treasure

□焦がれて焦がれて
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※高校生くらい



俯き加減にちらちら見える赤い顔で「付き合ってくれませんか」なんて言われたら大抵はそういう意味で受け取ると思う。
というか、今まで見てきたそういう子十人に十人はそういう意味でその言葉を言ってきた。
だからここであんまり浮ついて早速「やっぱり好きじゃなくなっちゃいました」なんて言われるのは勘弁してほしかったので「いいけど」となるべくさらりと答えてみると「ほんとですか」と満面の笑みで顔を上げられた。
そのとき俺はやばいなんかすごい可愛いとか妹さんを俺に下さいはどのタイミングで言うべきなんだとか頭の中は外の気温35度よろしく非常にのぼせ上がっていた。
そんなこんなで聞き逃していた。
「付き合ってくれませんか」の後の「新しくできたプールに行きたいんですけど」と言う言葉を。


中々に恥ずかしい誤解はしたものの、それでも「デート」には違いないし嫌いな男に水着姿を見られるのは嫌だろう。
きっと俺は春奈ちゃんの中では「まあまあ好き」以上なはずだと考えたら気分は快晴だ。
たとえ俺を誘った理由があまり泳げないから新しいプールでどこまで足がつくのか見にいきたい、つまりは「大好き」カテゴリーに入るあの人と今度一緒に行くつもり、であったとしても。
幼少期と変わらずあまり泳ぎが得意ではないことを言いづらいからの下見であったとしても。
何にしても中学時代からこつこつとメールを送った俺の勝利だ。
猛暑のプールの人ごみはすごいという理由をつけてピンクの水着の春奈ちゃんの手を引いてプールサイドを歩く。


「あの、佐久間さん付き合わせてごめんなさい」
「いいって、この辺までは足つく?」
「はい、なんとか」
さっきから春奈ちゃんは浮き輪を死守しながら水の中を歩いている。
これはこれで、鬼道だって可愛いと思わないわけがないほど庇護欲をくすぐるものだと思う、本人はまったくそう思っていないようだが。
プールに遊びに来ること自体久しぶりだし、その上好きな子とだ、浮き輪をエスコートするのはちょっと格好つかないけれど精一杯紳士的に振る舞うとしよう。
と、思っていたときだった。


ピピッと笛の音が鳴り、小さな女の子が溺れていたんだろう、監視員に抱き抱えられてプールの中から出ていった。
思わずそれを目で追う。
幸い女の子は意識もあり、大事なかったようでよかった、と思っていると「もっと浅いところで泳げよ」とどこかで聞いた声が聞こえた。
なんだか嫌な予感がする。

「あれ、不動さん?」
春奈ちゃんの声に監視員を二度見するとそいつはにやりとこっちを見て笑う。
そういえば、あいつ家の事情とかでちょこちょこバイトしてたけどまさかこんなところで会うなんて。

「へぇ、何オマエ佐久間とデート?」
「違いますよ、ちょっと付き合ってもらってるだけです」
そうなんだけど、全否定されると少しショックだ。


「というか不動さんここでバイトしてたんですね、ちゃんと働いてて偉いじゃないですか」
「あー一応仕事だし」
春奈ちゃんは不動を「ちょっと見直しちゃいました」と言わんばかりの顔で見ている。
あまり泳げない彼女にとってはプールの監視員なんて憧れの存在なのだろう、しかもそれがあの不動じゃ雨の中子猫を拾う不良のように眩しく映るに違いない。
不動もまんざらじゃなさそうな顔をしている。
「溺れたら引き上げてやるよ」って何だそれ。
つーか、上から水着の女の子見てニヤニヤすんな。


「きゃあ、佐久間さん!?」
あんまり春奈ちゃんが不動を見ているから水の中で浮き輪を外してやるとぎゅうっとしがみつかれた。

「すみません、あの、わたし浮き輪ないとこうしてないと水の中歩けないんですけど」
とりあえず、自分のことで精一杯になって不動からは視線が外れた。
「少しだけ浮き輪なしで頑張ってみないか、怖かったら好きに掴まっていいから」
ポン、と頭を撫でながら言うと手を握られて「はい……えっと、佐久間さん絶対離さないでくださいね」と震える声が聞こえた。
もう離してって言われても離すつもりないけど。
上の方からチッと舌打ちが聞こえたのは多分空耳じゃない。
いくらかっこいいとこ見せたって仕事中に溺れている人以外に触れたらセクハラだもんな、監視員さん?





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29999hitキリリクで書いて頂いた不動と佐久間で春奈サンドです!
すぴかさん素敵な作品をありがとうございました(^O^)!

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