短編

□見ているのは誰
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「サドの事が好きアル」



世界が変わった気がした。


密かに恋心を抱いていたチャイナが俺に言った一言で、薄暗い世界に明るい光が射した様。


「お、俺も好きでさァ!!」




チャイナの笑顔は何故か寂しそうだった。





****



「チャイナー」

「あっ総悟!何してるネ?」

「バーか、チャイナに会いにきたに気まってんだろィ」

「そっそーご…恥ずかしいアル」


俺とチャイナはかぶき町の公認カップルとなった。

ま、美男美女が付き合ってるんなら噂になってもおかしくはないだろう。

だから俺はわざと外で見せつけるような素振りを見せていたのだ。

チャイナはというと恥ずかしそうに頬を赤らめるも抵抗する事なく俺に応えていた。


本当にこれがあのチャイナなのか?

すごく可愛い。


いや、チャイナは元々可愛いけど照れたりする顔とかは本当に愛らしい。


以前の様に喧嘩はしなくなったものの仲は以前にも増して近くなった。



チャイナがいるだけで毎日がキラキラとしている。

あぁ、愛する人といるだけで人はこんなにも変われるんだ。



チャイナは俺にとって無くてはならない存在。


それはチャイナも同じだと思っていた。



****



俺達は相変わらず仲が良かったが、気になる事があった。


チャイナは俺に「神楽」とは呼ばせないのだ。


咄嗟に俺が「神楽」と読んだらチャイナはビクッと跳ねて逃げ出してしまった。

それはあれだ、一種の照れ隠しだろうと思いその日は帰った。

しかし次の日神楽は俺にキッパリ言ったのだ。


「名前では呼ばないでほしい」と。


もちろん「は?」な話である。

俺達は公認の恋人同士。

いつまでも「チャイナ」なんて呼び方は少し違うんじゃないかと思う。


それにチャイナは俺の事を「サド」ではなくちゃんと「総悟」と呼んでいるのだ。


どうにも納得できずチャイナに理由を聞いても何かモゴモゴ言って誤魔化していた。


腑に落ちない点もあるが、神楽がビクビクしながら言うのであまり気にしない事にした。




しかしその数日後の事。



公園へ行くとチャイナがスヤスヤと昼寝をしていた。


あぁ可愛いな、なんて思いながらチャイナに近づく。


相変わらず無防備な寝方をしているチャイナ。


思わず顔が綻びずり落ちている傘を立て直した時だった。




「…に…ちゃん…」


「?」


微かに聞こえたチャイナの寝言。


にーちゃん…?


チャイナに兄貴がいるなんて聞いた事がない。

まぁあまり家族の事を知らないから…


そこでふと思ったチャイナの家族。


そういえば何で知らないんだろう。


よく考えれば俺はチャイナの事を何も知らない。

チャイナの家族もチャイナが何処から来たのかも何も知らない…


そもそも、チャイナはあまり自分の事を離さないのだ。


いつも俺が話手になってチャイナは聞き手。


なんだかモヤモヤしたものが胸の中で渦巻く。



「…にーちゃ…」






「…行かないで…ヨ…」



「!!」


チャイナの閉じられた瞳からは涙が流れていた。


「チャイナ…」



俺に名前を呼ばせない、


自分の事を話さない…





お前は俺を必要としているのか?




 
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