reborn
□理不尽スパイラル
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彼が中学を卒業してから4年が経った。今どこで何をしているのだろうか、と時々考える自分がいる。
彼の卒業以来、私は彼と連絡を取っていない。そもそも連絡を取り合う手段がなかった。だって私が時たま応接室に遊びに行くだけで、メアドも電話番号も実は知らなかったから。
周りはよく、雲雀さんが怖くないのとか咬み殺されないよう気を付けろとか色んなことを言ってきたけど、彼はそんなに怖い人ではなかったと私は記憶している。確かに照れ屋で傲慢で理不尽で、照れ隠しに痛いめにはよく合わされたけど。でもそれだってどれも冗談だってわかるくらい優しかった。
たぶん私は、彼のそういう所が嫌いじゃなかった。触れ合ったことは一度としてない。けれど身体的にではなく精神的に、私は彼と傍にいることを望んでいたんだと思う。言うなれば、恋ではなく愛に近い感情で。
春。私はついに大学生になった。あいにく第一志望の国公立は落ちてしまったが、センターで引っかかった私立大学で憧れのキャンパスライフが始まる。期待と夢に胸を膨らませながら、だけど過ぎて行く平凡な日々に飽き飽きしながら、私は心のどこかで刺激を求めていた。
そしてそんなある日、それは起こった。
「…はひ」
「…あれ?キミ…」
「ひ、ばりさん」
「…誰だっけ」
「っ!ハル!三浦、ハルです!」
居た。
居たのだ夢じゃなく。彼がこのキャンパスに、この校内に。なんて奇跡だろう。なんて運命だろう。私は舞い上がる気持ちを抑えられずに思わず彼の手を取る。
「お久しぶりですー!雲雀さんの中学卒業以来ですね!なんでこんな所に?って、ここの学生だからに決まってますよね!あはは、あ、雲雀さん何学部なんですか?ハルは経済学部なんです!あ、あと雲雀さん何かサークル入ってますか?ハルはテニスサークルにでも入ろうかと、」
「ちょっと、キミ」
「…はひ?」
「手」
「…手?…ってはひ!す、すみません!つい興奮してしまって…」
「…相変わらずだね」
握っていた手を慌てて離し、照れ隠しみたいに頭を掻くと彼はあの頃みたいにそっと笑った。(知ってる?それは私だけしか知らない貴重なもの)
「、」
鼓動が止まる。熱が籠もる。頬が緩んで、何故だか涙が出そうになった。悲しいことなんて何もないはずなのに。むしろ会えて嬉しいはずなのに。
汗になって蒸発するはずだった水分が急速に目元に集い、彼を映すフィルターがまばたき毎に潤んで、ぼやかして、ついには見えなくなった。ああ鼻が、垂れる。
「ひば、ひばりさぁん!」
「え、ちょ、三浦」
「うううー」
零れた涙は私の自称薄化粧を見事に滲ませ、マスカラが悲鳴をあげる。今、目を擦ったらきっとヤバいんだろうな。
エマージェンシーを発令する目元のために急いでハンカチを取り出そうとするが、こういう時に限って出てこない。早くしないとパンダみたいなアライグマみたいなタヌキみたいな、間抜けなおばけになってしまうのに。せめてこれ以上鼻が垂れないように、必死にすするばかりである。
「はひ…」
「ほら、これ使って」
「で、でも」
「いいから。」
有無を言わせず手渡されたハンカチはきちんとアイロンがかけられていて、彼の性格をそのまま映し出したかのようだ。笑えて、そしてまた涙が出てきた。じわじわじわり。
止みそうにない涙の洪水に我ながら苦笑する。私ってこんなに泣き虫だったっけ?
「…ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
「……雲雀さん」
「なに」
「大学入学、おめでとうございます」
「…それはキミでしょ」
笑う彼に、きゅんと胸がときめく。ああたぶんきっと私、彼のことすきなんだ。
理不尽スパイラル
(運命の出会いってあるもんですね。)
*
小枝さんリクエストの雲ハルで先輩後輩…です。パロディにしたくなくて大学生にしたのですが…全然リクエストに添えていない事実;;
小枝さん、遅くなってしまったうえにリクエストに添えてなくてすみません(´;ω;`)
書き直して欲しいなど何かありましたらご連絡下さい><;
リクエストありがとうございました。
20110801