中編

□にこり
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『久しぶりだね、土方さん。』


「・・・わりぃ」


今日の私はすごくご機嫌。すっごくにこにこしてると思う。

土方さんが謝ってるけど、別に全然怒ってない。
むしろ感謝してる。


またここに来てくれたからね。








3年目、秋













『一月ぶりかぁ。あ、もう蝉いなくなっちゃったよ。元気にしてた?』


「・・・悪かった。」

『ん?私、怒ってなんかないよ。ちょっと心配してただけ。』


ただ一言、明日から忙しくなるから暫く来れないって言っててくれれば嬉しかったけど。

そうボソリと呟けば、土方さんは面白いくらいばつの悪そうな顔をする。


「屯所が移ることになってな。荷物運んだり色々ばたばたしてたんだよ。」

『あ、そうだったんだ。遠くなっちゃった?』


「いや、距離はさして変わってないが。」

『そっかそっか。
お疲れさま。
ほんとに怒ってないからそんなに顔色伺わなくてもいいよ。
嫌われたんじゃないかって一人で勝手に落ち込んでただけ。』


「んなわけねぇだろ。」




ちゃんと否定してくれる。
お姉さん嬉しくて泣きそうだよ。


いや、50年生きてて1回も泣いたことはないけれど。

桜の精って泣けないみたいです。

1回頑張ってみたけど無理でした。







『ん?土方さん、隈酷いね』

よくみれば、目の下が恐ろしいことになってる。怖い。
歩き方もいつもよりフラフラしてるように見えるし。




『・・・ちょっと寝たら?』


休息は人間には必要不可欠だよ。
お姉さん人間じゃないけど。


『私の膝枕どうぞーと言いたい所なんだけどね、私この木以外に触れられないから。
根っこにもたれかかって寝なよ。』

「ん・・・あぁ・・・久しぶりなのに、わりぃな。」



・・・寝ろなんていつもなら絶対嫌がるだろうに、すんなり聞くと言うことは。
やっぱりかなり眠かったんだな。


すぐにすやすやと寝息が聞こえてきた。


『ふふっ可愛いなぁ、土方さん。』


近くを通りかかった不逞浪士に斬り殺されちゃわないように、私がしっかり見張っていてあげよう。




寝てないのに、わざわざ来てくれたんだよね。



やっぱり土方さん大好き。





桜、にこり





(さくら・・・)
(嫌いになんて、なるわけねぇだろ)


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