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□ブルー・マリッジ
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 いつか、こんな日が来ればいいのにと私は心のどこかで夢見ていた。夢見ていただけで叶うと思ったことは一度もなかったし、きっと十年後、自分は彼と彼女の結婚式で新婦側の代表スピーチを買って出るのだろうとなんとなく予想していたけれど。…それでも、心のどこか、きっと奥底の方で私は彼を諦めきれなかったのだろう。そう感じずにはいられなかった。

 いつ見てもお似合いで、笑顔が輝いていて、お互いにサポートし合える。そんな二人が羨ましかった。彼の隣を歩く彼女が、眩しくて仕方なかった。
 彼女はさり気ない気配りが出来るうえに料理も私たちの中で群を抜いて上手かったし、何より母親のように暖かい人だった。いつだってそこで見守っていてくれる、だから皆安心して実力以上の力を発揮出来る。優しいその瞳に私は幾度となく救われ、暖かいその笑顔に幾度となく泣きそうになった。そして彼女は、私が泣いても受け入れてくれるんじゃないかと思わせる器が確かにあった。
 そんな彼女が幸せになってくれるなら、彼の隣でこれからも笑っていてくれるなら、これ以上何を望む必要があるだろう。きっと私は心からおめでとうを言って、代表スピーチという大役を「さすが夏未さん!」と拍手喝采に言われる程見事にこなすだろう。それこそが、沢山の癒やしと笑顔を与えてくれた彼女に私が返せる、唯一のことだと思うから。
 だから疑問で仕方なかった。というか、私では役不足だと思った。適材適所という言葉があるように、これは私ではなく彼女が務めるべき役ではないのかと。本当に私でいいのか。今にきっと後悔する。私は自他共に認める料理下手だし、癒やすどころか打ちひしがれているあなたにも喝を入れてしまう。きっとあなたはそんな私に嫌気がさすわ。
 そう正直に伝えると彼は怒ったような顔をして、オレは夏未がいーのと言って私の頬を軽く抓った。その痛みは(軽くだったから痛すぎたわけではないけれど、)幸福とはこういうことなのかと、誰かに望まれるのはこんなにも嬉しいことなのかと私の涙腺を緩ませる。

「円堂くん」
「ん?」
「私、あなたが好きよ」
「うん、オレも夏未が好きだ。人の短所じゃなく長所をきちんと見れるそんな夏未が、やっぱりどうしたって好きだよ。料理が下手だっていいじゃないか。オレが上手くなるまで付き合ってやる。それに、喝を入れてくれるのだって大歓迎だ。それが夏未の優しさなんだから。」

柔らかく照れたように微笑む彼は、私が彼への想いを自覚した頃と何ら変わりはなくて。きっと私はこんな彼だから好きで大好きで、望みを捨て切れなかったのだろう。
 震える指先で呼び出した電話番号は、決意の証。「私、円堂くんと結婚することになったの。」そう伝えたら、あなたは何と言うだろうか。もしおめでとうと言ってくれたなら、今度こそ私は迷わない。自信を持って彼の隣を歩くだろう。
 少しの不安と自己嫌悪を織り交ぜて、コール音は4回。「はい、もしもし木野です」という耳に心地よい彼女の声に、私は震える手を彼に重ねて大きな一歩を踏み出した。










ブルー・マリッジ
(どうか、幸せになって下さい。)


 花嫁側のスピーチやらせてね、と当然の如く言ってくれる彼女に涙が出た。ありがとう、ありがとう。私、木野さんのそういうところ大好きよ。


*

夏未さんはきっと、秋ちゃんの方が円堂さんの隣は似合うと思いながらも円堂さんを好いているんだと思います。
これが私なりの円夏への決着。

20110830

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