天ブラ

□好き
1ページ/2ページ


あだ名、というものが僕には無い。
あったとしても、呼んでくれそうな人は、多かれ少なかれ、僕の周りには昔からいなかった。

だからかな。僕は晃が羨ましかったんだ。

「あ、生徒会長ー!!」

突如、後方から甲高い声が少年を呼んだ。
彼はすかさず、手にしていたデジタルカメラをブレザーのポケットに押し込んだ。急いで反転し、駆けてくる女子生徒を視認すると、やんわりと薄く笑ってむかえた。

「どうしたの?そんなに慌てて」

女子生徒は息をきらし、両膝に腕を突っ張る。
荒げた呼吸を整える彼女を見て、生徒会長と呼ばれた少年はケタケタと微笑(わら)った。

「君が右も左も関係無しに、廊下を駆けて僕のところにやってくるってことは、何かあったのかな?」

笑い声は消えたものの、顔からは一向に引かない微笑みが張り付いている。
女子生徒は呼吸が整うと大口を開けた。

「また、奴です!」


四階、生徒会室。
開け放たれた扉の周辺には、すでに野次馬が群がっていた。
「これで何回目?」
「もう五回目じゃね?」
「やだ、こわーい」
「マジ、ヤバくね」
「おいおい、生徒会しっかりしろよな」
「はやく犯人見つけてよねぇ」
「ウチのクラスまでやられたら、マジ最悪なんだけど」
「俺のクラス、隣だわ」
集る(たかる)生徒達にまみれて、誰のものかもわからない無数の声が、辺りに散らばる。
罵声やわざとらしい悲鳴が雑多になる中、生徒会室の開け放たれた扉、つまり前扉に一人の男が立った。
「黙れ!ぶん殴んぞ!!」

彼は二年、生徒会、集計の波木 竜也。
生徒会らしからぬ言動の上、すぐ手を出してしまう荒くれ者なので、生徒会役委員としてあまり支持を受けていない。
ただ、几帳面なところもあり、自分が「やる」と決めたコトは、何がなんでもやり通す。一度口にしたことは守る。といった、志し高い生徒でもあるため、この度己(おの)がクラス担任に推薦され、生徒会に所属した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ