リボーン 短編集

□狂気と驚喜
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初めて人を殺した時、心が折れそうだった

泣き叫ぶ少女を横目に、父親の額に銃口を突きつけ、信じてもいない神様への祈りを呟き、引き金を引いた

次に殺した時は、殺すのに時間がかかった
初めて殺した男の顔が頭に焼き付いて離れなくて、指が震えた
引き金を引くだけの動作が、それだけの動作が、やけに億劫だったのを覚えてる

日に日に、人を殺していく事に慣れていく自分

日に日に、知れ渡っていく自分の名前と所属名

日に日に、

殺し足りなくなってきた…





初めて人を殺してから既に5年の月日が経った

「自分はこれでも人間なのか…それとも既にもう人ではないのか……誰かを殺す度に思うんだ、泣き叫んで助けを乞う奴らを見る度に、なんて…醜いんだろう、って…」

左右で目の色が違う男はゆっくりとした動作で僕に背中を向けて小さく笑った

「何が可笑しいんだい?」
「クフフ…そんな事に一々振り回されていてはこの先長くは持ちませんよ」

視線だけ此方に向けて呟く

「そのうち…精神の崩壊が始まり…」
「………」
「次第に…殺し足りなくなる…」
「ッ!」
「その様子だと既に…」
「黙れ!」

思わず取り出したのは、妖しく輝くそれ

心臓の…音が…

「………まあ僕には関係のない事ですから」
「ッ、」
「しかしこれだけは言っておきます」

僕のものに手を出さない事です、それさえできれば誰を殺ろうが構いません

「……随分と…残酷な事を言うんだね」
「おや、正論だと思ったんですがね」

それでは、そう言ってその場を去る男
残された僕は構えたままの拳銃を、まるで取り憑かれたかのように見入った

それからは、狂ったように何人も殺した

男は勿論、女子供も関係ない
敵対マフィアに関わりのある人間全て

しかし殺せば殺すほど、心の中にある何かが大きくなっていって…

気が狂いそう

「………」

本当に気が狂いそうだ

目の前で起きているのは何だ?

「………」
「……ん?」

下着しか身に付けていない少女の手には自分の懐にあるそれと型も何もかもが同じ拳銃

足下にはピクリとも動かない男
頭から血を流している、これだけの情報で何となく理解できてしまう自分が嫌だ

「誰?」
「…これから死ぬ人間にわざわざ教えてあげるほど暇じゃないんだ」
「ふーん…まあいいや、無理矢理にでも吐かせてあげる」

そう言って拳銃を構える少女

「ッ!」

すかさず僕も懐に手を伸ばす

互いに向かい合い、銃口を向け合う
暫くの沈黙の後、お別れの言葉を呟いた

「…バイバイ」
「…見つけた」

耳をつんざくような銃声

しかし目の前にいたはずの少女の姿はなく、目を見開く

「やっと会えた…」
「ッ!」

見上げるとそこにはシャンデリアの端に捕まり微笑む少女

身震いした

正直、手応えのない殺しに飽きていた
無抵抗の人間を殺すのは仕事としては実に楽だが、自分のこの得たいの知れない何かを満たすには不十分だと随分前から思っていた

ニヤリと、笑ったのが自分でも分かる

笑ったのなんていつ以来だろうか

瞬時に天井へと銃口を向ける

「楽しませてくれるのかい?」
「ふふ…楽しませてほしいの?」

質問を質問で返す

なんてくだらないんだろう

「………」

それでもいいと思ってしまうのは何故なんだろう

「いいわ、やっと会えたんだもの、私も貴方と遊びたい」
「……さっきから気になってたんだけど、やっと会えたって…どういう意味?」
「あら!私の事忘れちゃったの?」

失礼ね、なんて言いながら着地
ゆっくりと持っていた拳銃を自分のこめかみに突き付け呟くのは、いつか自分が呟いた神様への祈りの言葉

「ま、さか」
「そうよ、あの時はパパを殺してくれてありがとう、そして久しぶり、それから…会いたかったわ、雲雀恭弥…」

カチャ…

再び向けられた銃口

「さあ…何して遊ぶ?」



目眩がするほど衝撃的で
(僕も会いたかったよ)
思わず笑っちゃったよ。




ずっと考えてたんだ…あの時殺せなかった君を、いつか必ず殺してやろうってうふふ、素敵ね!殺れるものなら殺ってみなさい、まあ無理だろうけどね






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