短編

□重いなぁ
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夕暮れ時、いつも二人で散歩に出かけてた。

相変わらず雨しか降っていなかったけれどそれでもあの人は私の手を引いてくれた。


私が何を言っても、どんなに言葉を並べようとも何も言ってくれなかったけど、あの人は帰りがけには必ず私をおぶってくれた。

あの人の顔はぼんやりとしか思い出せないのに、なぜかその背中の温もりは今も鮮明に覚えている。

もうあの温もりを感じる事はできないんだろうけどーー






****


「じゃーね、神楽ちゃん!」

「また明日ヨ〜」



ふぅ、とため息が無意識の内に口から零れた。

今日は少し疲れた…というのも、必要不可欠な傘を万事屋に忘れてきたまま遊んでしまったのだ。


本日は曇天の模様。

それが油断の元となったのだ。
いくら雲で太陽が隠れていても紫外線は嫌というほど空から降り注ぐ。

汗が頬を伝い地面に落ちた。



「…とにかく、はやく帰るネ」


やっぱり少し太陽に当たりすぎたようだ。

体は内側から火照ってくるようでこれはヤバイ、と直感的に感じる。


あと少し、あと少しで…




「あ…」



頭に感じた冷たい感覚。雨だ。


「ヤバイアルなー…」


はやく家に帰らないと。

でも体は思うように動かせれない。

傘ひとつ無いだけでこんな最悪な状況に置かれるなんて思いもしなかった。

本当に面倒だ…



そんな事を考えている内に、意識がどんどん遠ざかっていく気がする。

なんとか繋ぎとめようと粘るものの、視界はだんだんぼやけてきた。



「……っ…」



体中に冷たい感覚がした。






****




「かぐら、かーぐーら」

「!?っ」




「な、なななっ!!」

気がつけば眼前に広がる青とオレンジ。

そんなわけ、ない。けれど目の前の人物はヘラヘラと笑っている。

「なんでっ神威が!?」


ありえない事が起こっている。

いるはずのない兄、神威が地球にいるだなんてーー


「お前が道のど真ん中で倒れてたからね。雨も降ってきてたし路地裏に運んだんだよ」

「…なんでお前がここに」


銀ちゃんを襲ってきたんじゃ、と睨みを効かせると神威はしれっとした表情で言った。


「仕事だよ仕事。地球には美味しいご飯があるだろ?阿伏兎についてきたんだよ。」


「そうアルか…」


とりあえず人に危害を加える事ではないようなので一安心だ。

それにしても嫌な展開になってしまった。

よりによって体がこんな調子の時にーー…




「ところでさ、神楽はなんであんな所に倒れてたの?」



あぁ、今一番されたくない質問がきてしまった。

コイツの前で弱い自分なんて見せたくない。



けれどそれとは裏腹に体はいう事を聞いてくれない。

頭がくらくらするし、体の火照りは鎮まらない。



「…ほっとけヨ」


「いやーでも助けたのは俺だし?お前あのままだったら暑さにやられて死んでたかもよ?」

「雨が降ってたからほっといても死なないアル。それにお前に助けを求めた覚えはないネ」



ふん、と精一杯強がってやった。

神威は何がおかしいのかクスクス笑っている。


不愉快だ。



「もう帰るアル。じゃーな」




早くこの場から、神威から離れたかった。

しかし立ち上がろうとすると目眩が激しく私を襲う。


…やっぱり傘持ってこればよかった。


もう地を這っていくしかないのかもしれない。


そんな事を考えている時だった。




「…しょうがないな」




「へ…って何するネ!!」



急に体が軽くなったと思ったら私はなんと神威の背中の上にいた。おぶわれているのだ。


「降ろすヨロシ!!」


「俺、ペットの面倒は最後まで見るタイプなんだよネ」


「誰がペットじゃあぁぁぁっ!!」


「ほらほら、そんなに癇癪起こすとまた倒れるよ」


言いたい事は山ほどあるが、体は悲鳴をあげている。


「……っ」


ぎりりと歯ぎしりをし、諦める他ない、と悟った。


「あり、急に大人しくなったね」


「…もういいネ。早く連れていくヨロシ」


神威はふふっと笑った。

顔は見えないが。


「で、神楽今どこに住んでるの?」

「…家までじゃなくていいアル…」

「うーん、まぁそこら辺の人に聞けばわかるかな」




意識がぼやけてきた。


『兄ちゃん、眠いネ』

『…あと少しだから頑張りな』

『……うー…』


『……しょうがないな』





なんでこんな昔の事…


あの日以来もうありえないと思っていた。

でもそのありえない事が今起きているのだ。


こうして兄におぶってもらう事ーー




「あり、急に静かになっちゃった」


「……寝てもいいアルか」


「はは、世話がやける妹だね」






ねぇ、兄ちゃん。

私嬉しいんだヨ?


もう一度兄ちゃんとーー…







「…重いなぁ」









END



後書き

たまにはこういうほのぼのもいいですよね(^∇^)



お題配布6倍数の御題様より



 

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