inzm
□夏色フラペチーノ
1ページ/1ページ
音無春奈は名字は違えどあの鬼道有人の妹なわけで。出会う前に鬼道から聞いていた彼女のイメージはそりゃあもう大層なものだった。
可憐で清楚で大人しくておしとやかで料理が出来て着物が似合う、まさに大和撫子。そんなイメージ。(だって鬼道が鼻高々にそう言うから!)
だからワクワクして会ってみれば、
「…これは詐欺だよなぁ」
「何がですか?」
目の前で残り少なくなったアイスティーをずずずと飲む少女は、紛れも無く音無春奈その人である。(買い出しに付き合わされたのは良いものの、あまりの暑さに2人してファミレスに緊急避難したのだ。)
「佐久間さん早く食べちゃって下さいよ。てゆうか溶けてきてます」
「あ、やべ」
「だからパフェなんか頼まずにアイスティーにすれば良かったのに」
「好きなんだからいいだろ、別に」
「早く食べちゃって下さいね、遅くなりすぎたらみんな心配するんですから。あ、ほら零してますよ佐久間さん!」
ぺらぺらぺらぺら。どこが大人しい?(むしろ喧しい)
ずけずけずけずけ。どこが大和撫子?(むしろお節介)
きっと鬼道の目にはフィルターがかかっているのだ。この大和撫子どころか口煩い母親みたいな妹が可愛く見えてしまうフィルターが。(ああ恐ろしい!)
「ところで」
「ん?」
「何が詐欺なんですか?」
「あ、食うなよオレが頼んだのに」
「話逸らさないで下さい。ってゆうかちょっとくらいいいじゃないですか、佐久間さんのケチ」
「なっ…」
唖然。いや絶句。(ああホントオレの音無春奈イメージ像を返せ。こいつ絶対オレが鬼道の友だちだからってなめてやがる。)
鬼道に言ってやりたい。お前の妹は大和撫子どころか口煩い母親だぞ、人のパフェを食っておきながらケチ呼ばわりする酷いやつだぞって。(でも鬼道はホントに甘いからな、全然見えてない。春奈がそんなこと言うわけないだろう。とかキリッとして言うんだ。長年の付き合いで話さなくてもわかる。)
「ね、佐久間さんってば」
「あ?あぁ」
「何が詐欺なんですか」
「え…いや、うん。何でもないけど」
「えー!気になるから教えて下さいよ!」
元新聞部だかなんだかの野次馬根性が働くのか、音無は目を輝かせて待っている。(そうすれば話してもらえるって、こいつは無意識に理解してるんだろう。)
だが残念ながら音無春奈が可愛く見えるフィルターを付けていないオレには、全く効果がないようだ。
「…人の話は信じすぎるなということだな」
「は?」
「過大評価に踊らされたんだ、オレは」
「何の話かさっぱりなんですけど」
わからないならそれでいい。
オレはお前がホントは喧しいのも、お節介なのも、全部自分で体験してわかったからな。(…まぁ鬼道が言ってた通り、可憐で清楚なのは当たってると思うけど。)
いまだうんうん唸る音無にそろそろ行くぞと声をかけ、オレは会計へと向かうのだった。(外はきっと纏わりつくような暑さなんだろうな。ああ、プールにでも行きたい。)
夏色フラペチーノ
(ちなみに音無は自分のアイスティー代を払わなかった。ケチなのはどっちだ!)
*
山なし
落ちなし
意味なし
オワタ/(^O^)\
20110625