クロネコ喫茶店

□ない
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「痛い」
頭後ろをさすりながら、俺は寝かされていたソファーより、上半身だけを起こした。
一体全体、ここはどこなのか。
見覚えのない天井に、自分のではない身にまとった服。
それに頭の包帯。
これは間違いなく、誘拐されたか拾われたな。
と、顔を引きつらせた。
彼方に告白されたり、タイミング悪く家から出されてしまったりして、路頭に迷った。
そこまでの記憶は確かにあるのだが、そこから今に至るまでの経緯がみえてこない。
取り敢えず、毛布をかけてくれたり、暖炉に火がくべてあるということは、最低限の気づかいができる誘拐犯に、拾われたのであろう。
「へっくしっ!」
鼻をすすりながら、毛布をマントの様にまとい、暖炉のそばまで寄っていった。
橙に手をかざすと、固まっていた氷が次第に溶けていくように、掌が温まるのを感じる。
「……」
暖炉の中で、角材が弾ける音に耳をすませていると、首筋に冷たいものがそっと触れた。
「ひゃわぁっ?!」
驚く俺。びっくりした。
振り返ると、中学生ぐらいの少年が2人いて、ニマニマとほくそ笑んでいる。
「思ってたより、可愛い声出たね」
「咲乃のタイプのど真ん中じゃん」
「可愛いね」
「食べちゃう?」
「鳴き声も聞きたいよね」
「でも、咲乃に怒られるよ」
「食べたら怒られるね」
「バレなきゃ平気じゃない?」
「平気かな?」
「平気だよ」
「平気だね」
「食べちゃおっか」
「食べちゃえ」
2人の声音が、あまりにも似すぎているせいで、晃の頭はパニック状態に陥り、ふと気が付けば少年等が真近に迫って来ていた。
暖炉の灯りに照らし出された2人の顔は、瓜二つの同じ顔だ。
ますます混乱してしまう晃。
近く少年達。かがんでから、晃の首筋に再び左右別々で触れる。
その感触に身震いし、晃は後ずさるが、それを許さない少年達は四つん這いになって更に顔を近付けた。
「ひぁうっあっ」
またしても喘ぐ晃。
喉元から耳裏まで舐め上げられ、思わず口からこぼれた。
「可愛い」
「可愛いすぎ」
「それじゃあ」
『いっただきまーす』
掛け声と共に、突如明かりが灯った。
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