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□これって確信犯?
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 立向居勇気は至って健全な青少年である。そういうこと(つまりは男女間のあれこれ)に興味がないわけでもなく、そういう本を一冊も読んだことがないわけでもない。(合宿先にそういう本を持って来た綱海に無理やり読ませられたという情けない「初めて」で、つまりはつい最近のことではあるが。)

「雨、止まないね」
「うん…困ったね、このままじゃ風邪ひいちゃうし…」

 つまりは何が言いたいのか、と問われれば。(ああ、神様ってホントにいるのかもしれない)
 買い出し帰りの雨宿り。これほどまでに胸踊る乙女チック展開があるだろうか。
 立向居はにやけそうになる口元をなんとか真一文字に結んで、ちらりと自分の隣で空を見上げる音無を見た。(ちなみに立向居は密かに彼女のことを好いていて、本当ならば今は小躍りしたい気分なのだ。)

 横目で見た彼女は雨に濡れていつもより艶っぽく、立向居は心臓が激しく高鳴り、全身の血行が良くなるのを感じた。だがそれと同時に、彼女の顔色があまり良くないことにも気付く。

「…寒いの?音無さん」
「え?あ、ううん、大丈夫だよ!気にしないで」
「…これ、濡れてるけど…無いよりはマシだと思うから」
「ダ、ダメだよ!立向居くんが風邪ひいちゃう!」
「オレ、こんなでも一応男だから。大丈夫だよ」

 にこりと笑って、(一度やってみたかったんだよねと呑気に考えながら)立向居は音無に自分が着ていたジャージを手渡した。(あぁ、オレの幸運をここで使い果たしても悔いはない。)

「…あ、ありがとう…。ごめんね立向居くん、今度絶対お礼する!」
「そんな、お礼だなんて…」
「わ、ちょっと大きいね…けど、あったかい!本当にありがとう、立向居くん」

 柔らかく微笑むその姿は、まるで天使のようで。(う、わ。これは、マズい。)

「…?どうしたの?立向居くん」
「あ、いや!何でもない!ははははは」
「顔赤いけど…もしかして熱があるんじゃっ…」
「ちちち違う!大丈夫!本当に何でもないから!」
「そ、そう…?」

 自分のおでこに触れようとした音無の手から逃れるように立向居はのけぞり、熱くなった頬を情けなく思う。きっと今自分は、信じられないくらい赤くなっているんだろう。(あぁ、オレって経験値低すぎ…もっと綱海さんにいろいろ教えてもらえば良かったかも。)

「…あ、立向居くん!雨止んだみたいだよ!」
「え?あ、ホントだ。」
「急いで帰ろっか。遅くなっちゃったし」
「うん、そうだね…って、え。」
「ほら、行こ!」
「あ、う、うんっ!」



(無邪気に笑って、音無さんはオレと手を繋いだまま走り出した。)







これって確信犯?
(ダメだ、経験値が低すぎてオレにはわからない。今は頭が爆発しそう。)


*

春奈は確信犯だと思う。
20110620

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