inzm

□黄色いワンピース
1ページ/1ページ

 私にはお気に入りのワンピースがある。黄色と白のギンガムチェックのそれはまさに夏らしく、今か今かと出番を待っていた。
 だから今日はそんなお気に入りのワンピースに麦わら帽子、それに歩きやすいいつものサンダルで待ち合わせ場所に向かう。(もちろん顔、腕、足、デコルテに日焼け止めを塗るのを忘れない)

「立向居くん!」
「あ、音無さん!」
「ごめんね、待った?」
「大丈夫、オレも今来たところだから」

 へにゃりと笑った立向居くんは、暑いのか顔を赤くして俯いている。(そんな立向居くんは赤いチェックの半袖シャツにズボン。私服を見るのは、初めてかもしれない。)
 私はちらりと自分の姿を確認してみる。変なところはないかな、似合ってるかな。(好きな人には、やっぱり可愛く思われたいもの。)

「じゃあ…行こうか」
「あ、うん!」
「ごめんね、オレの用事に付き合わせちゃって」
「そんな、大丈夫だよ。私もちょうど読みたい本あったし」

 今日のデート(とか言ってみる。)は清く正しく図書館だ。
 夏なんだからプール行きたい!とか、お祭り行きたい!とか言いたいことは山ほどあるんだが、立向居くんはいたって真面目で奥手の草食系。いかんせん押しが足りない。(そこが彼の良いところだとも思うけど)

「今日暑いねー」
「天気予報では35℃超えるって言ってたよ」
「うわ、早く図書館行って涼もう!」
「あ、待って音無さん!走ったら危な…」

 立向居くんの注意も聞かず走り出した私は人にぶつかりかけ、あえなく立向居くんの腕に捉えられた。(え、それってつまり抱き締められ…てない?)

「すみません!…ほら、だから危ないって…あっ、ご、ごめん!」
「…あ、いや、私こそ…ごめん」

 私の腕を掴んでいた立向居くんの(想像以上に大きくて、ちょっとドキドキした)手は勢いよく離される。それをなんとなく名残惜しく感じつつも、私は頬に集まる熱に嘘を付けなかった。

「い、行こっか」
「…うん」
「…ん」
「え?」
「ま、また人にぶつかると危ないから」

 そういって差し出されのは、さっきまで私の腕を掴んでいたあの大きな手で。(当たり前のことだが)
 差し出されたということは、繋いでも構わないんだよね?私、手汗ひどいんだけどな。引かれたらどうしよう。

「…私、手汗ひどいよ?」
「そ、そんなのオレだって!…音無さんと手をつなぐなんて緊張して…あ、嫌なら全然いいから!オレのがたぶん引かれちゃうし、」
「引いたりなんてしない!」

 あ、思わず握ってしまった。(立向居くんの顔は真っ赤だ。たぶん、私も人のこと言えないけど。)
 そのまま2人して笑って、ぎこちなく手を繋いだまま歩き出す。
 お気に入りのワンピースが、なんとなく笑っているような気がした。











黄色いワンピース
(あ、あのね)
(ん?)
(…そのワンピース、よく似合ってる)

 赤くなって言う彼が、心底愛しかった。


*

早よ図書館行けや(^q^)

20110629

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ