SSS

□カーテンに隠れてキスを
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「…季、なんか元気ないよね。」

オレの席に椅子を寄せていた月奈がペンを動かしていたオレを見て、唐突に呟く。
思わず顔を上げる。

「…そう?」

「うん。正確には2週間くらい前から元気ない、かな。」

鋭い、と正直に思った。
確かにそのくらいからオレはあまり元気がなかったかもしれない。
元気ない、はちょっとニュアンス的に違うかもしれないけど。

「で、更に言うと沖口君も水無瀬君もなーんかいつもと違うんだよねぇ。
始めはケンカでもしたのかなって思ってたけど、違うでしょ?」

「良く見てるね、月奈。」

「ずっと一緒にいるんだもん、ちょっと見てれば分かるよ。…何かあった?」

首を傾げて問いかけてきた月奈に、オレは少し苦笑した。

「……元気ない、っていうか、緊張してるのかもね。オレ達。」

「緊張?」

「来週、バスケの練習試合あるの、覚えてる?」

「…あ、前チケットくれたやつ? 」

「そうそう。その対戦校がめちゃくちゃ強くてさー、下手したらボロ負けしそうなレベルなんだよね。」

「わ、強豪なんだ。」

「ん、だから…ね。
やっぱり気が抜けないっていうか、余計な力入れたくなくても入れちゃうっていうか。」

軽く溜め息をつきながら、オレは目の前にあるプリントに目を落とす。
試合の作戦を練る為に作られたそれは、自分でもあまり良いとは言えない出来だった。
…無駄に緊張してるから、こうやって無駄に詰めるんだよなあ。完全に空回りだ。

暫くオレの話に耳を傾けていた月奈は、次第に不安げに眉を下げていく。

「…大丈夫?」

「はは、月奈からキスしてくれたらちょっとはマシになるかもね。」

なんて、冗談半分で言って少しは気が紛れたら良かったんだけど。
オレの中の無駄な力はあまり解れてはくれなかった。
ただでさえ試合が決まってから部内がナーバスになってるのに、部長のオレがこんなんじゃいけない、よな…。

たかが練習試合、って言う人もいるかもしれない。
でも、オレ達の目標は常に全力投球、だから。
相手が強豪だからって簡単に諦めたりは出来ない。
それは少し前に引退していった先輩達のスタンスを裏切ることになってしまうから。
先輩達がどれだけ部に貢献してくれたかってのは、オレ達後輩が一番良く分かってるから。
だから、崩すわけにはいかなかった。

…まぁ、トップエース3って呼ばれてるオレ達が特にそれを感じてるのもあると思うけど。


そう1人ごちていると、ふいに強めの風が吹いた。
軽く巻き起こる風は窓際一番後ろにいるオレと月奈に一番強く吹いて、軽くたなびいていたはずの近くの大きなカーテンに攻撃されてそのまますっぽりとそれに包まれてしまった。
クリーム色のそれをぼんやりと眺めていると、唐突に視界の八割を埋めるチョコレート色。

一瞬何が起きたか分からなくて呆然としていると、カーテンが止んだ風に合わせて元の位置に戻るのと同じタイミングでチョコレート色も離れていった。
視線がかち合うと、月奈はほんのりと頬を桜色に染めて、微笑った。

「…応援、行くから。頑張って。」

今度はにっこりと笑うと、彼女は照れくさいのか、足早にオレから離れていった。
残されたオレは、冗談半分で言ったことを月奈が本当にしてくれたんだということに、今更気づく。

「…は、ヤバい、可愛いな。」

そう独り言を呟いたオレの心は、何故かさっきよりも不思議と落ち着いていた。
目を落とすと、あのプリント。
オレはそれをくしゃっと丸めて、新しい物を取り出した。

「…感謝しないとね。
試合終わったらご褒美あげないと。」

思えば、試合が決まってからろくに一緒にいられなかったような気がする。
再来週の日曜は、どこに連れていってあげようか、なんて。
プリントに新しい作戦を、適度に力を抜ける作戦を書き込みながらオレは、頭の片隅でそんなことを考えていた。









カーテンに隠れてキスを
(真由ー!! 愛してるっ親友として!(がばっ)
(…はぁ? なんなのいきなり。)
(いや、特に意味はないけど…)
(…………。(…照れ隠し? なんでこんな時に。っていうかなんで?))


title byなきむしシェリー様
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