□磁石
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 照美とミストレーネはいつも顔を合わせては喧嘩をしている。
 発端は“どちらの方が美しいか”というくだらないものなのだが彼等にとっては重要なことだった。
 そして今日も二人は喧嘩をしていた。

「いい加減僕の方が美しいって認めなよ」

 ふふ、と笑いながらアフロディが髪を梳く。

「死んでもやだ。大体俺のが美しいし可愛いから」

 不機嫌そうにアフロディを睨むのはミストレーネである。
 ミストレーネはアフロディを一瞥するとフンと鼻をならし、

「あーあ。ブスのヒガミってヤダヤダ。俺が可愛いからってヒガまないでよね」
「鏡一回見てきなよ」
「鏡じゃ俺の美しさは映しきれないよ」
「そっか。鏡は君の不細工な顔は映したくないよね」
「は? 意味分かんない。そっちこそ鏡見たことあんの?」
「僕の場合は美しすぎて鏡が対応出来ないんだ」
「死ね」

 こんなやり取りがもう三十分も続き、お互いが少し疲れて来た。
 一時休戦、ということで二人は口を閉じた。

「……ねぇ。磁石って知ってる?」
「俺のことナメてんの? 知ってるに決まってるだろ」
「僕達って磁石だよね」
「は?」
「……あ、なんでもない。忘れて」
「…………変なの」

 磁石の特性。
 SとS―――つまり、同じ種類の磁石同士は絶対にくっつこうとはしない。
寧ろ、くっつけようとしても無理だ。
お互いの磁石が拒絶反応(といったらおかしいかな)を起こしてしまう。
 つまり、それは、お互いは絶対に仲良くくっつけないということを表している。
 ―――まさしく、照美とミストレーネのことだった。
 二人は容姿は完璧で、互いにナルシストで、サッカーが上手くて……、所謂、似たもの同士というやつだ。

「僕達って、仲良くキャッキャとか出来ない運命なんだよね」
「……キモ。大体俺等は敵同士なんだし、仲良くなんて出来るワケないだろ」
「……うん、知ってた。ごめん」
「……気持ち悪いから謝るとかやめろよ。こういう、しんみりっていうの? そういう空気さ」
「…………ごめん」

 だから似たもの同士の彼等は、

「だから。謝んなって」
「…………。うん」
「…………なんか話せよ」
「………そっちがなんか話してよ」
「…………いつものお前じゃないと、ほら、あの、キモいから」
「…………そっちこそ。いつも気持ち悪いけど、気持ち悪さが倍増してるよ」
「…………うざ」
「…………お互い様でしょ」

 素直になれなくて、

「大体、なんだよ。神って。厨二病もここまでいくとイタいのレベル超すよ」
「人のこと言えないでしょ。親衛隊とか作っちゃって、うざいのレベル超すよ。ていうかもう超してるよ」

 不器用で、

「……もう時間。俺は暇じゃないから、もう行くよ」
「僕だって、もうそろそろ暇じゃないから帰ろうとしてたところさ」

 現実から目を反らして、

「また暇だったら、構ってやるよ」
「……こっちも、暇だったら神の僕が特別に構ってあげるよ」
「素直じゃないね」
「君だってそうじゃないか」

 絶対に仲良くなんてなれない運命を呪った。





“磁石”





(駄目だ。素直になれない)
(所詮僕等は“磁石”なんだ)
((この世界に生まれてきて、コイツと出逢った運命を呪う))
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