黒執事 短編集

□血染めの花
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「知ってる?桜の話」
「桜の木の下には死体が埋まってるって話かしら、それなら知ってるわ、有名だもの」

でもデマを信じて騒ぐほど暇じゃないのよ、アタシ

そう言って背を向けるグレル
何故か無性に腹が立ったから奴の頭めがけてナイフを投げた

頭の後ろに目でも付いているのかと疑いたくなるくらい華麗な身のこなしでナイフを避けたグレル
振り向く彼の顔には、この距離で確認出来る程はっきりと浮き出た血管

怒ってるなあ、なんてのんびり考えているうちに頬に痛みが走った

後ろの壁に突き刺さっているナイフには私の血が付いているに違いない

「……女の子の顔に傷を付けるなんて…オカマの風下にも置けないね」
「それをいうなら風上にも置けない、よ」
「そうね」
「アンタおかしいわよ?具合でも悪いの?」

カツカツと静かな廊下に響き渡るヒールの音
額に温もりを感じてゆっくりと目を閉じた

温もりなんてあるはずがないのに

「死神って辛いね」
「そう?アタシは楽しいわよ」
「オカマだから?」

痛いなあ

思いっきり頭を叩かれた
血が出たかもしれない、そう訴えるとグレルはキラキラと目を輝かせる

このサディストが

「あら、サディストの何がいけないの?アタシがマゾヒストだったら気色悪いでしょう?」
「私が虐めてあげるからマゾヒストでもいいよ」
「アンタにアタシを満足させられる技量があるとは思えないけど」

ああ言えばこう言う、それはお互いに言えた事だが二人にしてみればこれが普通

他人の記憶を何千何万と見てきたせいか、それとも死神という仕事のせいか
価値観が人間のそれを超越しているのは悲しい事なのかもしれない

「(こうやって口喧嘩しているのが普通だなんて、それも楽しいなんて…)」
「アタシの事が好きすぎて頭おかしくなっちゃったの?」
「………違うよ」
「何だ違うの?素直に、はいそうですって言えば優しく抱きしめてあげたのに」
「そんな気ないくせに」
「あら、怒った?可愛い事するのね」

本当にもうどうしようもない
こんな事で喜んでる自分が嫌になる

グレル、貴方本当はどう思っているの?

「何を不安がってるのか知らないけど、アンタね、私が好きならもっと自信持って積極的にアピールしてくれなきゃ駄目だからね」
「…何で私が」
「焦れったいのは好きじゃないの、もういいわ、私はアンタの事が嫌いじゃない、意味分かるでしょう?」
「………」

そのまま私の横を通りすぎ去っていくグレル



赤く染まった顔
焦れったいのはどっちだ




アンタが死んだら桜の木の下に埋めてあげる!それって告白かしら?アタシ殺されちゃうの?






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