reborn

□慈悲心鳥は明日に啼く
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 すきよ。すき。あなたがすき。だいすき。

「…3ヶ月だそうです。お医者さんに直接言われました」
「…そう」
「…あと、100日ないんですって。ハル」
「…うん」

 病院の簡易ベッドに横たわる私の手を力なく握る彼は、かつて本当に最凶と呼ばれた男なのだろうかと疑問に思うほど、衰弱していた。(違うな、彼を弱らせたのは私の存在だ。)
 今だって病気の私以上になんだか辛そう(無表情で興味がないように装ってはいるが、私にはバレバレである)で、なんだか申し訳なくなった。
 握られた手は、力無く私と溶け合うように優しい。ああ、いっそのこと溶けて一つになれたらいいのに。そしたら彼を悲しませないですむ。私も死ぬことに怯えないですむ。(恐くないと言ったらそれは嘘だ。あと92日。私に残された時間は日々刻々と削られていく。彼をのこして、私は逝くのだ。)

「…どこか、」
「え?」
「…どこか、遠い所にでも行こうか。君の好きな場所でいい。…思えば僕たちは、デートなんてしたことなかったから。」
「……はひ」

 優しい。愛しい。そして、酷く哀しい。

 かつて私は、彼に少しは優しくして欲しいと望んだ。その望み通り今彼は優しい。こんな代償を犯してまで、彼に優しさを求めていたわけではなかったけれど。
 結局の所彼は優しかったのだ。この10年、くっ付いたり離れたり愛しあったり喧嘩したり、たくさんの喜びとむかつきと悲しみと愛しさがあったけれど、彼は一度として私に手をあげたことはなかった。それだけは、けして。(あの彼が、だ!)

「…恭弥さん」
「なんだい、ハル」
「私、海に行きたいです」
「うん。…じゃあ、海に行こう。その次は?」
「並中の、屋上」
「次は?」
「…教会」
「うん」
「教会でね、結婚式ごっこしたいんです」
「うん」
「指輪とか、そんなのはいらないんです。ウェディングドレスもいらない」
「うん」
「ただ最後に…嘘でもいいから、恭弥さんのお嫁さんになりたい。です」
「……うん」

 私の手を握る彼の骨張った手に、力が込められた。なんか泣きそうだな。恭弥さんが。(因みに恭弥さんって呼んだのは今日が初めてだ。本当は結婚して名字が一緒になったら言う予定だった。結婚する予定なんかなかったんだけど、なんとなく。)

「…ハル」
「なんですか」
「すきだよ」
「はは、ハルもです」
「…うん」
「恭弥さんてば、うんばっかり」
「はは、ごめん」
「はは。…はは、は…」

 そろり。視線をあげる。瞳に映るのは、ゆらりゆらりと愛しい彼。(いけない、泣くな。泣くな。笑わなきゃ損だ。恭弥さんがこんなに優しい日、めったに来ないんだから。)
 だけど、そんな私の思考とは裏腹に喉は震えて、目頭が熱くなる。

「…悔しいなぁ。恭弥さんが、せっかく優しくしてくれてるのに。…ハルには、もったいないくらい…、っ」

 詰まった言葉の先にあるのは、見えやしない希望。でもだからこそ愛しくて、殺したいほど憎かった。








慈悲心鳥は明日に啼く
(すきよ。すき。あなたがすき。だいすき。)
(その声は優しく愛しく、そして、酷く哀しく脳裏に響いた。)



(君のことが、すきだった)

*

無駄に長いわりに暗いそして落ちがない←

文才はどこで売ってますか…(´ー`)

20110702

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