LIFE GAME

□09
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「はぁっ…く…」

「えりちん!」

「大丈夫…だから!」


バァン!というとても大きな音がするショットガン。ハンドガンの半濁音とは似つかない激しい音に耳が少しだけ痛む。けど、それ以上に反動の衝撃が強かった。

俺はいつも鍛えているし、がたいはいいから全然平気だけど…。えりちんはそうじゃない。いくらハンドガンで慣れていたとしても、ショットガンを扱うのは初めてのはず。使い方を習っていないのに素人が扱っている時点で危険なのに、反動で悲鳴をあげているはずのえりちんの肩。それも、これもただの憶測でしかないけど、撃つたびに歪む顔が…辛そうだった。


『グァあア!』

「ラスト…!」


確実に1発でゾンビを仕留めていた俺たちは、室ちんたちがナースステーションに入ってからものの数分でゾンビを片付けた。散弾銃と言われるだけあって狙えば2体同時も出来た。ただ貫通力には長けていないようで後から来るゾンビたちが1歩また1歩と近づいてきたのが厄介だったかな。


「……ショットガンの弾だ…」


ゾンビたちが残していった物は緑色の箱で、そこにはショットガンと英語で書かれてあった。


「えりちんどうかした?」

「…3階では、ショットガンの弾は見付からなかった…」

「……その階ごとに所持品にあった物をゾンビたちが持ってるってことだね」


3階で持っている武器はハンドガンのみ。3階をクリアして4階に行く時には新たに手に入れたショットガンを持っているはずだ。だから、4階ではショットガンの弾が手に入る。ゾンビもショットガンの弾を持ってるし、たぶん4階を探せばいっぱいショットガンの弾を見つけることが出来るんだろう。そんな都合のいいことが起こるはずがない。気味が悪いってのはこういうことを言うんだね。


「…誰かが用意した、としか考えらんねーじゃん」

「そうだね…」


このすべてに、裏があってそこにはボスのような奴が絶対にいる。俺たちを試しているかのような、そんな感じさえもする。道具は揃えてやったし、必要なものはすべて必要になった時に与えてやるなんて意思もありそうだ。嫌になってくる。何で俺たちがここにいるのか、何で俺たちなのか、何でこんなことになっているのか、俺たちには知る権利がある。ぜってー暴く。

俺たちをこんな目にあわせてくれたやつのもとへ、必ずたどり着いてみせる。


「…ナースステーションに入ろう。氷室先輩たちが待ってる」

「そうだねー」


2つ落ちていたショットガンの弾が入った箱を拾って、その内1つを俺に寄越す。丁度減りつつあった弾を入れるポケットのなかに箱ごとしまう。他に何も落ちていないことを確認したら、えりちんと一緒にナースステーションの扉をスライドさせて中に入っていった。

ショットガンからハンドガンに持ち替え、ライトを付けるとゆっくりと中を見渡しながら中へと進んで行く。中に入っていったやつらが逃げて来てないってことはとりあえず安全な場所だったんだろうけど、何があるかわからないから念のために慎重に音を立てず歩く。


「アツシ!えりなちゃん!」

「!氷室先輩…!」

「室ちん、脅かさないでよ。」


みんなで隠れていたようで、ナースステーションの机の下から出て来た室ちん。本当に心配してくれてたようで安心したように笑っている。おーげさだし、俺たちが負けるわけないじゃん。

そんなことより、急に出てこられたらびっくりすんじゃん。


「よかった、無事だったんだな。2人とも怪我は?」

「私は、……ないです」

「俺はないよー。えりちん、嘘は良くないね」

「?えりなちゃん、どこかに怪我を?」

「け、怪我なんて…」

「肩、痛めてるでしょ。タブレット、食べな」


奥の方から現れた室ちんに怪我をしてないか聞かれて、えりちんは何の遠慮なのか“してない”と答えてたけど、俺は知ってる。

ショットガンの衝撃にえりちんの肩は、耐えられていない。


「ショットガンのせいか…」

「大丈夫だって、ね?」

「ダメダメ、我慢は禁物だよ〜」


最初に支給された俺のタブレットを一つえりちんの口の中に入れると、えりちんは申し訳なさそうに眉を下げてガリっと噛んで食べた。

こんなので治るのも不思議だ。タブレットだけでどんな怪我でも治るなら、とっとと普及してほしい。バスケで万が一怪我したとしてもすぐ治るってことでしょ〜?デメリットないじゃん、実際きちんと治るし、まだ開発途中ってわけでもなさそう。ホント、なんでこんなものがあるんだろう。聞いたこともなかったんだけど。


「治った?」

「…うん、ごめんね敦くん」

「いーの。言ったでしょ、俺つえーの」

「…そうだったね。」

「それで、室ちんなんか見つかった?」

「ああ、他のメンバーが見付かったんだ」

「!ホントに?!」

「じゃあ赤ちんに連絡して、一旦3階に帰ろう」


そう言って俺が持っている端末で赤ちんに連絡しようと赤ちんの連絡先を探す。その間に室ちんが他のメンバーをこちらに連れてきてくれていた。


「あった」


赤ちんの連絡先を見付けると赤ちんに電話をかける。同じ端末を持ってる同士は電話が出来るけど、外には繋がらないってのも凝ってると思う。本当に大掛かりすぎるでしょ、武器も、道具も人数分きっちりと揃えてくれている。しかもその技術は見たことも聞いたこともないくらい、高い技術で出来ている、なんて。

どれだけのお金が動いてるの?

本当に犯人は1人なわけ?


『敦か』

「赤ちーん、他のメンバーを見付けたよー」

『誰を見付けた』

「えっとねー、げ…」

「アツシ、私情は持ち込まない」

『どうした?』

「…何でもねーし…、誠凛の木吉鉄平に、海常の笠松ー。桐皇の若松と秀徳の宮地…んで、霧崎第一の花宮と山崎」


何で、木吉鉄平が…。俺こいつ苦手なんだよね、苦手っつーか嫌いっつーか。あんまし関わりたくない男。俺が関わりたくないってのもあるんだけど、えりちんを関わらせたくない。馴れ馴れしく触って来たりしそう。ちっちゃくて可愛いなーみたいな感じで。想像しただけでもヒネリ潰したくなる。


『わかった、全員一度戻ってきてくれ』

「おっけー」

「敦くん、木吉さん嫌いなんですか?」

「んー、そうなるのかな」

「なんだよー、紫原ー。仲良くしよーぜ」

「は?何でアンタなんかと、冗談キツイんだけど」

「んー?冗談なんかじゃないぞ?」

「そういう事サラっと言うからアンタ嫌い」

「で?この女の子は誰なんだ?ちっさいなー!」

「ちょっと!触んな!」


絶対あいつ触るって思ってたら案の定えりちんの頭を撫でる。ついムカっとしてしまって木吉の手を叩いた。

いやもう、ほんっと触んないで。中学の時にあんだけボコボコにしてやったのになーんで俺に絡んでくるかな。話しかけてこなくていいってのに。


「おっと、いってーな」

「敦くん!木吉さん、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、気にすんなって!」

「あーもー、なんでえりちんが困った顔するかなー。ごめん、木吉に謝るからからそんな顔しないで」

「なんだ、紫原はその女の子の事が好きなのか」

「はぁ?アンタさー…」


えりちんが困った顔するのは嫌で、折角謝ろうと思ってたのに木吉がうざったらしく絡んでくる。うざすぎて謝るのをやめた。

木吉とこれ以上ここで話す必要もないでしょ、って思ってえりちんとさっさと帰ろうとしてた時だった。





バン!!





「?!」

「な…!」


ナースステーションの窓を叩く音が聞こえて、身構える。冷静になって、一旦ハンドガンのライトを消して、360度ガラス張りになっている外を見る。


「ちっ…囲まれてんじゃねぇか!」


360度、ゾンビが隙間をあけることなくそこにいた。20体…いや、それ以上が窓ガラスを割ろうとバンバン叩いている。ハンドガンにあるライトの光に気がついたのか、集団が俺たちに襲いかかって来た。


「どうすンだよ!えりな!!」

「このままナースステーションの中から戦おう!絶対に中に入れないように」

「それって籠城戦ってことよね?窓が割れれば中に侵入してくるんじゃないかしら?!無謀よ!だったら私たちが外に出て、ゾンビたちを引き付けた方がいいわ!」

「それは絶対にダメ!!」

「どうして?!」

「みんな落ち着くんだ。まずはえりなちゃんはどうしてナースステーションの中から戦った方がいいって思うのか教えてくれるか?」


籠城戦をするなら後退する場所がない。自ら逃げ場を失っているような戦い方だと思う。数の有利を取られてるとはいえ、あいつらを引き付けてナースステーションから離れさせた方がいい気はする。

みんな焦ってるから考えがまとまってないのかも。かという俺もどうすればみんなが助かるのかわからない。


「ゾンビはもう私たちを見てる。頑張って引きつけようとしても、全部が私たちを追ってくるわけじゃない。それに、派手にやれば今ここにいないゾンビだって来るかも。数の有利をすでに取られてるのに、前も後ろもってなると勝ち目は絶対にない!」

「っ…それは……」


全部が俺たちを追ってナースステーションを離れるわけじゃない。確かにそうだよね。残ったやつが窓を割って、中にいるメンバーを襲う。見つけたやつらは武器を持ってない。自分の身を守る術さえないんだから、えりちんのいう通りナースステーションの中から全員を守りながら戦った方がいいかもしれない。


「それしか…ないのね…!」

「っ…はい…でもレオ姉が言ってることも間違ってない。こんなの無謀すぎる。すでに数の有利を取られてるし、ある程度数を減らすことが出来たら征ちゃんに救援をお願いしよう!」


助けてくれるかは、わからないけど…と小さい声で言う。確かに赤ちんは現実主義だし少しでも勝ち目がないって思ったら助けに来てくれないかもしれない。


「武器を持ってないメンバーを囲むようにしてなるべく固まって戦いましょう。ショットガンの弾は現状、ハンドガンより貴重で数が少ないです。なので、出来るだけ温存しましょう」

「わかった。ここぞって場面で使えばいいんだね」

「…えりちん、」

「大丈夫!さぁ、武器を持ってない人は私たちの後ろに!!…絶対に室内に入れないで!!」


えりちんがリーダーだってのはわかってる。けど、こんな危険なときどうすればいいのか自分では判断できなくてえりちんに判断を仰ぐ。

それが堪らなく悔しい。

たった数日じゃん。ここに来てからたった数日しか変わらない。なのにこんなにもえりちんと俺に差がある。頼らなきゃ、次にどうすればいいのかさえ今の俺にはわからない。


「えりちん……怖くない?」

「?…大丈夫、敦くんがいるから!」


俺がいるから怖くないって言ってくれるえりちんを愛おしく思えてしまって胸がきゅうっと締まる感覚がある。

俺はえりちんにとって、そばにいるだけでいい存在になりたかったわけじゃない。今度こそはえりちんをこの手で守りたいと思ってたんじゃん。


「うん、俺もえりちんがいるから何も怖くない」

「がんばろうね!」


えりちんを頼らなくてよくなるまで、あとどれだけの時間が必要かな。1秒でさえ、長いと感じるのに。


「今回の勝利条件は室内に入れないこと!!ある程度数が減ってきたら征ちゃんに連絡をして、救援を頼みます!!」


えりちんがこれからの戦いについて最終確認をする。やることさえわかれば、もう焦ることはない。目的と目標はいつだって安心感をくれる。



「絶対に諦めないんだから!!」




暗闇に溶ける、キミの姿
(頼って欲しいんだ、俺は)
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