略奪彼氏
□愛せば
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「、風丸」
「……不安、なんだ。お前が不動の所に行ったら、って」
怖い、恐い、こわい。この人が? この人が私に抱く感情が。
震える手で抱きしめてくる風丸の瞳は不安と悲しげな色を宿していました。
どうして私なんかに、ここまで、
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「昨日は、ごめん……忘れてくれていいから」
すみません、悪いのは私なのに。
周囲でご飯を食べるために騒いでいる声が遠くなりました。
「っ、本当にごめん」
私が黙っているのを怒っていると勘違いしたのかまた謝ります。
「違います、すみません。悪いのは私なのに。風丸は悪くありません」
「零は、悪くないっ……」
埒が、あきません。
「じゃあ、悪いのは明王ってことで」
「ふは、不動か。それが妥当かもな」
楽しそうな風丸がとてもまぶしくて、私には到底届かないところだと思いました。
私は、そんな風に楽しめません。
少なくとも、×××××までは。
ぎゅ、と机の上に出されている風丸の手を握ると驚いたように手をひっこめました。
……。
「え、あ、ごめ……」
「いえ、大丈夫です」
大丈夫、ですから。
「零チャーン」
「明王!!」「不動!!」
嗚呼、また明王は私と彼の中をかき回します。
「零チャン、元気ぃ?」
「……明王にこたえる義理はないわ」
「んだよー、つれないねえ」
口角を上げる明王は退屈どころか楽しそうです。
嗚呼、対応を間違えました。
こいつは自分を好きな人にはさめやすく、自分を嫌いな人には熱くなる――そんなやつです。
だから、知られてはいけません。