reborn

□星今宵
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 七夕の短冊に書く願いはいつだって一緒だった。出会ってから十年、それは変わらない願い、想い、そして私自身。

「ハル姉」
「あ、フゥ太くん」
「短冊書けた?」
「はい、もちろん!」
「願いは…と、去年と変わるわけないか」
「はは、もうなんというか…これしかないものですから。」

 へにゃりと笑うと、フゥ太くんは私を労るように微笑み返す。優しい、暖かい微笑みだ。
 私は毎年、この季節になると七夕の願い事を書く。それは変わることのない、叶うことのない願い事。だけどフゥ太くんが「星の王子」としてこの行事を大切に思っている以上、私も参加する。京子ちゃんもランボちゃんもイーピンちゃんも、この行事だけは忘れない。どこにいたって、誰といたってこの行事だけはけして。

「今年も天の川は見えますかね」
「どうだろう。雨は降らないと思うんだけど…」
「晴れるようにてるてる坊主でも作りますか」
「それがいいかも」

 くすくすと笑い合って、さっそくティッシュ箱を手に取る。晴れて下さい、星空よ。織姫と彦星が天の川を渡って会えるように、せめて。(私?私は会えなくていいの。だって叶わないってわかっているから。)

「お、てるてる坊主が効きましたね!天の川が綺麗に見えてますー!」
「ホントだ。さすがハル姉」
「へへへ」

 庭に出てフゥ太くんと星を眺めている時だった。瞬く星に導かれるように移した視線の先に、

「…は、ひ」
「星の王子から、一途なハル姉へのプレゼント」
「…なんで、」

 彼がいた。
 あの日イタリアに旅立ってから一度も会うことのなかった彼が。記憶の中の少し幼かった面影を微かに残す彼が、いた。(私を見て慈しむように、愛おしむように笑ってる。)

「僕が怒って呼んだんだよ。ウジウジするのもいい加減にしろってね」
「…さすが星の王子」
「はは、褒めても何も出ないよ?…じゃあ、ごゆっくり。頑張れ、ハル姉」
「はひ」

 背中を押されて、私は一歩彼に近付く。(いけない。涙腺が、涙腺が壊れてしまいそうだ。)
 そんな私を知ってか知らずか、彼はゆっくりとした、でも確かな足取りで私のすぐ傍までやって来た。
 そしてあの私の好きな暖かい微笑みで言うのだ。待っててくれてありがとう。あなたが好きです。と。

「…嘘みたいです。だってハルは、叶わないのわかってて書いたんだもの。もう会えっこないって、わかってたから。…どうして?ハル、夢を見てるんでしょうか」

 私の頬に触れた彼の手は暖かくて、心が震えて涙が零れた。(愛おしい、愛おしい。この人が愛おしくてたまらない。)

「…願い事なんて、叶わないから願い事だと思ってたのに」

 零れた私の涙を拭うその手を抱き締め、私は初めて、心からの歓喜を味わった。








星今宵 飾る月夜に 夢見つつ



*

七夕でハルと誰かさん。

星今宵とは七夕の別名らしいです(・∀・)

20110705

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