略奪彼氏

□いいだろ?
1ページ/2ページ

「触らないで」

 だけど出てきたのは冷たい言葉で。
 明王は一瞬目を見開きました。
 けれどすぐにあの人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて。

「そんなに気張るなよォ」

 くすくすと笑いながら耳元に口を近づけた明王は囁きました。

「気持揺れてるって認めたらいいだろ?」

 っ、揺れてるんじゃなくて、もう明王に――。

「零っ!」
「おーっと、王子様の登場だぜェ?」

 王子様じゃない。私に利用された農民A。
 風丸には悪いと思っていますが、最初からその契約でした。
 嗚呼、すみません。自分に嘘、つけなかったんです。

「風丸っ!!」
「零、……っあ、」
「すみません、でした」

 私の目から何を読み取ったのか。
 風丸は悲しそうに目を伏せました。
 だから私は謝って。
 明王は不思議な顔をして。

「ちょっと、一人で考えさせてください」

 それだけ言って走り出しました。
 今は気持ちの整理が必要です。





 コンコンと控えめにノックされるドア。
 嗚呼、春奈さんか秋さんですね。
 すみません、仮病を使います。

「頭が痛いので、すみませんが今日は練習に出られなさそうです。マネージャーの仕事も忙しいでしょうし、」

「何言ってるのよ」



「何時の間に入ってきていたんですか秋さん」
「頭なんか痛くないくせに。痛くてもそれは、病気は病気でも寝てても治せないんでしょう?」

 無視ですか……。それにしても、秋さん鋭いですぅ……。

「恋の悩み? 私に相談してよ」

 そう言って笑う秋さんはすごく怖くて綺麗です。







 嗚呼、甘えてしまおうか――。



「聞いてくれるんですか? 実は、私……」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ