□トマト
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「ベルセンパーイ。いい加減観念したらどうですー?」
「ししっ死んでもイヤ。ま、その前に死なないけどな。だって俺、王子だもん♪」
「ヒトと喋ってるときはちゃんと相手に伝わるように喋ってくださいー」
「うっせ、黙れカエルッ」
「ゲロッ」

 フランが棒読みな短い悲鳴を漏らす。
 それを見てナイフを煌めかせているベルがご機嫌そうに口角をあげて笑う。

「刺さったら死ねよ」
「死んでも嫌ですー」
「死ね!」

 どこか矛盾しているようなくだらないやり取りが約二十分ぐらいになるだろうか。
 だが事の発端はこのやり取りよりもさらにくだらないことだった。



「ベルちゃん! またトマト残してるわね〜?」

 リビングにルッスーリア、もといオカマの甘えたような声が静かな部屋に響く。

「あ? んなのどーでもいーだろ」
「どうでも良くなんて無いわよ! 私が愛情を込めて作った料理なんだから残しちゃ駄目よ!」

 うっふん、と体をくねらせるルッスーリアにベルはゾクリとなんとも言えぬ鳥肌を覚えた。
 ベルは寒そうに両手で自分を抱き、ふい、とそっぽを向いた。

「キッモ。意地でも食べねー」
「もう頑固なんだから〜……フランちゃ〜ん! ベルちゃんを説得して!」

 ルッスーリアは声を張り上げ隅でカエルを磨いているフランを呼ぶ。
 フランは気だるげそうに顔をあげ、

「オカ……間違えましたー、オカマ、なんですかー?」
「んもう! 変わってないわよぉ! それとオカマじゃなくてルッスーリア! ……まぁ、いいわ。
ベルちゃんがね、トマトを残すの。なんとか説得してくれないかしらぁ?」

 その気持ち悪い口調に若干の吐き気を覚え「うぷ」とフランが口元を抑える。
 それにはベルも同意のようで顔をしかめていた。
 その吐き気を抑えながらもフランは、

「しょうがないですね……。ミーも暇じゃないんですけどーセンパイの頼みなので引き受けますー」

 その言葉にルッスーリアは意味ありげな笑みを浮かべ、

「うふっ、それじゃあ頼んだわよ〜!」
「はいー。…………それじゃーベルセンパイ、トマト早く食べろよこのやろー」



 そして、今に至る。



「マジ王子トマトだけは勘弁だし」
「子供じゃないんですからワガママ云わないでくださいよー」
「大体俺王子だから食べなくてもいーんだよ」
「意味不明な言葉ありがとうございまーす」

 本日二度目のナイフがカエルを直撃した。

「言っときますけど……ミーベルセンパイがトマト食べるまで此処にいますからー」
「なんで王子にそこまでトマト食べたさがるんだよ」
「……ベルセンパイのトマトを食べながら『っ』ってゆー嫌そうな顔を見たいからですー」
「お前マジアクシュミー」
「ベルセンパイには敵いませんよー」

 そして本日三度目のナイフが脳天に食い込む。

「…………まっトマト、食べてやんないこともないぜ?」
「だったらさっさと食べてくださーい。ミーだって暇じゃないんでー」
「あぁ。―――じゃ、いただきま、」
「ちょっと待ちやがれ堕王子」

 フランの急に変わった口調にベルが動きを止める。

「んっだよ」
「んだよじゃねーよ。なんでトマト食べんのにミーが押し倒されてんの?」
「っしし、トマトを食べるには皿がいんだろ? お前にはその皿になって貰うんだよ」

 理解不能な言葉にフランは眉を顰める。

 ―――ビリリッ。

 なにかを破いたような、そんな音だった。
 最初なにが起きたのかわからなかったのだが、腹に感じる涼しさでなにをされたのか理解した。
 それと同時に、フランはなんともいえない恐怖心に駆られ、ベルの胸板を押した。

「……ちょっ、なんでミーの隊服破いてんですかっ、」
「うるっせーよ。ちょっと黙っとけ」

 ベルは面倒臭そうに投げやりな言葉を返す。
 そしてテーブルの上にあったトマトを掴むと、フランの露出した白い肌の上でトマトが飛び散った。
 正確にいうと、ベルがフランの上でトマトを潰したのだ。


「ししっこれなら王子食べられる♪」


 そういうがベルは赤い舌を出し、トマトの汁を舐める。
 が、それはフランの胸板を舐めるのと同じことであり「っ、ぁ」と声を漏らす。

「なにお前、感じてんの?」
「そんなわけ、ないじゃないですかー」

 感じてた。
 だがそんなことをいうのは恥ずかしくて、なによりプライドが許さなかった。

「ふぅん……」

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