a short story
□The fiction actually.
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「っ、……マイ!」
真っ暗な部屋に一人の男の吐息。床に放たれた行き場のない白濁液。
背を丸めたトーマは一人自分を慰めていた。
「はっ、くっ……!」
やり場のない感情。
こうして呼吸をしている間も彼女はトーマに振り向いてはくれない。彼女はトーマに羲兄としての役目としかか求めていない。
トーマの中でもう一人の自分が叫ぶ。
「ちがう…」
少なくともオレは…もう一人の自分の考えを口走ろうとしてトーマは止めた。
「……っ」
顔を上げたトーマの部屋の一角に貼られている、写真のなかのマイによる視姦。視姦。視姦。
彼にとっては、何よりも大事なものであり、誰にも触られて欲しくないもの。
ここだけは俺を見てくれるという、至福の時間。
「マイ…」
目をつぶってマイのあられのない姿を想像する。
きれいな手、キャミソールから見える、なめらかな肌。トーマの目には妄想で作られた彼女はとても綺麗に見えた。
*
綺麗に整頓されたマイの部屋。
窓の外は雲一つない青空。
今日は何年ぶりに三人で馬鹿みたいにまったりしているんだろう。こうしたい訳じゃないのになあ…。
トーマは頭の片隅で呟きつつ嘲笑した。
「シン、トーマ」
可愛らしい声が幼なじみの名前を呼ぶ。
その声はトーマの名前をシンより先に呼ばない。
「何?」
「……」
「トーマ?」
沈黙が気になったのかマイは覗き込むように、トーマに話しかける。
「……あ、ごめんね。どうしたの?」
―――…お前には俺だけを呼んで欲しい。
トーマはいつもの笑顔を向けると、ゆっくりとポケットに入れたカッターに手をかけた。
The fiction actually.