LIFE GAME

□01
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「本当、ここどこなの」

「アツシ、イライラしてても仕方ないだろう?」

「まぁそうだけど」


目が覚めたら真っ暗な病室にいた。

どうして病院ってわかるかって言われたら、消毒液の独特な匂いがキツすぎて。病院に行けば必ず匂う嫌な匂いだから間違えるはずがない。

けど、何故自分たちがここにいるのかがわからなかった。俺たちは誠凛、海常、秀徳、霧崎第一、陽泉+崎ちん、虹村サンとで合宿を行うことになっていた。だからバスで合宿に向かっていたはずなんだよね。崎ちんぜってー来ねーしとか思ってる。いや、もしかしたら虹村サンに殴られて連れて来られてたかもしれない。虹村サンは帰国していて、赤ちんに誘われたらしい。

何があったのか思い出そうとしても、途中から記憶がない。合宿を行う予定地は東京にあるどこかだと聞いた。どうせ連れて行ってもらえるんだしと詳しい場所までは聞いていない。東京まで飛行機で行き、そこからはバス移動だった。移動するだけで疲れる。座席が俺たちの体型に合ってないから。それもあって疲れていたような気がする。バスに乗ったのは覚えているけれど、そこからどうしたのか一切記憶にない。寝ていたのか気を失っていたのか。気が付けば室ちんと病室で倒れてた。

ドッキリ?いやいや、こんなドッキリ仕掛けてくるやつ絶対いねーし。


「んー、特に何もないね。暗いしよく見えないけど、病室には俺たち2人だけらしい」

「うん、そうだね」


別に病室のベットで目が覚めたわけじゃない。病室の床で目が覚めた。誰かに連れ込まれたとしか考えられないよね。ベッドの上ならまだ、自分に何かあったのかと思うけど床なら治療されたわけでもない。

とりあえずまったく情報もなく病室を出るのもなんだか危ない気がして、室ちんと一緒に病室で情報を探す。望みはあまりないだろうけど、カルテとかで病院の名前とかわかればいいなって思った。けれど、案の定何も見つからなかった。6つの病院のベッドが並んでいる普通の病室。引き出しやらなんやらを開けて調べてみてもボールペン1つも見付からない。


「なーんか、不自然だよね〜〜」

「ああ、まるで誰かに物色された後みたいだ」


そう、まさにそんな感じだった。病室自体はそこまでボロボロってわけじゃなかった、古びているのは古びているから現在も使われている病院ってわけじゃないみたいだけど。それにしても、何もなさすぎる、というのが第一印象だった。本当にかつて使われていたのかと疑うほど、生活感がないって感じる。


「病室でじっとしていても仕方がないね。何も見付からなかったし、外に出てみよう。何があるかわからないから慎重にね」

「わかった」

「俺たちだけがこの病院に連れて来られたわけじゃないはずだ。みんなもこの病院のどこかにいると思う。とりあえずは仲間を探すことを優先しよう」

「ん、おっけー」


室ちんの提案の元、スライドタイプのドアをあけて病室から外に出た。病院の中はかなり暗い。窓がないから一切光が入ってきていないのもあって、真っ暗だった。自分の吐息と、足音以外音も何も聞こえては来なかった。


「病室にしか窓はないみたいだね」

「まぁ廊下側にも窓があったとしても、どーせあかねーし」

「窓から空さえ見えなかった、なんなんだこの病院…」


ここが病院である以外に本当に情報が1つもなかった。病室にある窓は何故か全部あかない。施錠しているわけでもなかったようだけど、ビクともしなかった。この俺の本気でも開けられないなら他の誰がやっても開けられないと思う。それに加え、外が真っ暗で何も見えない。


「窓のアレはなんか加工されてるっしょ〜〜」

「そうだとして、なんのために?荷物も何もないし、これじゃあ時間さえわからないじゃないか」


合宿に行くための荷物も全て取り上げられたのか手元にはなかった。もちろん個人で持っている携帯電話もない。だからこんな暗い中でもライト1つつけられないし、他のやつに連絡することも時間を把握することも出来なかった。

窓は加工されていて真っ暗で、外の様子さえ伺う事は出来なかった。今が朝なのか昼なのか夜なのか、大体の時間さえわからせてはもらえない。早くここから脱出しないと狂ってしまいそうだ。

これだけわからない事が続くとこんなにも苛立ちが募るのかと初めて知った。ポケットに入れてあったお菓子は取られなかったみたいで、まだあるけれど食べようとは何故か思わなかった。






「───ぅ、ぁあっ…ひ、っく…ぃやぁっ…1人いやぁ…!」






────それは聞き慣れた声、だった。

突然静かすぎる病院の中で、誰よりも大切で誰よりも大好きなあの子の声が響き渡った。その声に反応して身体が勝手に止まる。


「誰かいるみたいだね…女の子かな…」

「……えりちん…」

「────ぃ、やぁああ!」


バンっ!


「銃声?!」

「えりちんっ…!」

「アツシ?!待つんだアツシ!」


今の声はクラスメイトの夢咲えりなの物だった。帝光の時からずっと一緒で、俺を気遣って陽泉まで来てくれた、俺の大好きで大好きなえりちん。ずっと聞いてきた声だ、聞き間違えるはずもない。

えりちんの声は涙声だった。それもそうだ。えりちんはかなり怖がりで、少しのことでもすぐに泣いてしまうような小動物のような女の子。こんな真っ暗で、なんの情報もない場所にいたら泣くのは当然だと思う。

しかも、えりちんの声だけじゃなくて銃声までが病院内で大きく響く。なんで病院内で銃声が聞こえるのかわからないけど、えりちんが危ない目にあっていることだけは理解できた。

なんでなんでなんで?なんでこんな所にえりちんがいるの?何で泣いているの?今の銃声は何?

そう思ったら勝手に身体が動いた。えりちんが泣いていると思うとじっとなんてしていられない。声がした方に向かって走る。真っ暗過ぎてほとんど何も見えないから、壁にぶつかったりしないように壁に手を置いて滑らせながら走る。どこに壁があるのかどこが曲がり角なのかを把握するために。


「っ…じょー、くん…ッ!!」


俺の大嫌いな奴の名前を呼ぶえりちんの声に反応して、ナースステーションがある曲がり角を曲がる。

そこにはもう普通とか日常とか平和そうなもののすべての言葉が消え去っているかのような光景が広がっていた。


「……えりちん、そこで何してるの?」


銃を片手に、血だらけのえりちん。

でも、違う、えりちんが怪我をしているわけじゃない。待って、なにそれ。何があったらそんなことになるわけ?

返り血を浴びて、足元には見覚えのある顔をしている男の死体のようなもの。微かに匂う…火薬の匂い。死体からの額からは撃ち抜かれたような、跡があった。


「……あ、つし…く…ん」


涙をたくさん流している大好きなえりちん。

その表情は一言で言えば「絶望」だった。俺に人殺ししているところを見られて絶望しているのか、それとも俺たちがここにいることに絶望しているのか、はたまた両方なのか。それはわかりやしなかったけど、大好きなえりちんが泣いている、それが辛くて胸が痛む。


「……キミが、その子を殺したのか」

「っ…室ちん!」


そう室ちんが言うとえりちんはビクッと身体を震わせた。室ちんの声は冷静だけど、警戒しているようだった。どうして殺したのかって理由よりも、本当に殺したのかどうか、その答えによってはえりちんを捕らえるなりするのか怖い表情をしている。


「やめて、室ちん。今聞かなきゃいけないこと?まずは落ち着かせるのが先だと思うんだけど」

「離れるんだ、アツシ」

「離れねーし!」


こんなに怯えて泣いているえりちんに怖い顔見せないで。きっとなにか事情があったんだ、だからその理由を聞いてあげてほしい。最初からえりちんを敵だと決めつけるような事はするな、とえりちんを庇うようにえりちんの前に立って室ちんを睨む。


「…離れなくても答えられるね」

「室ちんいい加減に!!」

「どうなんだ?その男の子を殺したのはキミ?」

「……殺したよ」

「…え…」


俺の後ろから落ち着いた声が聞こえた。殺したことについて罪悪感さえ感じていないような声だった。まるで、毎朝俺に「おはよう」と言ってくれるようにあっさり、自然と口から出たかのような。

振り向くとえりちんは何かに覚悟を決めているかのような表情をしていた。さっきまであんなに泣いていたのに…?


「えりちん……?」

「あ、つし…くん…」


俺の名前を呼ぶとまた泣き出しそうに顔を歪める。ぽろぽろと涙が溢れて、悲しい悲しいという表情になった。さっきのは、一体…?

俺でも知らないえりちんの表情をしていた。


「じょーくんは…っ…ゾンビになっちゃったの…!!信じられないかもしれないけど、っ…本当なの!!」

「……ゾンビ?」


ゾンビってあのゾンビ?映画とかゲームに出てくる?そんな存在が本当にいるかなんて信じられるはずもなくて動揺する。えりちんのいうことに今まで疑ったことなんてなかった。それでも、ゾンビがいるって言われても…。


「本当なの!この病院にいっぱいゾンビがいるの!っ…ほ、んとなの……じょーくんは感染して、それでっ」


殺すしかなかった、そうえりちんは言った。殺すしかなかった状況なんて知らない。えりちんはここで何を経験したの…?何があったの?

室ちんの方を向いたら室ちんも予想をはるかに超える異常な答えに目を丸くしていた。


「ねぇっ…あつ、しくん……信じてくれるでしょ?!」

「…え」


縋るような目で俺を見つめてくるえりちん。えりちんは嘘なんてつかない、わかってる。でも、ゾンビなんて言われたら信じられなかった。この目で見ない限りは、信じられるようなことじゃない。


「嘘じゃないっ…ほん、となの!!」

「えりちん…」


こんな誰の得にもならないような嘘をつくような子じゃなかった。ゾンビなんて現実の世界にいるはずのない存在だと思っていたけど、そんな存在を信じるんじゃなくて。

俺がずっと見てきたえりちんのことを信じたかった。だから、えりちんがいうことの全部を信じてみる。


「うん、信じるよ」

「ほ、んと?」

「本当。」

「ありがとう!」


俺が信じると言えばえりちんは嬉しそうに笑って抱きついてくれる。こんなに小さかったっけ?もっと大きかったような気がする。

痩せただけじゃないような気がして、壊れてしまいそうで怖くなった。だから優しく優しく壊れてしまわないように抱きしめてあげる。


「アツシが信じるなら俺も信じるよ。同じ高校だけど初めましてだよね、俺は氷室辰也。さっきはごめんね、怖かったでしょ」

「い、いや…そんなことは…私は、夢咲えりな。いつも、敦くんがお世話になってます」

「お世話してます」

「お世話されてねーし、えりちん誤解だからソレ」


別にお世話なんてされてねーから。むしろ俺が室ちんのお世話してあげてるくらいだし。そうやって挨拶をしているとえりちんは落ち着けたようで楽しそうに笑ってくれていた。


「えりなちゃん、俺たちは情報が欲しいんだ。さっき目が覚めたところでね、何も分からなくて困っててね」

「情報…?」

「ここがどこだかわかるかい?脱出方法とか、ゾンビのこととか」


室ちんがゾンビのことを聞き出そうとしてえりちんはさっきのことを思い出したのか、また震え出してしまった。

クラスメイトだった船瀬丈の死体を見ると俺もなんともいえない感情でいっぱいになる。悲しいとか、悔しいとか、怒りだとかそんなストレートな感情じゃなかった。黒くて、深くて、とてつもなく重い感情。えりちんはこの病院で同じような感情をずっと抱き続けていたんじゃないかな。そうだとしたら、まともでいられるはずがない。


「ああ…っ…いや、っ…ここは!普通じゃない、っ…出口なんて、ゲームだから…!!」

「えりなちゃん、ごめん。もういいから、さっきのことはもう忘れてくれ。俺が悪かったよ」

「えりちん、落ち着いて」

「どうして敦くんがここにいるの?!何で来ちゃったの?!っ…ダメだよ…此処からは出られない…!!みんな死ぬっ!!」









悪夢の始まり
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