SSS

□朝寝坊な休日の朝は甘いキスを
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扉を開けたら、目の前にあるのはベッドと…不自然に盛り上がった布団。
その相変わらずな様子に私は軽くため息を吐いた。
まぁ、毎度のことだから別に驚きはしないんだけど…だけど、どうせ起こされるって分かってるなら私が来る前に起きちゃえば良いのに。無理だろうけど。

「由稀さーん。朝ですよー。」

とりあえず盛り上がった所に手をかけて軽く揺らしてみる。
すると塊がもぞもぞと動いて中から黒髪が顔を出した。
そしてこれまた黒い瞳と視線がかちあった瞬間。神がかり的な素早さで布団の中へリターンされた。…っておい!!

「ちょっと!
朝だっつってんでしょ!! 何また寝ようとしてんのっ」

「…んだよ、今日日曜だろ…。
つか、なんでスーツ着てんだよお前…。」

「毎回毎回説明するのもそろそろ飽きてきたこの頃だけど、"副社長様"の健康管理をするのも付き人の大切な仕事なんで。
規則正しい生活はいついかなる時も心がけて下さいってあれほど言ってるでしょうが。」

「お前…前はんなこと全く頓着してなかっただろうが。」

「いつの話してんのあんた。
そりゃただ同じマンションの住人ってだけの関係でそんなこと気にするはずないでしょ。」

「…はぁ、やっぱ無理矢理にでもカケオチすれば良かったな。」

なんつー言い回ししてんだこいつは。
呆れと怒りで半目になった視線をやると、それを感じ取ったのかなんなのか。もう一度塊から黒髪が覗いた。
ついでまだまだ眠そうな黒瞳と共に。…うわー、こんな無防備な姿、会社の人達が見たら絶対卒倒するよ。

付き人としての生活にもようやく慣れてきた私だけど、相変わらず気色悪い優等生面を(表向きは)しているこいつには未だに慣れることが出来ない。…慣れたくもないけど!!
そんなヤツはマンション時代も今も朝がめっぽう弱いっていう欠点がある。
昔ならともかく、今は仕事で起こしに来たんだからこの副社長にはきっちり起きて貰わないと困るわけですよ、うん。

「ほーらー、早く起きて下さい副社長!
日曜だからって全く仕事がない訳じゃないんだから!!」

「…やだ。」

子供かお前は!

「…つか、なんなのお前。新手の嫌がらせかよ。」

「いつ私が嫌がらせしたっつの。」

むしろ私が日々嫌がらせと戦ってるっての、主にこいつの!

「せっかく日曜で多少なりとも仕事から解放されるってのに、お前ときたら仕事だの付き人だの…ただでさえプライベートな時間なんかねェのに、これ以上減らすとかお前どういう神経してんだよ。」

プライベート。
その単語の裏に何が隠されているかは、おそらく私にしか分からないと、思う。
いきなりそんなことを言われたからか、顔が赤くなるのを抑えられなかった。

「…べ、別にそういうつもりじゃ、」

「そうだろ。栗原のくせに何を恥じらってんのか知らねェけど、…常に傍にいるのに手出せない俺の気持ちなんて、お前分かんねェだろ。」

「……良く言えるね、そんな恥ずかしげもなく。」

私の言葉に、ヤツは今更だろ、と小馬鹿にしたように笑いながら上半身を起こす。
その様子にはもう眠気なんてものは感じられなかった。
それよりどうするよ、これ。
動悸ヤバイんですが。このスケコマシが…っ

「…別に、プライベート時間を削りたいとかそんなんじゃなくて、」

どもりそうになる口をなんとか押さえつけて私が呟くように言うと、ヤツはこちらに視線を寄越した。

「……単純に最近の由稀、忙しそうだから、私の相手する暇あるならもっと時間を有効に使うべきなんじゃと、思っただけで…。」

視線を合わせてられなくて中途半端に逸らしながら言うと、ヤツはしばらく唖然とこちらを見ていたかと思えば、今度は重苦しいため息を一つ吐き出した。

「…っとにお前って、」

「…何よ。」

「馬鹿じゃねェの。ついでに鈍感。」

失礼な!

「はぁ!? いきなり何失礼なこと言っ…うわっ」

私の抗議の言葉は最後まで放たれず、ヤツの胸に吸収されていった。

「…ちょ、」

「本当、馬鹿だろお前。」

ぎゅっと抱き締められながら耳元で囁かれて、甘く腰が砕ける。
更に首筋に口付けを落とされて全身が粟立った。

「…や。」

「や、じゃなくてもっと、だろ。」

「勝手に脚色付けないで頂けますかこの野郎。」

「図星のくせに。」

クスクスと耳元で笑われて、私はギュッとヤツの肩に額を押し付けた。
きっと、絶対、真っ赤になっている顔なんてこいつには見せたくなかったから。

「なんでそうなかなか素直にならねェんだろうな、お前は。」

「私が素直とかキモチワルイだけでしょ。」

「ま、否定はしねェけど。」

しないのかよ。
内心だけで突っ込みをいれていると、ふいに背中に回っていたヤツの手が私の両頬を挟んだと思ったらそのまま上を向かされた。…しまった、油断した!!

「…はっ、真っ赤。」

「うるさいっ」

「ま、身体は正直だから許してやるとするか。」

だからなんつー言い回ししてんだっての!
そんな私の叫びは外に出ることはなく。
甘くて、とろけそうなキスを落とされれば、毎回私は何も言えなくなってしまうのだ。









朝寝坊な休日の朝は甘いキスを
(ん、)
(…最近、軽くだけだと物足りなさそうな顔するよな、お前)
(っはぁ!? 何言ってんの!!)
((ニヤ)朝からでも深いのがお好みなら、俺は一向に構わないけどー?)
(お断りしますー!!)



titie by なきむしシェリー様

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