reborn

□敗北を認めよう。
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 彼が好きだという考えに辿り着くまでには、非常に困難な道のりがあった。
 まず私自身が彼ではなくボスである沢田綱吉に恋をしていたし、また彼自身自分が誰かを好きになるという事が信じられなくて私に必要以上の嫌がらせをしていた。
 その嫌がらせ行為は当人達以外の人間が見ればじゃれているようにしか見えないのであろう、けれどこっちからすれば堪った物じゃないのだ。
 何度となく私の自慢のポニーテールは引っ張られ、君って馬鹿だよねと毎日のように罵られ、正直私はどうしてここまで嫌われなくちゃならないのかと疑問する。そして増えていくばかりの負の感情は爆発する瞬間を今か今かと待っていて、


「雲雀さんなんて大っ嫌い!ハルが嫌いならもう構わないで下さい!」


 そう、そうだ私はあの日も彼にそう言ったのだ。
 優しいボスはどんな時だって優しくて、私の告白に答える時だって期待を持たせるように優しくて、そのくせそのまま地面に叩き付けるように辛い現実を突き付ける。だから優しいボスの前で涙を見せるのだけは嫌だった。(癪に触ってしょうがないもの)
 噛み締めた唇、握り締めた拳、そして大空を睨み付ける潤んだ瞳。
 悲しくて仕方なかった。報われない想いにいつまでも縋って見ないふりをしていた自分が、あまりにも哀れで。
 悔しくてしょうがなかった。そんな私にいつまでも優しく最後の最後まで諦めさせてくれなかった彼が、あまりにも愛しくて。(だから嫌だったのだ。こんな時に私を嫌っているであろう彼に出会うのが、ああ、本当は一番嫌だったのかもしれない。)


「やっぱり君は馬鹿だね。君が沢田にふられるのは見なくても分かる事じゃないか。」
「……るさいです」
「こんな年になるまで一心に彼を思い続けて、本当に君は馬鹿だよ」
「煩いんですよあなたは!!」


 ずけずけと傷心の私の心に入り込んで踏みつけて嘲笑って。嫌いなら触ってくれるな。憎いなら見てくれるな。何度となくそう思いそう願い私は拳を振るった。(零れ落ちる雫は愚かしくて、笑う気にもなれない代物だった。)

「煩い、煩い、煩いです!!あなたに私の何が分かるって言うんですか!雲雀さんなんて大っ嫌いです!ハルが嫌いならもう構わないで下さい!」

 拳の代わりに放った平手打ちは見事(それは初めての事で、一瞬、罪悪感と後悔とで胸がいっぱいになって言葉がつっかえた。あくまで一瞬でしかないのだが。)彼の頬に命中した。

「…もう、満足でしょう?あなたの嫌いな三浦ハルは、ツナさんにふられてとても惨めです。…笑えばいいじゃないですか。あなたの嫌いなハルが不幸のどん底に居るのを上から偉そうに見て蔑んで、嘲笑えばいいじゃないですか!」

 睨み付けた彼は頬を平手打ちの衝撃により赤らめ、そして不愉快そうに私を見下す。(なのにどうして笑っていないのだろうか。こんなにも愉快な事、これ以上ないというのに。)

「…愉快だよ、とても。君が沢田にふられて傷付いている姿を、僕はずっと見たかったんだから。なのに…不愉快でしょうがないね、君の存在は。僕は認めるしかないんだから。」

 何を、という私の言葉は彼の抱擁により掻き消された。押し潰されそうになる私の想いは温かい人肌に触れて泣き声をあげて、喉を震わせる。
(あなたが認めなければいけないもの、それは勝利ですか、敗北ですか、それとも私を好いているという事実ですか。)

「不愉快極まりないね、全く。僕が君に振り回されているなんて、気付きたくなかったよ。」

 そう言って、彼は。
(初めてのキスは私の涙の味がした。ちょっとだけしょっぱくて、だけどとても優しい味。)




「君が好きだよ、三浦。不本意ながら。」
「はひ」


*

認めたくなかった雲雀さん。

20110616

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