BASARA多め

□月に恋する海の鬼
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今宵はとても綺麗な月が出ている。
そう言って微笑んで、元親様はまた酒を一口呑んだ。

「鬼が月見なんざおかしいかもしれねぇけどな」
「そんな。満月の時くらい鬼である事を忘れましょうよ」
「………ま。それもありか」

船の上で月見というのは、海賊である私達にとっては普通の事。
とは言っても満月なんかなくても私達はいつも陽気だし、空だって見飽きるくらいだ。
満月と分っていても、特に何もしない。まぁこの御時世。月見ごときで騒ぐのもおかしい。
しかし今日は何故か元親様自身が、月見を私一人に提案した。
しかも時刻はすっかり皆が寝静まった時。
私は重たい瞼を気力で開き、元親様の隣に座っている。

「にしても…何故月見なんてしようと?」
「んー…まぁ気分だな」
「酒なんか呑んで…二日酔いはしないでくださいよ?」
「その約束はできねぇかもな」

そこまで呑むつもりなのか。私は小さく溜息をつく。
一軍の大将、一国の主が二日酔いなんて、他の大名が知ったら笑うだろうな。
特に中国の毛利は絶対に鼻で笑って馬鹿にするだろうに。
そんな事を考える私に気付かずに、元親様は一口、また一口と酒を呑む。

「たまには酔っぱらいてぇ時もあるんだよ」
「何かあったんですか?元親様」
「あー……」

元親様は曖昧な返事を、漆黒の空に浮かぶ月をみながら言った。
その返事に私はどう対応したらいいのか分からなくなり、黙る。

「……………昔な、のんびり一人で月見した事があんだ」
「姫若子と呼ばれていた時、ですか?」

ああ。と元親様ははっきりと答えた
私は元親様が姫若子と呼ばれていた時代を知らない
知ったのは元親様が今の様な四国の鬼と呼ばれるようになった時だ
孤児であった私を引き取っていろいろと教えてくれた元親様
そんな優しい元親様の過去に、私は少し興味があった

「自室を抜け出して屋根に怖がりながら昇って、大きな月をずっと見ててよ」
「すぐさま気付いた女中が俺を見つけてな。朝まで怒られたさ」

その時な…と続く
私はじっと耳を傾ける

「月を見た時体が震えてな。体に何か湧き出て来るみてぇな感覚が走った」

両手を宙を舞いらせて元親様は表現する

「多分半刻くらいずっと座ってたな。寒さも時間も忘れてな…」
「そんなに綺麗だったんですか?」
「嗚呼。今よりずっと綺麗な満月だったぜ?」

にかっと満面の笑みを元親様は私に向ける
自然と私の顔にも笑みがこぼれる

「その時から月がこの世の中で一番綺麗なもんなんだって思いこんでてな。子供みてぇな事言うが、本当は宝の山より月が欲しいんだ」

元親様はふと右腕を天へと伸ばした。まるで月を掴むかのように
手のひらからこぼれる月光に私も少し酔いしれる

「素敵な夢ですね」
「……久々にこの野望を思い出して月見をしたくなったんだ」
「忘れてたんですか?」
「…馬鹿にされる野望だしな……」

そう照れくさそうに微笑む元親様は、綺麗よりも可愛いなと思ってしまった



月に恋する海の鬼










07.11.25


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