちん。手を離してはくれたけど、怒りが静まった訳ではないようでえりちんと俺を睨みつけて来た。
「人事を尽くすというのは、できる限りのことをする。という意味だが、断じて自分を犠牲にして誰かを庇うことではないのだよ。今のお前を見ていると、腹が立ってしょうがない。誰かを頼るのは恥か?誰かに任せるのは情けないのか?…まるで、誰も仲間じゃないと言っているかのようだな」
「ちが…う…そんな、つもりは……」
「桜井を助けるために行動したことを責めているわけじゃない。誰かを助けるなら、お前がまず助かる必要があるのだよ。桜井を助けられても、お前が傷付いたら意味ないだろう。桜井の気持ちを考えろ。あんな行動をしなくても、少なくとも高尾と俺は対処が出来た。」
桜井の気持ちも考えろ、と言われてえりちんは桜井の方を見る。桜井もミドちんみたいにえりちんを睨みつけていた。
「もう2度とあんなことはしないでください!僕のために、傷付くなんて許しません。絶対に、許しません。」
「…ごめんなさい」
「いえ、僕こそ助けてもらったのに怒ってすみません。助けてくれてありがとうございました」
「うん」
確かにさっきえりちんがケルベロスの口の中に腕を突っ込むなんて危険なことをしなくても、ミドちんと高尾は対処してくれていたと思う。実際えりちんが腕を突っ込んでからミドちんが撃つまでほとんど時間が経ってなかったし、気付いてたんだろうね。高尾は周囲を気にしてくれてたから、わかってたんだと思う。
えりちんは自分が助けなきゃ、そう思って無理して行動してるところがあるように見えた。でも、それだけじゃない気がする。
「まさか真ちゃんからそんなことを聞くことが出来るとはなー。入学した時なんか、チームプレイなんて頭になかったくせに。パスだけ回せば点を取ってやるのだよ!」
「黙れ高尾。そんなこと言った覚えはないのだよ。それから紫原。お前はいつも言いたいことすぐ口にする悪い癖があった気がしていたが気のせいだったのか?悪いことだと思っているなら、怒鳴ってでも止めろ」
「……うるせーし」
「それから、彼奴は誰だ?俺の知ってる夢咲は、スリルを楽しむようなやつではなかったのだよ。」
最後の一文だけは俺にだけ聞こえるように耳打ちをした。俺の感じてる違和感がはっきりしてハッとした。そうだ、えりちんはこのスリルを楽しんでるんだ。俺たちを守りたいってのも本当だろうけど。
『The Fifth Floor Clear』
「あ、クリアの放送だ。やったね、敦くん!」
「…うん」
えりちんの満面の笑み。これを俺は守りたい。えりちんの笑みが俺の勇気になる、強さになる。でも本当は?この笑顔の本当の意味は?怖くて、怒ることも問い詰めることも出来る気がしない。
『…and The Fourth Floor Complete.』
「征ちゃんたちもちゃんと回収出来たんだね。」
赤ちんたちもアイテム回収が終わったようでほぼ同時にコンプリートしたという放送が流れた。端末を見ると前のように5階の鍵をダウンロードしていて、いつも通り。
次はどこになるだろう?
順番に行けば6階だけど…1階には近づけさせねぇ気かな。
「次は何処になると思う〜〜?」
「んー?6階じゃないかなぁ?」
「だよね〜〜」
えりちんもそう思うか、だよね〜〜〜。そりゃあ1階に行けばふつう出口がある。この病院をクリアさせたいなら1階は1番最後になると思う。1階をクリアして、病院の出入り口から出るってのがこのゲームのエンディングだというのなら。
『Open the Second Floor』
Second…?2階…?
「2階…?!今、2階って言ったよね、敦くん」
「う、うん……どういうこと?」
2階へ行けるのは予想外だった。なんとしてでも俺たちをこの病院に閉じ込めたいのなら、下には行かせない。まぁ俺ならってだけだけど。でもそうでしょ。上に行けば行くほど脱出は出来ない。窓を割っても飛び降りたら死んじゃうし。
でも、下の階にいけば窓から外へ行けるかもしれない。それにさっきも言ったけど、1階に行けたのなら出入り口があるはずだ。そこから脱出だって無理矢理しようと思ったら出来るんじゃ…?
「………まずいな」
「まずいって?」
室ちんが厳しい顔をして「まずい」という。それがなんでなのかわからなくて首を傾げると「俺たちはなんのために戦ってる?」と口を開いた。
なんのためって、そんなの決まってる。
「ここを出るためだよ」
「うん、えりなちゃんの言う通りだ。俺たちはここを出るためにこんなまどろっこしいやり方をしている。この方法しかないからだ」
「まぁね〜〜各フロアをクリアして、アイテムを全部回収する必要がある。そんなの面倒だし、まどろっこしい〜〜」
これだけ男が揃ってんだし、外へ出る方法を力づくでやろうと思えばこれまでも出来たのかもしれない。俺の力で窓は開かなかったとはいえ、別の方法を試したわけじゃない。
それをやらなかったのが、拠点が3階だということ。
上が何階まであるかもわからねーし、下に行く方法も窓を無理矢理割る以外ない。だから俺たちは黙ってこの生きるためのゲームをこなしていた。
「1階に行けばいい、そんな希望を持ってなかったか?1階に行けば外に出られるって」
「!」
そうだ、そうだった。室ちんが言いたいことがわかっちゃった。俺たちは1階に行けば外に出られるんじゃないかって思っていた。出るとするなら1階しかないって。
でも、出られなかったら?
「……そのために1階へ?」
もし俺たちが1階へ行って、出られないことを知ってしまったらどうすればいい?
俺たちの希望は1階だった。
1階にも出口がなかったとしたら。そしたら俺たちはどこへ行けばいいんだろう。各フロアをクリアする?何階まであるの?1階に出口がなかったら、どこから出るの?上から出て、それから?
「クリアさせるためのゲームだと思っていた、いや、思わされていたとしたら。」
「室ちんの言う通りだね…クリアさせる気がないゲームなら、1階に出口はない」
俺たちを諦めさせるために、下へ行かせている……?
仲間の意味