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□料理は愛情
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「綱海くんはにんじんが苦手みたいだから」

 そう言って出されたにんじんゼリーを頬張りながら、あいつはこんな気遣い出来ねぇだろうなぁと、しみじみ思った。そもそもにんじんが苦手だなんてことすら知らないだろうし。(オレだってあいつの嫌いな食いもんとか知らないしな)

「あぁ旨かった!サンキューな、マネージャー!」
「気にいってもらえたみたいで良かった。」

 柔らかく微笑むマネージャーを見て、なんかオレだけ特別扱い?なんて自負してみたり。(だけどそんな時必ず頭に浮かぶのは、なんでか怒ったあいつの顔で)
 別に付き合ってるわけでもないし告白したとかされたとかでもないし、そもそも宇宙人との戦い以来ほとんど会ってないし、ってゆうかオレはあいつが好きなのかね、なんて自問自答。(うーん、日頃使わない頭をフル稼働させてもわからん。)

 そんな時、オレの携帯がブーブーとバイブ音を立てた。(はいはい音村ですか、誰ですか)
 どうせまた音村だろうと思って見た着信画面は、見たことない番号を表してた。(こういうのって出るべきか迷うんだけど…まぁいっか。どうせ知り合いの誰かだろ。)

「へーい、もしも…」
『あっ、綱海?あたしあたし』
「、え。なんで、番号…」

 時間が止まったような気がした。(なのに心臓は早鐘を打ってるなんて、矛盾してるよなぁ。)

『え?あぁ、円堂に聞いたんだよ!そんで電話したくなったから掛けた!』
「……」
『おーい綱海!聞いてるかー?』
「あ、あぁ。」
『どう?調子は。テレビ見たよ!頑張ってるみたいじゃん!』
「うん、まぁな」
『?なんだよ、何かノリ悪いぞー?』

 仕方ないじゃん、ついさっきまでお前のこと考えてたんだから。なんて言えるわけないし。(なんだよオレ、もしかして今照れてる?)

「いや、いきなりすぎてびっくりしてさ」
『はははっ、ごめんごめん!まぁ元気そうで良かった!また連絡するよ!FFI終わったら沖縄も遊びに行くし!』
「お、おお!来い来い!色んなとこ連れてってやるよ!」
『サンキュー!んじゃ、明日も頑張ってな!』
「あ、…なぁ!」

 今にも電話を切りそうだった塔子を呼び止めたのは、絶対に無意識。(だって喋る話題、何もない。)

『、ん?』
「あー…あのさ、オレの苦手な食いもんとか、知ってる?」
『は?綱海の?…んー…なんだろ、ピーマンとか?ごめん、わかんないや』
「うん、だよな」

 そりゃあそうだ。(あぁ自分ってなんでこうなんだ。話題ないからそれってどうよ。)

『どうしたんだよ、いきなり』
「いや、なんでもない。…なぁ塔子。もしもの話だけどさ、もし塔子が誰かと結婚するとして、そいつがにんじん嫌いだったらどうする?」
『にんじん?…別に何もしないと思うけど。にんじん食えなくたって死なないし。なに、綱海にんじん嫌いなの?』
「オレじゃない!あー、円堂だ円堂!」

 ごめんな円堂、またサーフィン教えてやるから許せ!(おまけににんじんも付けてあげよう)
 そんな時、なんでかだんまりになった塔子に気づいた。

「?塔子、どうした?」
『…あたし、料理得意じゃないけど綱海が嫌いなものを旨くすることは出来るよ』
「へ、どうやって」
『料理は愛情!って言うだろ?…だから、綱海が嫌いな物なら…旨く出来ると思う。』
「、」
『…ははは、なんてな!じゃあな綱海!おやすみっ!』


不意打ちだった。


 すでに通話を終えた携帯はツーツーと鳴るばかりなのに、オレの脳内では塔子の言葉が繰り返されていた。(ひょっとしてオレ、今顔が赤いんじゃない?)
 熱くなった頬を冷やそうと部屋の外に出ると、ちょうど立向居が横を通り過ぎるところだったようで。

「わ、どうしたんですか綱海さん!真っ赤ですよ?」
「いやなんだ、ははは」
「?」
「ははははは」
「何かあったんですか?」
「んー…まあ、な!」

 にしし、と笑えば立向居は首を傾げた。(だってオレ、わかっちゃったんだよね。今度はオレから電話かけよう、お前のこと好きだぜって、伝えるために。)

「あーあ、それまでににんじん嫌いを直さなくちゃな!」
「?…はぁ」




 それは塔子とリカがライオコット島へ来る一週間前の話。(まだにんじん嫌い直ってねぇ!)

*

綱塔です。好きです綱塔。無駄に長くなっちゃったけど。あと密かに綱冬も好きなんで、最初は綱冬を入れさせていただきました(笑)
綱海と塔子が幸せになりますように!

20110615

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