短編
□伝えたい感情を全て押し殺して、僕はまた笑って見せた
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いつからだろう、こんなに自分の感情を表に出せなくなってしまったのはーー
「霧野、今日は天馬と帰るよ。少し練習の事で話がしたくて…」
練習後、神童がよそよそしく言ってきた。
こういうのは最近はよくあるので俺は別段驚きもせずそうか、と言ってみせた。
「悪いな霧野。じゃあまた明日!」
「あー…また明日…」
更衣室には俺以外の誰もいなくなり、ガランとした室内は俺にやけに孤独を覚えさせた。
はぁ、
溜め息を小さく溢し、自分の足を見つめる。
(…なんでなんだろう)
俺は自分というものをなかなか人に見せないタイプだ、とよく言われる。
別にわざと見せないんじゃない。
ただそれができないんだ。
さっきだって神童が他の奴と帰って「さみしい」とかそういった思いはあるはずなのに、それより先に神童を困らすまいという思いが込み上げる。
俺は感受性が乏しいのだろうか…。
「なーに考えてるんですかぁ?霧野先輩」
「わっ!!狩屋ァ!?」
いきなり視界に飛び込んできたくすみがかった青い髪。
ーーまだ人がいたとは。
「まだ帰ってなかったのか?」
狩屋は意地の悪そうな笑みを浮かべながらへらりと言った。
「霧野先輩が帰るまで待ってたんですよー」
「なんでだ…?俺に話でもあるのか?」
「いえ?ただキャプテンに捨てられた霧野先輩の顔を拝みたくて。」
(本当に嫌な奴だな…)
こんな奴に構ってたら疲れるだけだろう。
挑発に乗るほど馬鹿じゃないんだ。
「悪いが捨てられた覚えはない。俺の顔が見たいならいつでも見ればいいだろ」
「……」
狩屋は不服なのか何も言ってこなかった。
これで怪我でもさせられたりしたら嫌だなぁと思いつつ、俺は早く帰ろうと鞄を肩からかけた。
「…なんでそーなの?」
「え?」
「なんで霧野先輩って怒ったり泣いたり笑ったりしないわけ!?」
「は…いつもお前に怒ってるだろ」
「んな事言ってんじゃねーよ!!」
狩屋が俺の何に対して怒っているのかがよくわからなかった。
ただ狩屋の表情は今まで見た事もないくらい怒りに満ちていて、それでいて悲しげだった。
「さっきもそうだ!寂しいなら寂しいって言えばいいのに…なんでそうやってヘラヘラ笑ってるわけ!?」
「か…狩屋…」
「誰にも本音漏らさないで、なんなんだよマジで…!!」
狩屋ははーっと大きな溜め息を吐いて頭を抱えた。
「そんな事自分が一番よくわかってるんだよ」
「っ!!」
「…でも、ありがとな」
狩屋の肩をぽん、と叩き俺はいつものように笑ってみせた。
END
後書き
どうしても自分の感情を押し殺してしまう蘭丸と、自分には本音を漏らしてほしいと願うマサキくん。
お題配布6倍数のお題様