LIFE GAME
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「割れたし…」
「みんな!!ショットガンに持ち替えて…!絶対に中に入れちゃダメだよ!!」
パリンと窓が割れたのは10体ほど倒した後だった。まだまだ外には沢山のゾンビがいるし弾切れが心配なところ。 ってゆーかこんなに大量のゾンビどこにいたの?さっきまでそんなにゾンビがいるようには思えなかったのに。
「なんか…気味悪」
まるで誰かがこっちに差し向けたような。そんな気持ち悪い違和感を覚える。あまりの数の多さに心が折れそうになるけど、えりちんがショットガンを持って必死な様子で応戦しているから俺も頑張ろうと思える。まぁ、俺もさっきえりちんとゾンビと戦った時にショットガンを使ったから、そろそろコツを掴んできた所。
『ゥアぁ…ウ!!』
「ちっ、気持ち悪いわね…!!」
「やべーぞ、押し切られる…!一体何体いやがるんだよ!!」
「ちょっと峰ちん下手くそー」
「うっせぇ!!!」
峰ちんの言う通りこのままだと押し切られる。俺たち6人だけで何十体のゾンビと戦うのは少し無理があるし、いくら散弾銃があるからといっても弾の数が限られてる。いつ弾切れを起こしてもおかしくない。
えりちんどうする?何てえりちんを頼る言葉は使いたくなくて自分の脳で考える。えりちんを頼らなくてもこれくらいの危機くらい、俺なら最善の方法で回避することだって、えりちんを守ることだって出来るに決まってんじゃん。とにかく1番怖いのは弾切れ。タイミングをよく考えて赤ちんに電話しなきゃね。中々帰ってこないから何かあったのかと心配はしてるかもしれないけど。
まだ慣れていないのもあって、残弾数がいくらあるのかなんて考えてない。目の前の敵を倒すことしか頭にないんだよね。だから、リロードするとき「弾がないかもしれない」ってドキっとする。
「しまった!弾切れ…!!」
「はぁ?!ちょっと早くリロードしなさいよ…!」
「もう予備もねぇよ…!」
「ちっ、俺もだ…!」
弾切れのことを考えてる時に、ソレが起こってしまった。峰ちんと森山の弾切れ。どうする…どうやって、切り抜ける?ゾンビの数が電話する余裕をくれるほど減ってない。今端末を取り出して電話するのは無理。
戦ってないメンバーがナースステーションに弾が1つくらい落ちていないかと探してくれているようだけど、都合よく落ちているわけもなく補給はされない。えりちんに言われて持てるだけ持って来たけど、俺も手持ちがない。
「敦くんは森山さんのフォローに回って!!私は大輝くんを…!」
「っ…わかった!」
えりちんに言われて森山のフォローに向かう。えりちんも流石に焦っているようでそれ以上の指示はない。
今、えりちんの判断がなかったら…そう思うと悔しくて悔しくて、本当に遣る瀬無い気持ちでいっぱいになった。それでも少しでも力になりたい、だから…!
「ねぇ、アンタ。ハンドガンの弾もないの?」
「ハンドガンなら後少しだけ残ってる…が、俺の腕なら3体倒せる程度だな」
「それで応戦して。ねぇ、アンタ宮地、だっけ?これで赤ちんに連絡とって救援頼んでくんない?」
そう言ってショットガンを片手で持って撃ちながら宮地にポイっと端末を渡した。誰かに頼むとかあんまりしたくなかったけど、そんなこと言ってらんないよね。
もうすぐ全員の弾がなくなる、そうしたら戦う術がなくなってみんな死んでしまう。そうなる前に、赤ちんに助けを求めるのが1番だと思った。元からえりちんの作戦でも赤ちんに救援を求めることになってたし、そのタイミングが本当に今だったのかはわからないけど、俺にとって今が1番いいタイミングだと思ったから電話をすることにした。
「はぁ?!赤ちんって…赤司のことか?」
「そう、早くして」
「テメー、先輩には敬語遣え轢くぞ!!」
「死にたいの」
「…わーったよ」
「一応、スピーカーにしてー」
今、敬語がどうとか言ってる場合じゃねーじゃん。何で年上ってそんな細かいこと気にすんの?こっちは命かけて戦ってんのにね。
だけどそれは宮地もわかっていたようで、赤ちんに電話をしてくれる。赤ちんはすぐにでてくれた。
『敦?どうかしたのか?』
「わり、秀徳の宮地だ。今、紫原たちがゾンビ?と応戦してんだが、弾切れし始めててあぶねぇんだ。救援頼めるか?」
『…今、何体くらいいますか?』
「あ?あーえっと…まだ20体以上はいるな。」
『そうですか……』
「は、何お前…助け寄越さねぇ気か?!」
赤ちんがすぐに助けにいくって言わないことに違和感を覚えた宮地が叫ぶ。何、赤ちん…俺たちを見捨てる気なの?犠牲は仕方がないってこと?
えりちんが気にしていたことが起こっちゃうってわけ?
『赤司っち代わって!…みんな!無事なンスか?!』
「黄瀬…?!」
「黄瀬ちん…。うん、今のところ誰も怪我してないよ」
『今の声笠松先輩ッスか?!無事だったンスね、よかった!今から助けに行くから少しだけ待ってて欲しいッス!』
『俺も行く!!先輩たちがいるなら行くしかねーだろ!』
「わかった。何とか持ちこたえるから早く来てね」
途中から赤ちんにかわって黄瀬ちんが話を進めてくれて、その後ろでは高尾や伊月の声も聞こえた。ちょっとだけ赤ちんが責められている声も一緒に聞こえてくる。何とも言えない気持ちになった。
だって、赤ちんの考えの方が正しいかもしれねーじゃん。誰かが助けに来てくれたって、全員が生きて戻れる保証なんかないし。少しでも怪我をしたら終わりなんだよ、今助けに来てくれる黄瀬ちんたちにとってリスクしかない。赤ちんにとっては出来れば行かせたくないって気持ちもわかる。犠牲者を増やしたくないしね。
「えりちん、聞こえてたとは思うけどみんなが来てくれるよ!」
「ありがとう、敦くん!みんなが来てくれるまでの時間くらい稼げる!武器を持ってない人はもっと下がって!絶対にゾンビに触れないように!!」
えりちんも銃弾はもうないはずなのに、時間稼ぎに自信があるようだった。大切な銃弾を使わずにどうやって切り抜けるつもりなんだろう。そんな疑問を抱いていたら、ナースステーションにあった椅子をゾンビに向かって投げた。
「!…そっか、絶対に倒さなくてもいいってこと」
「敦くん?」
「えりちん、下がって!」
何もゾンビを倒すだけが時間の稼ぎ方じゃない。とにかくゾンビに傷を負わされることがなければ、こっちの勝ちだ。俺たちの勝利条件は、ナースステーションに入られず、全員無傷であること。それなら銃弾が少なくてもやれる事はまだある。
「アツシ!!」
「わかってんじゃーん、室ちんナイス」
俺と全く同じことを考えていたようで、俺が求めていたものを室ちんがゾンビに向かって投げてくれた。これで助けに来てくれる予定の黄瀬ちんたちが安全にここまで来れたらいいんだけどね。
「あれって、消化器?!敦くん、何を…!」
「これで、時間稼げるよね?」
室ちんが投げてくれた消化器をショットガンでうつ。何かに役立てばいいと思って消化器の位置を確認していた。
「ここに置いてあった消化器は加圧式消化器。銃で撃てば破裂する!」
そのかわりハンドガンじゃ衝撃を与えれそうになかったから、貴重なショットガンを使った。お陰で消化器は予想以上に派手に破裂して視界が白くなる。目くらましにもなるし、破裂したから何体かはその破裂で倒せたかもしれない。
「みんな!!大丈夫ッスか?!」
「涼太くん!」
煙幕を上手く使って、助けに来てくれた黄瀬ちんたちがゾンビをナースステーションの外側から倒してくれる。これで一気にカタをつけに行ける。
森山に、峰ちん、実渕はすでに弾切れで、えりちんと俺だけで中に入れないようにショットガンを撃ち続ける。弾切れなのをわかってた黄瀬ちんが弾がないやつに向かって、弾が入ってる箱ごと投げた。
「へ〜〜黄瀬ちんにしては気がきくじゃん」
「ちょ、酷くないッスか?!」
「涼太くんありがとう!」
「いやいや、えりなっちが無事でよかったッスよ!もー紫原っちもえりなっちくらい素直だったらいいンスけどねえ。」
「うっざ」
煙幕が思ったより時間稼ぎをしていてくれて、落ち着いてリロードができる。黄瀬ちんがいっぱい持ってきてくれたから銃弾は余裕がある。これで片付きそうだけど。もし、黄瀬ちんが赤ちんから端末を奪って話を進めてくれていなかったら…、もしかしたら赤ちんは俺たちを見捨てていたかもしれない。
……それが、怖かった。
俺でさえ仲良くなくても見捨てられる自信がない。そんなあっさり切れるかって言われたら、絶対無理。どんだけ面倒臭くても今の黄瀬ちんたちみたいに、助けに行くような気がした。だって、えりちんならそうすると思うから。赤ちんの考えはわかるけど、それを本当に実行出来るかって言われたら出来ない。
「…はぁ、はぁ…片付いたわね…」
「大丈夫ッスか?!って、えりなっち!」
「っ…えりちん!」
そこにいたゾンビすべてを倒してすぐに黄瀬ちん、高尾、伊月はナースステーションに入って来て俺たちの安全を確認した。
その瞬間えりちんは膝から崩れ落ちて肩で息をしていた。ずっとショットガンで撃っていたんだから、消耗は回避できないとは思ってたけど、無理させ過ぎた。
「えりちん…」
駆け寄ってえりちんの背中をさすりながら目線を合わせるとえりちんは軽く微笑んですぐに立ち上がった。
「ごめんね。安心したら力が抜けちゃって…もう、大丈夫…。涼太くん、高尾くん、伊月さん。助けに来てくれてありがとうございました」
「いいンスよ!そんなの仲間なんだから当たり前じゃないッスか〜!」
今回の勝利条件はゾンビを中に入れないことだった。出来るだけ全員を守るにはゾンビを中に入れない方がよかったから。距離を取りたいってことだね。その勝利条件を満たすことが出来たし、誰も怪我をしなかった。俺たちの完全勝利って言っても言い過ぎじゃないと思う。
よかった、本当によかった。
えりちんはここで仲間を全員失ったんだし、安心して当然だよ。生き残れて、本当に良かった。
「……赤司っちが何を思ってるかはわかんねぇッスけど」
「征ちゃん、私たちを見捨てようとしてたわよね…」
「それはわかんねぇ、何か悩んでるみてぇだったけどな。…ま、プラスに考えよーぜ。なんか策練ってただけだって。な?」
高尾がポジティブな方へ考えを導いてくれる。でも、赤ちんはそういう奴だ。自分だけが生き残りたい。じゃなくて『どれだけ多くのメンバーを生かせるか』しか考えてないだけ。赤ちんは現実主義だし、『全員で』なんて甘い言葉を信じてるはずがない。俺たちも決して甘いことを言ってるわけじゃない。全員でなんて難しいのはわかってるし知ってるけど、その為に全員命をかける覚悟は出来てるし、そもそも選択肢に見捨てるなんてものは存在してない。
……それが赤ちんにはあるってだけの話。
それは悪くない。寧ろ現実が見えているから誰かが死ぬってなったとき、最小限のダメージで済む。それに、それが一番リアルだから。
ゲームでも、小説でもなんでも…見捨てるときは見捨ててる。理由は色々。任務の為、約束の為、恋人、家族の為…エトセトラ。それらをやっていたり見ていたり読んでいたりして『それは仕方がない』で終わらせていられるのは当事者じゃねーからっていう単純な話。
今はリアルで起こっているから、動揺するしふざけんな、って思ってるだけ。…赤ちんが今俺たちにしようとしていたことは、普通だってこと。
「やぁ、お帰り。お疲れ様、待っていたよ」
ただ俺たちが3階になんとか戻ってきた時、赤ちんはいつも通りに笑って出迎えてくれた。だから余計に悪役に見える。
なんで赤ちんが自分から悪役に見えるようなことをするのかはわからない。必要とは感じてないし、むしろ不要だと思う。みんなの不満が募るのはよくないでしょ。こんなところで仲間割れなんて笑えねーし。
「ただいま」
何か考えがあるっていうなら、今は黙っててあげるよ。
見据える先にあるモノ
(それが僕だってだけの話さ)
コンセプト
『生』と『死』
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