リボーン 短編集

□パフィオペディラム
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「別れて」
「………」

いきなりどうしたのとでも言いたげなのは、驚いた事に白蘭の方だった

別れを切り出した女といえば、本気なのか冗談なのか、何とも判別しにくい表情で白蘭を見つめるだけで、意味が分からない

「……ああ、飽きちゃった?」
「………」
「……レオくん…席を外してくれないかな」
「あ、はい」

驚いた表情から一変して、白蘭の表情は笑っていた

最後に見たのはそれだけ

追い出されて向かう先は、白蘭に与えられた自室
緩む口元を隠して呟く


あの男も所詮は男、何をやらかしてくれるのやら





「どうして別れようと思った?」
「………」
「黙ってちゃ分からないよ?」

そっと手を伸ばすのは拳銃
冷たい感触に笑みを隠せない

「……貴方は私を好きじゃないから」
「ああ、自分だけ好きなのが不満?」
「………」
「可愛いね、殺してやりたいよ」
「………」
「殺したら…君は永遠に僕のものだ…素敵だね」

怯えた表情
そのくせ、そんな安い脅しには屈しないとでも言いたげな瞳

震えてるくせに…

「……ちょっと本気だったんだけどな…」
「………」
「…勘違いしないでね、殺して僕のものにするって話」
「………」
「ちょっとだけ本気だった」


冷たくなった君を抱きしめるほど僕は強くないから





「愛してるよ」

「大好き」

「好きだよ、本当に」


「………」

愛の言葉を囁かれる度に、悲しくなった

目の前の男には、嘘を紡ぐ口はあっても、真実を語る唇はないと分かっていたから

ここに連れてこられた時、貴方に言われた言葉が今でも頭を離れない

「本気にはならない、だから君も本気になっちゃダメだよ?」

頷くより他なかった

日に日に会うのが辛くなった
毎晩、夜が怖かった
毎朝、起きるのが億劫だった

真っ白な服を身につける度に死にたくなった

「ねえ、いい?」
「………」

初めて体を重ねた時

あのまま、死んでしまいたかった

「別れて」
「………」

私の持てる全ての勇気を振り絞って別れを切り出す

貴方は一瞬驚いたような顔をしたけれど、その真意は私には分からない
私には、分からない…貴方の心なんて…

貴方はレオくんと呼ばれる青年を部屋から追い出し、別れの理由を尋ねてきた

当然と言えば当然

しかし全て無駄な気がする

だって貴方は理由を知っているはずだから

「……やっぱり殺しちゃおうかな…」
「………」
「…別に君の一族なんて潰そうと思えばいつでも出来るし…」
「………」
「君がいた方が傘下に入れやすかっただけだし」

驚いた

まさか、少しでも私の事を考えていたなんて…

「……ねえ」
「………」
「…返事くらいしなよ」
「………」

しない、出来ないんじゃない

したくない

「……死にたいの?」
「…失礼します」


本気にはならない、だから君も本気になっちゃダメだよ?


…分かってます

「……嘘をつきました、本当の理由は」
「………」
「最初の約束を果たせなかった……だから…これ以上貴方の傍にいられません」
「………」

日に日に会うのが辛くなった
会う度に惹かれる自分を責めた

毎晩、夜が怖かった
夢に出る貴方にすら惹かれていった

毎朝、起きるのが億劫だった
貴方に会わなければならない、そう思うと嬉しいのに胸が苦しかった

真っ白な服を身につける度に死にたくなった
貴方に抱きしめられているみたいだと、馬鹿みたいな事を考える自分が嫌だった

初めて体を重ねた時、幸せすぎて…
貴方の名前すら緊張して呼べないのに、これ以上、どうすればいいのか、分からなかった
これ以上の幸せはないと何となく分かっていたから、落ちる前に…

死んでしまいたかった

「……さようなら」
「………」

突然走った衝撃、そして激痛
左肩が熱くてたまらない…
何かが溢れ出る感覚に目眩がして…ゆっくりと振り返った

「…びゃ、くらん…様?」
「いいね、もう一回…呼んで?」
「………」

震えが止まらない、足が思うように動かない

「…誰が帰っていいって言ったの?」
「で、ですが…約束を…」
「……やっぱり殺すね」
「ッ!」

紫の瞳が妖しく光る

まるで 獣

「殺してしまえば…君はずっと…僕を好きでいる…」
「……白蘭…様…」
「………僕が悪いんだろうね…」

何を…

「傷つくのが怖いばっかりに…つまらない約束で逃げた…」
「白蘭様…?」
「……もっと呼んで…そうすれば…」

殺しやすい

「君が、好きだよ」



ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、ずるい!












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