短編
□罪人たち5
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「神楽…」
はぁはぁと息を弾ませながら現れた神楽。
「神威」
神楽の長い髪は風に靡いてとても綺麗だった。
「…用が終わったならさっさと帰ろうか」
神威は椅子から立ち上がり神楽の手を引く。
「待って」
「……」
神楽は神威の手を掴みこちらへ向かせた。
神威は怪訝そうに神楽を見ている。
「…お前に言いたい事があるネ。」
ふぅと溜め息をつく神楽。
「私、ずっとお前の事が憎かったネ。」
「……」
「私がこんなに辛いのは全部お前のせいだって思ってた…だから憎かったアル。」
神楽の瞳に偽りはない。
だからこそ逃げる事は許されないのだ。
「…いいよ、憎しみでお前が強くなるなら大歓迎だ」
「逃げんじゃねーヨ」
怒りを含んだような言い方に神威は肩を揺らす。
「もうお前と向き合わなきゃいけないのヨ。強者弱者じゃなくて人として」
「……ふーん」
「神威、私は現実を全部憎しみに変えて逃げてた。神流の事も自分の負い目から逃げる為に冷たく当たっていたネ。」
「…うん」
「でもそれじゃ駄目だってわかったのヨ。いつまでも逃げてばかりじゃ…」
神楽は意を決した様な顔で神威を見た、
「…お前は私の兄貴である事には変わりないアル。でももう昔みたいな風にはなれないのもわかってる。…だけどお前を男として愛する事はやっぱりできないネ。」
「……」
「だから…私はお前を神流の父親として愛するネ」
ぶわっと風が二人の間を駆け抜ける。
一歩進む事もできない様な緊張感が辺りを取り囲んだ。
「…なんで…だよ…っ」
「…かむい…?」
神威の力ない声が神楽を不安にさせた。
「なんで…愛するなんていえるんだよ!!」
神楽は目を見開かせ硬直した。
それほど神威の声は今まで聞いた事のないような荒ぶった声だったのだ。
神威はふるふると拳を握り俯いていた。
そして次の瞬間ーー
「っ!!ぐ…」
「なんで愛するなんて…」
神威は一瞬にして神楽の首を掴み神楽の呼吸を妨げた。
首に巻き付いた指は白く、血の気がない。
「…俺がお前に何をしたのかわかってるのか?父さんの腕を取って母さんとお前を捨てて。挙げ句お前を無理矢理犯して近親相姦なんて枷を作った俺を?愛するだって!?」
「…!」
「なんでだよ、教えてよ神楽!!俺は…」
ぽたりぽたり
そう神威の青い瞳から落ちた雫は地面に広がり青を写した。
「……はは…情けないなぁ…」
すっと神威は神楽から手を離した。
「欲しい物があったって…言葉がなければ手に入らないのにね」
「……」
「神楽、お前はもうここに残りなよ」
「え…!?」
「もういいんだ。お前は俺を愛すると言ってくれた。俺はお前に愛される資格なんてないよ」
「神威…」
神威は力なくははっと笑った。
「俺は愛するとか、愛されるだとかそういう事がわからないんだよ。だから罪の意識なんてこれっぽっちもなかった。こんな俺はお前の傍にはいられない」
「……」
「…神流はお前が連れていってね。こんな父親じゃろくな大人にならないだろうし」
「…愛して…くれた…ネ」
「え?」
「神威は…兄ちゃんは私の事愛してくれた。女としても妹としても」
神楽はふんわりと砂糖菓子の様に微笑んだ。
「ありがとう、愛してくれて」
俺が犯した罪は許される事じゃない。
愛がわからない、なんて言う言葉で逃げて愛する人を傷付けた。
けれど、許されない事だとしても
俺は愛し、護るよ。
それがただ一つできる事だからーー
「愛してる、神楽」