リボーン 短編集

□cherubino -知天使-
1ページ/1ページ


僕が間違っていたんだ
やっぱりこんなの、耐えられるはずもなかった

君を見るたび

君の髪
君の顔
君の仕草
君のその瞳が

全てが彼に繋がるんだ

痛くもないのに痛いなんて
胸が締め付けられるようだ

こんな事って、

神のご加護なんか最初から期待してない
だけど、こんなのって…

むごすぎる





「……え…?」
「妊娠したの」

大好きな彼女から、まさかその言葉が聞けるなんて
僕は彼女を抱きしめて、何度も何度もお礼を言った

ありがとう、

そして最後には愛の言葉

愛してる

「愛してる、愛してるよ」
「………」





彼女は元々は別のファミリーの人間
名前も思い出せないくらい小さな小さなファミリーのボスの一人娘

理由は単純明解
目障りだから潰した

そして僕の気まぐれで様子を見に行って、見つけたのが彼女

父親を殺された悲しみやら悔しさやらで大きな瞳からは、これまた大粒の涙を流して僕を睨んでた
その表情があまりにも滑稽に僕の瞳に映ったものだから…

「これから君は僕のもの」

そう宣言してパフィオペディラムへと連れ帰った

宣言?
違う、あれは契約のつもりだった

日に日に増してくる彼女の殺気

触れようとすれば噛みつかれ
近づこうとしただけで、まるで獣のように威嚇、攻撃

しかしその都度、捩じ伏せる

「諦めなよ、君の帰る場所はもうないんだよ?ここしかね」
「………」





あの時、気づけていればこんな事にはならなかったんだ
あの時…

自分の間抜けさに泣けてくる
自分の不甲斐なさに、泣けてくる

涙なんて、もう一滴だって残ってはいないのに





「男の子かな?女の子かな?」

女の子がいいな
そう言う僕を、光のない瞳でジッと見つめる彼女

流石に違和感に気づいて彼女の隣に腰を下ろす

どうしたの?
そう尋ね、肩に手を伸ばしてみた

叩かれるんだろうな、そんな心配を他所に彼女は柔らかく微笑んで呟いた

「結婚して」
「………」

僕は恐らく生まれて初めて…
初めて、人前で泣いた

それだけ嬉しかった
あれだけ嫌われていたはずの彼女に結婚を持ちかけられたのだから、当然といえば当然

それで満足してはいけなかったのに
僕は満足してしまった

彼女が漸く僕のものに

そう思うと心が満たされた





ベビーベッドの前に立ち、眺めるのは
すやすやと寝息を立てる彼女の子供

その髪は僕と彼女からは有り得ない…
突然変異としか言い様のない…

青みがかった黒髪

君が目覚めてその瞳を覗けばそこには対照的な色合いの双眼

青と…赤。

血族、親族、何代も何代も何代も前まで遡っても青みのかかった黒髪なんていない
ましてや、オッドアイ、だなんて…

「どういう事?」
「………」
「…黙ってちゃ分からないよ」
「………ふふ……ふふふ、アハハハハ!」
「………」

ああ、嘘だと
全てが夢だと、誰か…

「骸さまは私の復讐に手を貸してくださったの」
「骸、さま…?」

僕だって様付けで呼ばれた事もないのに
ましてや名前なんて、呼ばれた事…

「本当に辛かったわこの1年間…ひたすらアンタを愛したふり…何度も挫けそうになったけど、その度に骸さまは言ってくださるの…奴が事実に気づくまで、我慢なさいって…彼こそ私の天使さま…」
「愛したふり?事実だって…?天使…だって…?」

懐に手を伸ばし構えるのは…

「僕は…本当に君を…君を愛していたのに!」
「愛してる」
「っ」
「愛してる」
「やめろ…」
「ふふ…『白蘭、貴方を愛してる』」





こんなのって酷すぎる

彼女と彼の子供を僕が?
愛していたのに、本当に

ベビーベッドから君を抱き上げると目が覚めたのか君は顔をくしゃくしゃにしながら笑った

六道骸とよく似たその顔で

彼の血を色濃く受け継いだ君を、僕が愛せるはず、ないじゃないか

「ぱー」
「っ!」

君を愛せる自信なんてないんだ
彼女を殺すなんて絶対に出来ない

答えなんて最初から一つなんだ

君を殺せば…

「ぱぁーぱ!」
「………」



なのにどうして、涙なんて…
Your baby.




たぁあ…うん、何?ぱーぱぁ…ここにいるよ…(力強く僕の指を握りしめる君を、出来る限り優しく抱きしめた)






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ