短編

□後編
1ページ/3ページ

ある日の上田城。

私――こと、紗菜は部屋で下女と話していた。


「最近は佐助、真田忍隊に自分でやることを考えて行動させてるみたいね。自分は任務に行かずに城にいるし……なんだか自分がいなくても大丈夫なようにしてるみたい」


それを聞いた下女は。


「きっと忍隊のためでしょう。佐助様は本当に気の利くかたですから。それに佐助様がいなくなるなどそのようなことはございませんわ」


そうだね……と答えたとき急に襖が勢いよく開けられた。何事かと問うと息を切らせた下男が言う。


「佐助様が……佐助様がいらっしゃらないのです」


任務ではないのですか?と下女が聞くと下男は。


「佐助様は幸村様にも他の忍にも何も言わずどこかに行かれたようなのです。今までこのようなことはございませんでしたのに……」


私は妙な不安にかられ廊下に出た。

廊下では皆、佐助のことを探し、せわしなく呼ぶ声がする。


「紗菜殿……」


不意に呼ばれ振り返るとそこには真田幸村が立っていた。


「ゆき……」

「佐助が何処にいるか御存知か?」


ううん……と首を振るとそうかと残念そうに言うゆき。


「佐助が何も告げずいなくなるなど余程の事なのだろうが……」


そう言うゆきの言葉を頭上から降りてきた影が遮った。


「失礼……お二人に長から文を預かっております」


影……降りてきた忍がそう言った。

忍が差し出した手紙には、


真田の大将少し
用事ができたから帰れそ
うにない紗菜も元気で
何かあった
ら大将に言うんだよ


また会えるからね
それじゃあ



と書かれていた。

そうかと頷くゆきをよそに私は手紙を握り締め思わずその場に崩れ落ちた。


「紗菜殿、如何なされた?」と不思議そうに聞くゆきに私はやっとのことでもう佐助は帰ってこないと静かに告げた。

どうしてかと聞くゆきに私は手紙の最初の頭文字を読むように言う。

手紙の頭文字は真用う何ら……さ・よ・う・な・ら……

「さようなら」と書かれていた

そんな……と言葉を失うゆき。そして私は角間の山中での佐助との会話を思い出していた。

“俺様が死んだらどうする?”

きっとあの時もうすでに佐助は私と別れることを覚悟していたにちがいない。

だとすればきっとあの場所に……。

私は夢中で走り出し、二人でその話をした角間へと向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ