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□モラトリアムは過ぎ去った
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 不動明王という男が私は嫌いだった。まず見た目。お次に目つき。口調。性格。とりあえず全部嫌いだった。(ブラコンだって言われるかもしれないが、私の大好きなお兄ちゃんに対しての、あの態度!悪いが許せたものじゃない。)

「音無さんは、すぐ顔や態度に出るよね」
「は?何がですか?」

 みんなの洗濯済みのユニフォームを畳んでいると、隣で繕い物をしていた秋さんが言った。

「それ、不動くんのでしょ?」
「…な、んで」

 私がくしゃくしゃに畳んだ(というより丸めた)ユニフォームは間違いなく不動明王の物で、私は怒られると思って青くなる。(じゃあやるなって話なんだが、この背番号を見た瞬間手が勝手に、ね?)
 だけど秋さんは怒るどころかくすくす笑い出し、「すごいね、それ。おにぎりみたい」と言うだけだった。

「…お、怒らないんですか」
「別に怒ったりしないよ。あ、でも渡す時はきちんと畳んであげてね」
「…はい」
「………マネージャーにだって、いるよね。好きなタイプと嫌いなタイプ」
「…いえ、あの」
「私ははっきりしてて良いと思うよ。でもね、音無さん」

 こちらに視線を向けて笑っている秋さんは怖かった。怒ってないのはわかる。だけど私はたぶん間違いを指摘されるだろう。(不動明王に対しての大きな間違いを、)

「やるなら真正面からやりなよ。その方が音無さんらしい」
「…は、い。」

 そうです私音無春奈はやかましと名付けられたくらいの勝ち気少女です。そんな私が不動明王に対して陰でこそこそストレス発散をするのは何故かって?(だって怖いんだもの!まず見た目。お次に目つき。口調。性格。あいつは怖い!だから私はあいつが嫌い)

「…音無さんはさ、不動くんが嫌いなんじゃなくて、不動くんを知るのが怖いんでしょ?」
「 、」

 何か、ずっと隠して誰にも触らせないようにしていたつぼを押された気がした。そんな私を知ってか知らずか、秋さんは私と同じようにユニフォームを畳みだす。

 不動明王を知るのが怖い。(それはどうして)
 不動明王はお兄ちゃんの天敵だ。ライバルだ。因縁の相手だ。(だから怖いの?違う、違うよ私は)


「好きになるのが怖い。」
「……っ、えっ!?」
「図星だ」

 くすくす笑う秋さんはキャプテンのユニフォームを大事そうに手に取る。(ああ、きっと愛しくて愛しくてたまらないんだろう。)
 さて私はというと、どうすることも出来ず、でも否定することも出来ず、ただただ不動明王の丸めたユニフォームを手に赤くなるしかなかった。(嫌い?怖い?違う好き。今はまだわからないけれど、それは特別な感情に相違ない。)









モラトリアムは過ぎ去った
(兄不孝者でごめんなさい。だけど私は進みます。自分の足で、選んだ道を)


「…なんかオレのユニフォームだけくたびれてねぇ?」
「き、気のせいです!」

 あぁ、秋さんが笑ってる。

*

不春なのに不動が全くでていないという不思議。
どうしてこうなった

20110627

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