a short story
□He killed the friend by envy.
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どうしてこうなったの?
マイは自分自身の震えている体をぎゅっと握りしめた。
「トーマお願い、止めて」
それは、今日の朝にさかのぼる。
昨日、バイトの接待を店長であるワカにこっぴどく叱られ、どこがどうだめなのか詳しく知るために今日見てもらえないかとシンにお願いをした。
本来なら彼氏であるトーマにお願いをすればよかったのだが、肝心のトーマは用事があるらしく、マイはお願いを彼に持ちかけられずじまいになっていたのだ。
そして今日。記憶喪失以来おなじみとなったメイド服を着て、自分の部屋でシンに接待のノウハウを学んでいた。
そんなところに、トーマが帰ってきたのだった。
「どうして?」
トーマに手料理を奮うためにマイが使っていた包丁をトーマが握っていた。赤く染まった包丁に光が反射して、そばではシンが床に伏せった状態で倒れている。
マイとシンがマイの部屋で一緒にいたのをトーマが激怒した結果だった。
「マイ、…逃げ、ろ…けほっ!」
息も絶え絶えにシンは言葉を紡ぐ。
赤い絵の具をまき散らしたようにシンが倒れた周辺の床は朱で染まっていた。
「そ、そんな…シンが…」
医療知識が無いマイにもシンが三十分も立てば命が危ういことがわかっていた。それに逃げようにもこの状況に一人残される、激高するトーマを宥めようと怪我を負ったシンを残していけなかった。
「まだ、俺たちの邪魔をするんだね」
「な、にが俺たち、だ」
「やめて……」
マイをよそに二人は睨み合う。だが、怪我を負うシンと凶器を持ったトーマではやり合う結果は目に見えていた。
「ほらぁ!こういうこというんだって!!!」
勢いよく振り上げられた包丁にマイは目を見開いた。
「いやあっ!!!!!!」
鈍い音。声にならないうめき声。生暖かく、ぬめった液体がマイに降りかかった。
「幼なじみで友人でも俺たちの邪魔をするからこうなるんだよ」
頬にかかった赤にゆがんだ笑み。
歪んだトーマの表情は、マイに見せるいつもの頼りがいのある兄貴分のトーマでは無かった。
そばには、先ほどまでマイをかばっていたシンの瞳は見開かれ、赤がいっそうシンの体を包んでいた。
「い、や…」
直視できない光景に足は竦み、尻餅をついたマイに赤くなった服に身を包んだトーマが近づいた。
「最初からこうしておくべきだったんだ。ねぇ、マイ?」
ぬるりとトーマが彼女に触れた頬へ触れた。鉄の匂いと濡れた感触が彼女の鼻孔をくすぐった。
「マイ、愛してる。この世界中の誰よりも」
甘い目線。愛おしそうに頬を撫でる手。
これは誰だろう?マイはぼうっとする頭の中で呟く。
「トー…マ……はど、こ?」
「ここにいるよ。ずっと一緒だからね。俺が守るから」
トーマの労るような優しい笑みの中に、マイ以外の人間は映っていなかった。
He killed the friend by envy.