短編

□あの頃に
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「晴矢、あのさ」

「あぁ!?なんだようざってーなぁ!!」

「…あ、ごめんね」


エイリア学園がなくなってから、俺たちはもといたお日さま園に戻っていた。

もちろん、いがみあっていた晴矢や風介も一緒に。


しかし関係が元通りになったわけではないのだ。

顔を見れば嫌みを言われるし、話しかけてもあんな態度で会話なんてもう当たり前になっている。


ーーもう、あの頃には戻れないのかなぁ



きっかけはなんだったんだろう。

昔は晴矢や風介ともたくさん遊んでいた。


でもだんだん晴矢も風介も俺を避けるようになってきた。

お日さま園内で俺が父さんに贔屓されている、という不満が流れていたのだ。

否定するつもりなんてない。

それは誰が見てもそうだったから。



ーーけれど父さんが俺を愛してくれるのは、俺がヒロトの替わりだからだ。

父さんは「基山ヒロト」なんて見ていない。父さんが愛したのは「吉良ヒロト」なんだーー



そんな事知るはずもないお日さま園の皆は、どんどん俺を疎外して、冷たい態度を取っていった。



俺が替わりだから?俺が「基山ヒロト」だから皆俺を嫌うのかな。

でもそんなのどうしようもないじゃないか。

だって俺はどうやったって「吉良ヒロト」にはなれないんだ。



だったら俺は一生一人なのかな。

もう皆で笑いあう事はできないのかな。




「っ!!ヒロト!?」




「ーー…」


「ちょ、何泣いてんだよ!!」



「…ごめん」




俺は知らないうちに涙を流していたようだ。

頬から伝う生暖かい感覚は俺に人肌を感じさせた。



「…晴矢は、俺が基山ヒロトだから嫌うのかい?」

「は?」

「俺が吉良ヒロトじゃないから、レプリカのヒロトだから俺を嫌うんだろ?」

「お前…何を」

「でも俺、吉良ヒロトにはなれないんだよ。本物のヒロトじゃなくてごめんね晴矢」




涙が、止まらない。


ぼろぼろと床を濡らす涙は止めどなく溢れてくる。





「…ごめん晴矢、変な事言っちゃったね」

俺はいたたまれなくなってその場から離れようとした。


「…まてよ」



がしっと晴矢は俺の腕を掴む。


…痛い。


「痛いよ、離して」

「…俺達はお前に対して勝手にひがんだり妬んだりした。…けどそれはお前が基山ヒロトだからだよ!」


「え…?」


「っだから!!俺らが勝手にお前に嫉妬してただけだから、悪いのは全部俺らでお前はなんにも悪くないんだよ!ごめん!!」


「…は、晴矢」



晴矢はなんと頭を下げていた。

「ちょ…顔上げてよ」


「何をしている、チューリップ」


そこへ風介や玲名、リュウジがやってきた。

晴矢の声が聞こえたんだろう。



「ヒロト、本当にごめん!!」


晴矢は風介が来たにも関わらずに顔を上げようとしない。


「お前が辛いの知っててあんな態度してたんだ…本当に悪かった。けど父さんがお前しか見ていないなんて思ったらムカついて…」


「でも父さんは…」


「父さんはどうであれ、俺たちのヒロトは基山ヒロトなんだよ!!」




基山ヒロトーー



「…俺たちもすまなかった。謝って許される事ではないが」

「風介…玲名…」



「「「ごめん、ヒロト」」」









叶うなら、あの頃みたいに皆で笑いあいたい。



俺は吉良ヒロトじゃなくて、基山ヒロトなんだからーー





END




後書き

初の無印!ヒロトくんマジで天使だと思います




 

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