精霊の守り人 短編集

□俺のせいじゃない
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やはり出会いに問題があったと思う
チャグム皇太子の身に忌まわしき水妖が憑いたと、我々は思っていたのだが
彼の用心棒を任された短槍使いは我々から逃げ続ける、チャグム皇太子を守る為に
お互いがお互い、というには些か首を傾げる点も多々あるが
勘違いから敵対し、それが誤りであったとなった今、彼女が俺を敵視するのはやはり出会いに問題があったとしか言い様がない

「食え」
「絶対に、嫌…!」

なんて強情なんだ!
そう思いつつも必死に彼女の背を擦る自分
何故そんな事をしているのかと聞かれれば答えは簡単
自分が原因で彼女に風邪を引かせてしまったからに他ならない

いくら油断していたからと言っても、まさかあんなに人通りの激しい場所で襲ってくるとは思いもしなかった
彼女に思いを寄せる男に、所謂逆恨みをこの俺が買う事になり、狩人としての本能からか彼女を庇うようにして川に飛び込んだ
まあ正直な話、彼女を庇う必要はどこにもなかったのだが…

「ごほっ、ごほっ」
「………」

挙げ句、この様だ

「……何か食わんことには」
「タンダが作る山菜鍋食べればすぐに治るし!」
「……無茶言うな」
「無茶じゃないわ!貴方があのまま私を帰していればタンダが薬作ってくれたしご飯だって作ってくれるはずだったのに!」

ため息しか出ない、そんな事はない
ひたすら俺は怒りを抑えるのに必死で彼女の話などろくに聞こえない
ただ、彼女の口から他の男の名が挙がるのがこの上なく苦痛だった

だからだろうか、気がつけば粥を口に含み、口づけていた

「………」
「…だったらさっさと食って寝ろ、それから薬草師に看病してもらえ、だが今は駄目だ、そんな状態で帰せば俺が短槍使いに殺される」

彼女は顔を真っ赤に染め上げ残りの力で俺の頬を叩く

「さ、最低!」
「………」

酷く、心が痛んだ

そして同時にどうしようもなく目の間の女を困らせてやろうと、そんな気になった

横になろうとしていた彼女の肩を引き寄せ首筋に舌を這わす
驚いた彼女は当然抵抗するが所詮男と女
力の差は歴然
妖しく微笑むと優しく、出来るだけ優しく囁く

「汗をかけばすぐに治る、らしいぞ」
「ッ!」
「試してみるか?」
「や、やだ…!」
「だったらもう少しくらい俺を頼れ、お前の口から薬草師の名前など聞きたくない、虫酸が走る」

大人しくなった彼女の肩を抱き、すぐに離すと立ち上がり部屋を出た
困惑する彼女を残して



やけくそ



(もうどうにでもなれ)






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