a short story

□Fondness doll
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「………ん」
 ベットの上。隣り合って横になっているトーマの腕枕の中で、マイは一日の始まりを迎えた。
 彼女の唇にトーマは顔を近づける。それと同時に彼女は目を覚ました。
 お互いの目が見つめ合う。
「………」
「おはよう」
「………あ、あなたは……?」
 睡眠薬の過剰接種の後遺症で何も思い出せない、マイ。
 今日起きて、初めて見る見知らぬ世界にマイの顔に少しかげりが見えた。
「初めまして、かな……マイ。俺はトーマ」
「……トーマ?……ここは?」
「俺たちの家。この体勢を見ればわかるよね?」
 空いている手でフリルをあしらったキャミソールとショーツを着たマイの腰を抱き寄せ、キスを迫る。その瞬間、マイの顔が恐怖で埋め尽くされた。
「い、いやっ!」
「なんでそんなに怖がっているだよ?」
 彼女の抵抗に、思わず笑いをこらえるトーマ。マイは異質なものを見るような目でトーマを見つめた。
「……近寄らないで…」
「は、俺も嫌われたもんだな。……体が震えて可哀相に」
 瞳の奥に仄暗い闇。
 間近にあるその瞳にマイは身の危険を感じ、身をよじる。
 腰に巻き付いたトーマの腕が一向に離れることはない。
「いや、…はなして!」
「どうして?」
「…放し……!」
「な、お前はもう、俺以外の世界からいない人間と見なされているんだよ。そんなマイを救えるのはアイツじゃなく俺なんだ」
 マイの首筋に顔を伏せていたトーマは誰かを思いだして嫌悪した。不意にマイの腰に回る腕の力が強くなる。
「ずっと俺のそばにいて、俺もお前を幸せにしてやるから…な……ほら、感じない?もう一人の命」
 首筋に感じるトーマの吐息。
 マイの心の奥が痛みにきしむ。トーマから出てくる言葉に声が掠れた。
「……な、なにをいって?」
「嫌だなぁ、知らないフリをするわけ?あんなに毎晩愛して愛して、……忘れた?昨日判ったじゃない。俺の子出来たって」
「う……嘘」
「…まだ知らないフリ?見せよっか、アレ」
「…………!」
 トーマの真剣な眼差しにマイは身がすくむ。




「―――早く。俺の子を産んで―――……?」





Fondness doll


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