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□大声をあげて泣いたあの日
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 子どもみたいに泣き喚けたらいいのに。ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。
 そういえば私は、いつから声をあげて泣くことを止めたんだろうか。昔の私は声を大にして泣き喚き、いややいややと文句を言って母を困らせていたのに。いつの間にか、いつの間にか「声」は押し殺され、身体を縮こまらせて泣く姿を誰からも隠すようになった。それはどうしてなんだろう。

「やっぱり恥ずかしいからかなぁ。ええ大人が大声だして泣くんは」

 一人ごちると、真向かいでお好み焼きを食べていたマークがきょとんとこちらを見た。口元にソースがついていて、なんとなく母性本能を擽られる。

「なんの話だい、リカ」
「んー、何でもない。それよりマーク、口んとこソース付いてるで」
「あぁ、本当だ。」

 口元に付いたソースを指で拭い、そのまま口に含む。マークのそんな動作がやけに色っぽくて正直目のやり場に困った。(思春期の男子かいな、うちは!)

「リカの作るこれ…お好み焼き?だっけ。すごく美味しいよ」
「おおきに、マーク」
「これが一哉の言っていたスペシャルなやつかい?」
「、」

 一哉。一之瀬一哉。うちのダーリン。違う、ダーリンやった人。
 サッカーがめっちゃ上手くて優しくて笑顔が可愛い。そのくせプレー中は誰よりも強くてかっこいい。そんな人。(真面目で一途で純粋で、ほんま、うちの入る隙なんかないくらいずっと一人の子を想てた)

「…リカ?」
「…あ、あぁ、ごめんごめん!ちょっとぼーっとしとったわ。」
「大丈夫かい?顔色が良くない。」
「大丈夫大丈夫!何でもないから、気にせんといて!」

 笑顔を浮かべてもマークは心配そうにこっちを見るばかりで、なんだか少し嫌な気分になった。(お願いやから見んといて。そんなに見られたら、ずっと我慢してきたなんかが溢れてまう)

「…何なんよ、」
「リカ、」
「何なんよもう、いやや。なんでそんな目で見んの?」
「…リカが泣きそうだから」
「あんたが泣かしよんねんアホっ!」
「うん、ごめんね。…でもオレは、リカの涙を望むよ」
「なっ!?」

 真向かいから伸ばされたマークの手が私の頬に触れる。それが思った以上に優しくて暖かくて、溶けるように愛しかった。(愛しい?あぁそうか、愛しいんや。うちは今大声あげて泣いてもええねんな。受け止めてくれる人がおる。愛しいて思える人がおるんやから。)

「マーク」
「うん」
「…マーク、」
「うん、リカ」
「…性格悪いわ、あんた」
「うん、そうだね」
「マークのアホ…ボケ…!」

 漏れそうになる嗚咽を、唇を震わせて言葉にしてみた。うわぁんうわぁん、うわぁんうわぁん。(子供みたいに大声あげて泣いて、そんで気付くねん。声出して泣くのって恥ずかしいし結構体力いるねんなぁ。でもやっぱりスッキリするわって。)
 やがて大声をあげるのも疲れて涙も収まってくると、悲しかった気持ちは何処へやら。赤くなった鼻はトナカイみたいで笑える。
 そんな私の涙をずっと受け止めていてくれたマークは、見ると優しい瞳をしていて、やっぱりこの愛しさに変わりはないようだと自覚した。(アホなくらい真っ直ぐで、笑えるくらい愛おしい。あんたと2人ならずっと笑ってられそうやで、ほんま。)

「マーク、」
「なんだいリカ」
「うち、あんたのこと好きやで」
「ありがとう。オレもリカが好きだよ」

 笑ったマークの目尻にも涙が浮かんでて、今度はマークが大声出して泣く番やなぁと思った。












大声をあげて泣いたあの日
(今度会いに来たら、スペシャルなやつ作ったるで!)


*

マクリカとか言いながらマークのキャラ全く掴めてない

2人が話してるのは全世界共通のイナズマ語です。

20110709

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