Romance

□片恋ナ
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わいのやいのと騒がしい教室へ、足を踏み込む。
席に着くまでに、話し掛けられる事はない。着いて椅子に座っても、それは変わらないし、別に嫌でもない。
普段学校では、あまり目立つような事はしないようにしてる。
何せ、眼鏡に長い前髪でいかにも根暗な風貌で、いや、実際そうだけど、こんな奴が変に目立って、いいコトが返ってくるはずがない。大抵、イジメられる。
そんなのでもし、発売日をのがしでもしたら御免だ。
それに、目立つといえば僕より彼の方が相応しい。
クラスいち、ネタの尽きない男。
そして、学年いちかっこいいと噂される男。

その名は、

「山野ー!!」
竹田先生が、教室に現れるなり雄叫びを上げた。
一限は国語なのに、まさか数学教諭が来るなんて。
それは置いといて、ムサオこと竹田重治(しげはる)先生は、山野君を探しているらしい。
教室の後ろを見ても無駄だ。
定時を過ぎても山野君は、未だやって来ない。彼の髪は、明るい栗色だから一際目立って、どこに居ても一目(いちもく)で居場所がわかる。
だからなのか、教室をざっと見わたしてから、拍子抜けした様に一息ついた竹田先生、三十二歳。は、教卓の角へ追いやられた国語教諭、橋本敏次(としつぐ)に、山野が登校してきたら、私の所へ来るよう伝えてほしい、と言伝(ことづて)を頼んで前扉に消えていった。
やけに静まりかえった教室。無理もない。竹田先生は、数学講師と生活指導員との二つの顔を持っている。
声も体も大きく、そして何といっても顔が……。
厚かましいというか、濃いというか、いかにも熱血教師のようなゴツい顔付きなのだ。
ひとつ手前の時代からやって来た様な感じがする。竹田先生につかまると、なかなか離してもらえないらしく、とても面倒そうだ。
とにかく。山野君は、まだ来ていない。と、思っていた矢先、彼は思わぬ方法でやって来た。

サワッと、足元をかすめる何かを感じた。
横目でチラリと足の方を見る。
そしたら思わず、ギョッとした。
「おっは〜」
僕の視線に気付いたのか、机と机の間を匍匐(ほふく)前進で這いずる男は、こちらに向かって囁く様な声と笑顔で挨拶してきた。
その声に気がついた周りの皆も彼の姿を見るなり、青ざめてしまっている。
そんな唖然とした空気に、全く気付いていないらしい男、山野咲菜は これまた呑気に笑顔を振りまいていた。
ーーーー山野君、この後は補講なんだよ?
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