短編

□教師失格
3ページ/6ページ

――翌日


「チカちゃんその手どうしたの!?」


廊下を歩いていると保健医の猿飛佐助に呼び止められた。猿飛には仕事の相談事によく乗ってもらっていた。

手を見ると長く切り傷ができている。たぶん昨日の通り魔に切られたところだろう。


「切った」

「切ったって……あんた、とりあえず昼休みに保健室に来ること。いい?」


はぁ……面倒なことになっちまった。



***



――昼休み


猿飛に呼ばれたのでとりあえず保健室へ向かう。ガラ……とドアを開けると、


「お!ちゃんと来たね、えらいえらい」


と猿飛……そしてもう1人の姿があった。

とりあえず猿飛に昨日の出来事を話す。


「へぇ……それは大変だったね」


そう言いながら傷の手当てをする猿飛。


「……で、俺の目の前で弁当食ってる女は誰なんだ?」


俺の目の前でおそらく猿飛が作ったであろう弁当をもきゅもきゅと食べる女がいた。


「あ、2年1組の沙羅です。よろしくお願いします、長曽我部先生」


そう言って自己紹介した女。


「なんだ、生徒か」


すると包帯を巻きながらさらりと猿飛が言う。


「うん、生徒だけど俺様の“彼女”だから」


は……!?


「はぁ!?……ってぇ!」


思わず勢いよく立ち上がってテーブルに足をぶつけた。


「まあまあチカちゃん、座って」

「お前ら自分達の立場分かってんのかよ!?」

「分かってるから」


猿飛は急に真面目な顔になって呟くように言う。


「でも、立場は何であれ自分の気持ちに嘘はつけない」

「……っ!!」


でも……そんなのは……俺は……、

言おうとした言葉は口から出てこない。そんな沈黙を沙羅が破った。


「あ、そういえば。長曽我部先生がさっき言ってた通り魔に襲われた子、その子私の友達……もぐもぐ」


お前まだ飯食ってたのかよ!!じゃなくて……。


「マジか!?お前、三雲紗菜の友達なのか?」


「ってか……さっきまでその子ここにいたよねぇ?」


猿飛の問いにこくんとうなずく沙羅。


「さっきまで三雲がここにいたってどういうことだよ……」

「カウンセリングだよ。一応怖い思いしてるしね。沙羅が連れてきたの」

「そうか……」


あいつ学校に来てたのか、よかった。ホッと一安心する俺に、


「ってかチカちゃん、なんでそんなにその子のこと気になるのさ?」


……と猿飛が意味ありげに聞いてくる。


「そりゃぁ……俺が助けたわけだし、この学校の生徒だからだろ」


そう答える俺に、


「ふーん」


と短い返事をした猿飛と沙羅はどこか楽しそうに笑っていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ